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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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夕食報告会と孤児院

 


 夕食の準備をしている間、魔導師コンビとアルフレッドはずっと調理場で話しをしている。

 調理場は広いので邪魔にはならないが、摘まみ食いを阻止するのが大変だ。振り返ると魔導師コンビの口がモグモグと動いている。


「それ以上食べると夕食が無くなりますよ!」


 摘まみ食いを防ぎながら話しができるようにカウンターでもつけようかと考えていると玄関のチャイムが鳴った。

私はリゼルダに調理場を頼んで玄関へ向かう。


「こんばんは、クラウスさん。皆さんお揃いですよ。」

「早めに来たつもりだったが。」

「アルフレッドさんは昼すぎに来て、ダルフォードさんとマルセロさんは昼前に来て、昼食も食べてそのままいますからね。」

「なるほどな。それで……。そっちは応接室じゃないだろう?」

「ええ、皆さん調理場でお話ししてらっしゃいますよ。」


 私がクラウスを調理場へ連れて行くと三人とウルフたちがリゼルダに怒られていた。


「摘まみ食いを止めないと調理場への立ち入りは禁止するよ!」


 性懲りもなくやらかしたようだ。本当に困った大人たちである。そしてアルフレッドは食べてもいないのに一緒に怒られているようだ。

 先に子どもたちが夕食を食べるので、食堂に料理を運んでいく。クラウスは大きなスープ鍋を運んでから、子どもたちを呼びに行ってくれた。


「まったく、手伝いもしないで摘まみ食いばっかりして、子どもたちの手本にもなりゃしないじゃないか。」


 今日のリゼルダはとことん機嫌が悪い。アルフレッドは慣れているようで、笑いながら話しかけていたが、魔導師コンビは少し距離をとっておとなしくなっていた。



 大人たちの夕食が始まると、最初に話しを始めたのはクラウスだった。


「ウォルフからの報告では、今日の昼前に修道館からアリシアが脱走したと届けが出たらしい。」

「脱走するとどうなるんですか?」

「見つかれば衛兵が捕らえて修道館に連れ戻すのが普通だが、今回は俺が修道館にアリシアの所在を尋ねたときに追放されたと聞いていたので、そのときに追放者として手続きをした。よって脱走の届けは受理されなかった。」


――さすが、先を読んで行動できるって素晴らしいね。


「私は一応明日にでも孤児院を訪ねてみましょうか。」

「ああ、あちらの反応を見てきてもらいたい。」


 アリシアの存在はしばらく隠す方向で決まった。館にいる限りは安全なので、以前のように子どもたちのお世話をしてもらう。


 そして、私が鑑定で敵を認識できるようになったことを改めて説明して、今後は警戒対象を共有することになった。


「たっだいまー。晩ごはん残ってる?」


 そう言って窓からエレインが入ってきた。


「ちゃんと玄関から入ってきて。」

「ぐるっと回るのが面倒。それより、新しい情報欲しい?」


 エレインの言葉に皆が関心を示したので、今日はそのまま席に着かせた。エレインの前に食事を用意していると、ウォルフが扉を開けて入ってきた。


「ほら師匠、やっぱ玄関から回ると時間がかかるでしょ。」


 ということは、ウォルフとエレインは一緒に帰ってきたのだ。私は大きなため息をつくと、ウォルフにも席についてもらい食事を出した。


「新しい情報とはなんだ?」


 クラウスがウォルフとエレインに尋ねると、ウォルフが話し始めた。エレインはウォルフに丸投げで夕食を食べている。


「修道館だが、調べてみるとおかしなことだらけだ。ちょっと食事中にできる話しでもないんで、終わってからにさせてもらう。」


 そう言ってウォルフも食事に集中したので、皆食事を終わらせてしまうことにした。

 魔導師コンビは摘まみ食いのしすぎで満腹らしく、既に食事を終えていた。



 全員揃ったことで、王族との面会からお披露目の舞踏会、その後の帰り道アサシンに殺されかけたことまでを話していく。

 そしてウォルフとエレインから修道館についての情報を聞く。


「修道館では、貴族の専属になった上級聖女たちが隔離された生活をしていた。それも集団で部屋に押し込まれているって感じだ。」

「それってすごく変ですね。貴族の専属になると第二、第三夫人と同等の扱いで、生活も豊かになるはずでしたよね?」

「そのために上級聖女は少しでも地位の高い貴族を狙っているって話しだな。」


 ウォルフの情報と世間に広まっている話しにかなりズレがある。


「実は舞踏会には専属の聖女が全く参加していなかったんだ。」

「では、来ていたのはまだ専属になっていない聖女たちだったんですね。」

「そうだ。今わかっているのは、専属になった聖女が貴族同士の会合などで捧げ物にされているってことだ。」

「それは当たり前のことなんですか?」

「いや、世間的には能力の高い聖女を専属にすることで、家族の健康を守りひいては子孫繁栄につながるとしているが、実際は接待としての捧げ物だ。」

「おそらくそれを専属になる前の聖女たちに知られないように隔離しているのだろう。」

「詳しいことはこれから調査していく。」


 ウォルフはエレインを修道館へ潜入させるつもりらしいが、クラウスがそれを止める。


「すまないが、エレインには文官長の調査を頼みたい。修道館へ潜入させるのは騎士団から選んでもいいのではないか?」

「まあできなくはないが、情報量は当てにならんぞ。」


――露ちゃん何気にすごいんだね。


「師匠。どっちが優先?」

「文官長だ。」

「りょ!」


――りょ!っじゃないよ。まったくもー。


「あー、それはいいんだけど、頼んでおいた設計の方は進んでる?」

「大丈夫。ボスの構想メモとノートから好きそうなの引っ張ってきて五枚ほど描いてあるから、好きなの選んで。修正はできるけど仕事片付けた後になるかも。」


 そう言ってアイテムボックスから設計図を出して見せてくれた。

 元の世界にいるときは折り込み広告に入っている建て売り住宅やマンションの間取り図を見ながら買う予定もないのにあれがいい、これがいいと話していたので、エレインは私の好みを熟知している。それはもう全部建てたいぐらい最高の設計図だった。


「すごいじゃん。これ!織物と仕立てで工房二つに保育園でしょ。小学校もタカさんにオッケーもらったから作れるし、全部いける。後は中央に調理場と食堂を建てれば完成だよ。露ちゃん最高だね。」


 興奮して踊り出しそうな私に皆が唖然としている。そこへエレインがとどめを刺してきた。


「それからこれはプレゼント。ボスの夢の家。」


 私が以前、家を建てるならこんな家がいいと熱く語っていたものが形になっていた。

 あまりの嬉しさに魔力が身体中を駆け巡っているような感覚になり、いきなりドカンと吹き出した。

 辺りにキラキラと光の粉が舞っている。皆が固まっている中で魔導師コンビが光の粉を集めようとしていたが、触れると雪のようにスッと消えてしまった。


 一体何が起こったのか誰にもわからなかった。


「今の光はなんだったんでしょうね?」

「出した本人がわからないのなら、俺たちにわかるわけないだろう。師団長様は何かご存知ですか?」


 そう言ってクラウスはダルフォードに尋ねる。


「いや、聖母についての文献はほとんど無いと言っていいぐらい少ないのじゃ。光の粉の記述は見た覚えがないのう。」

「じゃあ、わかるまで放っておきましょう。」

「そういうわけにはいきません。」

「だって、わからないことをいくら考えても時間の無駄でしょう?もう二度と起こらないかもしれないですし。」


 光の粉はもう消えてしまったのだからどうもこうもしようがない。それよりさっさと問題を片付けないと、工房の計画が進まないのだ。


「とにかく、調査をしないことには動けないので、エレインが文官長、ウォルフさんが修道館、、ダルフォードさんとマルセロさんはロドリア先生、私は明日孤児院に行ってみます。」

「では俺はトラヴィスと情報交換してくる。」

「私は木工工房から出来上がった織り機を運んできましょう。」


 私が各自のすることを確認すると、クラウスとアルフォードもやるべきことをあげていく。


「織り機ができたんですか?」

「ええ、明日受け取りに行く予定です。」

「リオーネ、やること終わってからだよ!」

「はい、もちろんです。」


 今日はリゼルダに逆らってはいけない。機嫌が治ればちょっとぐらいは触らせてもらえるかもしれないと思いながらグッと堪えた。




 次の日朝食を終えるとすぐに孤児院へ向かった。

 なんとしてもアルフレッドが織り機を運んでくる前に終わらせておきたかったのだ。

 孤児院ではソフィが出迎えてくれた。


「久しぶりね、ソフィ。グレイも元気にしてる?」


 ほんのちょっと見ないうちになんだか痩せた……というよりやつれた感じがした。

 ソフィは私を見て笑顔で駆け寄ってくれたが、一度ぎゅっと抱きつくとその目には涙が溢れてきた。


「リオーネさん。皆リオーネさんの家にいるんでしょ?私たちも連れて行って。お願い。」

「何かあったの?」

「アリシアがいなくなったの。」


 それは知っているが、アリシアの代わりに中級聖女が派遣されてきているはずだ。ソフィの涙はただアリシアがいなくてさみしいといった感じではなさそうだ。


「グレイはいるの?」

「ううん、朝食のパンを買いに行ってる。」

「えっ?まだ朝食を食べてないの?」

「リオーネさん?」


 ソフィと話しているところにグレイが戻ってきた。

 かごの中にはキレイなロールパンとちぎれかけたり、ちょっと焦げているいわゆる屑パンが入っていた。


 それを見てなんだか嫌な予感がした。


「屑パンはおやつにするの?」

「違うよ。僕らが食べる分だよ。」

「ロールパンを食べればいいじゃない。どうしてわざわざ屑パンを食べるの?」

「ロールパンは聖女様の分だよ。それよりソフィ朝食の準備は終わってるの?」

「待ってグレイ。あなたたちが朝食の準備をするなら、新しい聖女は何をしてるの?」

「まだ寝てるよ。起きる前に準備しないと怒られるんだ。」


 嫌な予感は当たっていたけど、想像以上の答えに怒りが込み上げてくる。

そのまま聖女の寝室に怒鳴り込んで説教をしてやりたい気持ちをなんとか抑えて、グレイとソフィに笑顔で声をかける。


「近いうちに必ず迎えに来るから、もう少しだけ待ってて。」


 そう言ってアイテムボックスからクッキーや蒸しパンを出して二人に持たせた。


「私が来たことは内緒にしておいてね。」


 そう言うとグレイは頷き、泣いているソフィを連れて中に入っていった。私はそのまま冒険者ギルドに向かい、ギルド長に取り次いでもらった。

 ギルド長の部屋に通され、扉が閉まった瞬間私の怒りが爆発した。

 孤児院での出来事を怒りに任せて捲し立て、全て吐き出すとちょっとスッキリしたので、ソファーに座って一息ついた。


「よくここまで我慢したな。リオーネにしては上出来じゃないか。」

「私もそう思います。」


 クラウスだとわかったけれど、ヴィンセントの姿で誉められるとご褒美感が増す。癒し効果も桁違いで怒りがスーっと消えていく。


「グレイとソフィを助けるにはどうしたらいいんでしょう?」

「手っ取り早く孤児院から出すには養子縁組みすることだ。ガルーたちのように強引に引き取るのは、修道館の調査が終わるまでは避けたいな。」


 それはわかるが、すぐにでも二人を出してあげたい。養子縁組みをするにしても、私では話しがややこしくなりそうなので、帰ってリゼルダに相談することにした。

そして佐平次を孤児院に向かわせ、様子を見て報告するように頼んだ。


「俺はこれからトラヴィスに会って、昨日の話しと孤児院の現状も話してくる。」

「ことによっては修道館の組織自体を解体しますって伝えてくださいね。」

「リオーネ、また説教が聞きたいのか?」

「あー、じゃあ今のは無しでお願いします。」

「わかった。無断で決行も無しで頼む。では、行ってくる。」


――ヤバイね。クラウスさんに読まれてるよ。


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