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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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話し合いとうどん

 


 聖女の専属について話しをしようとしたところでレニーがクラウスを連れて応接室にやってきた。そろそろ皆が集まる時間のようだ。

 クラウスはリュシアン陛下がいることに少し驚いたようだがレニーは違った。マルセロに加えて見目のいい男が増えているのだ、全身から喜びのオーラが出ているように見える。


「リュシアン陛下、お久しぶりです。」


 クラウスがそう言って陛下の前で膝をつけば、レニーもそれに合わせて挨拶する。


――レニーは公私の区別がきちんとつけられる大人だね。どっかの魔導師コンビにも見習って欲しいよ。


「堅苦しい挨拶はやめてくれ。今後は近衛騎士団の一員としてここに来るからいつも通りでいい。」

「いつも通りって普段から親交があるんですか?」

「ああ、子どもの頃から一緒に鍛練している。」


 リュシアン陛下は前近衛騎士団の団長だったクラウスとトラヴィスの父親から剣術や体術を教わっていたそうだ。歳の近い二人とはいつも一緒に鍛練したり遊んでいたという。


「私はお昼の準備があるので調理場へ行きますけど、陛下は城へお戻りになりますか?」

「いや、この後の話しに参加させてもらいたい。私には信用できる人材が少しでも多く必要だ。」

「ではここはクラウスさんにお任せしますね。到着した皆さんの紹介と、情報の共有をお願いします。」

「じゃあ、あたしはここでお茶を出すわね。」


 レニーはテンション高めにお茶出しに名乗りを上げたが、召集した人数が多いので、私とリゼルダだけでは昼食の準備が大変なのだ。


「いえ、レニーさんには食事の準備を手伝ってもらいます。さあ行きましょう。」

「いやよ。ここでいい男を眺めていたいの!」

「後でゆっくり眺めればいいじゃないですか。リゼルダさんが待ってますから急ぎましょう。」


 レニーは体格がいいので、押しても引いても簡単には動かない。だがリゼルダの存在を持ち出せばしぶしぶでも動くのだ。この館でリゼルダに勝てるものはいない。

 調理場ではリゼルダが昼食の準備を始めていて、アルフレッドとジグセロがお茶を飲んでいた。


「あら、こんにちは。もういらしてたんですね。」

「こんにちは、リオーネ、レニー。最近はここでお茶を飲む方が多いので、真っ直ぐこっちにきましたよ。」

「お寛ぎのところ申し訳ないんですけど、応接室にリュシアン陛下がいらしてるので、挨拶と情報の共有をお願いします。」

「陛下が?リオーネ、今度は何をしたのですか?」


 アルフレッドが驚きの表情を見せた直後、心配そうな顔で聞いてきた。


「私は何もしていません。リュシアン陛下は味方を増やしたいそうですよ。」

「そうですか。何も起きていないなら安心です。では私たちは応接室に行きましょうか。」


 そう言ってアルフレッドはジグセロとともに調理場から出ていった。

「リオーネ、昼食のメニューはこのままでいいのかい?」

「ええ、変更はないですよ。リュシアン陛下は今後トラヴィスさんと同じ近衛騎士団の一員として来るらしいので特別なことは必要ありませんね。」


 リゼルダはいつも裏方を一手に引き受けてくれているので、調理中は報告をしながらアドバイスをもらったりしている。

 この世界の常識に疎い私にとってリゼルダは先生のようなもので、数少ない尊敬できる人物である。


「それにしても陛下がここで味方を求めるってことは、城には味方がいないのかい?」

「そうですね。今は文官長が権力を振りかざして好き放題やってるみたいですから。」


 昼食の後は話し合いが始まったが、あらかじめ情報を共有してもらったことで、面倒な報告が少なくて楽だった。

 ウォルフの修道館についての報告では、陛下はもちろんトラヴィスやダルフォード、マルジグ兄弟も驚いていたようだ。


「先程マルセロさんから専属聖女のお話しがありましたが、ウォルフさんからの報告とは違うんですよね?」

「ええ、うちの専属聖女は私の祖父の代で専属になりましたが、修道館からの通いではなく我が家に第三夫人として部屋もあります。当然ですが閨事はないので子どもはいません。」

「それはトラヴィスさんから聞いていた専属聖女の話しと同じなので、捧げ物にされているのはここ最近のことなのでしょうね。ウォルフさん、その後新しい情報はありますか?」


 私がウォルフに話しを振ると皆がウォルフに注目したが、ウォルフは険しい顔で報告を始めた。


「俺が調べた限りでは捧げ物としての勤めを終えた聖女は修道館を出ているようだ。隔離されている聖女の一人が早く楽園に行きたいと呟いたのを聞いただけだから詳しいことはまだわからない。」

「修道館に潜入している人からの情報はどうですか?」

「ダメだ。上級聖女の我儘に振り回されて情報を得るどころじゃないらしい。かわいそうなくらい疲れ果てていたぞ。」


 聞いているだけで情景が思い浮かんでくる。それは確かにかわいそうだ。


「情報が得られないなら早めに離脱させてあげた方がいいですね。それから、内部の情報をどうやって探るか考えないといけませんね。」

「リオーネが修道館へ入って調べればいいのではないか?」


 ここでリュシアン陛下がとんでもないことを言い出した。


「嫌です。」

「だが、そなたは聖母で修道館へは堂々と潜入できるし、上級聖女の我儘に振り回されることはないであろう?」


 確かにそうだけど、修道館に行けば子どもたちと一緒にいられなくなる。


「子どもと離れてまで修道館に行く意味がありますか?」

「修道館の改革がしたいと言っていたであろう。好きにしてもよい。」


――協力を要請したのに、丸投げしてきたよ。


「でも、直ぐには無理ですよ。狩に行く予定がありますから。」

「それなら二週間後に出発します。魔導師団の人選も終わりましたし、騎士団の方も準備が整いました。」


 マルセロの報告にリュシアン陛下は頷き、調査の後に修道館へ行くことが決まってしまった。

 そしてエレインからの報告では、文官長と繋がりのある貴族たちのリストから、下級貴族のほとんどが文官長に取り込まれていることがわかった。

 上級貴族はマルジグ兄弟の家を始め、いくつかは味方だとわかっているので、今後は情報の共有を進めたいところだが、城の中では文官長に筒抜けになる危険性が高く、かといって貴族がこぞって館へ来ると直ぐにバレてしまうだろう。

 それに館の応接室はそこまで広くないし、今でも食事の準備や給仕の人員が足りないくらいだ。


――会議室と専用の調理場が欲しいね。っていうか私のやること多くない?


「私の身体は一つしかないので、順番に片付けていきましょう。ジグセロさんはスピグナスの解体をお願いします。魔石はリュシアン陛下に、マルセロさんが目を欲しがっているので交渉は任せます。お肉はもちろん全部うちが引き取ります。」

「お任せください。」

「リュシアン陛下は病人のふりを続けてください。あまり頻繁にここへ来るとバレてしまいますから気をつけてくださいね。」

「クラウスさんはこの後お願いしたいことがあるので残ってください。」

「うどん?」


 エレインがガバッと顔を上げて聞いてきたので、皆の視線が集まってしまった。そしてリュシアン陛下とトラヴィスを除いた皆が夕食も館で食べることになった。


 うどんを作るのにはとにかく力がいるので、クラウスだけでは大変だと思っていたが、今日はウォルフもいるしレニーが戦力になったので思ったより早くできそうだ。

 応接室から全員移動してきたので、調理場は人口密度が高かった。


「ここもそうですけど、応接室も狭くなってきましたよね。これから貴族たちが会合に加わるようなら会議室と専用の調理場を建てた方がいいと思うんですけど。」

「ボスに賛成。玄関から回るのめんどくさいから外から直で入れるようにして。」


――回って入ってきたことなんて無いよね。


「どんな建物が必要ですか?」


 アルフレッドが問うので私が思い描いていることを説明していく。


「まず、会議室は召集する人数がわからないのでかなり広めに欲しいです。長方形の部屋にして、途中で仕切れるようにすれば、人数によって広くも狭くもできますよね?」

「円卓じゃないの?」

「露ちゃん。それだと人数多いときに真ん中のスペース無駄よね?」

「ああ、なーるー。」


――なーるー。じゃなくて「なるほど」って言って!短縮にもなってないし。


「二階には個室をたくさん作ります。」

「宿泊できるようにですか?」

「いえ、個室の広さは転移陣を展開できるだけのスペースがあれば十分です。転移できれば宿泊する必要もないですし、ここへ集まっていることがわからないでしょう?」


 話し合っている間にエレインが図面を描いていく。


「ねえ、ボス。調理場を挟んで会議室の反対側にうちらの食堂を建てたら?ここ狭いし。そんで食堂の上を孤児院にしたらいいんじゃない?」


 エレインから孤児院の話が出たので、私はリュシアン陛下と竜人族の子どもたちの養子縁組について話し合ったことを報告するためにシノを呼んできてもらった。


「グレイとソフィの養子縁組はリュシアン陛下の承認を得て成立しました。」


 私の言葉にタカとシノはとても喜んでいた。それと同時に竜人族の子どもたちのことが気になるようで、続きを促された。


「竜人族の子どもたちについては、前例がないので私が提案した育て親になるということで承認を得ました。」

「リオーネ。育て親とは何だ?」

「言葉の通り、成人を迎えるまで親として子どもたちを育てるんです。」

「孤児院とどう違うんだ?」

「そうですね。今でもシノさんは子どもたちを我が子同然の愛情を持って育てているので、見た目には変わりないですが、育て親になることで子どもに対しての決定権を得ます。簡単に言うと役所を通す必要が無くなるんです。」

「養子縁組と変わらない気がするのだが。」

「違いは戸籍の親の欄だけです。グレイとソフィの戸籍の親の欄は養子縁組によってタカさんとシノさんになりましたが、育て親の場合戸籍の親の欄は変わりません。竜人族の子どもたちが成人後竜人族の国に帰るという選択肢を残すためです。それ以外はおんなじですよ。それを踏まえてもう一度子どもたちにどうしたいのか聞いてみてください。国の運営している孤児院がある以上ここは孤児院ではなくタカさんとシノさんの家ということで設計しましょう。」


 エレインがタカに間取りの希望などを聞いて設計図を描いていく。それをアルフレッドやジグセロが興味津々で覗き込み、隣ではダルフォードとマルセロがリンネットに調査についての説明をする。うどん組は慣れてきたようで、話しをする余裕が出てきた。

 私はリゼルダと豆腐を揚げて煮込んでいく。ちびちゃんズの大好きなきつねうどんを作るのだ。他にも肉うどん、天ぷらうどんと準備していく。


 レニーは一人疲れたと騒いでいたが、うどんを食べた後は「この味ならまた作ってもいいわ。」と言っていた。うどんは大人にも子どもにも思った以上に好評だった。そしてエレインのヤル気も出たようで、仕事が早かった。


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