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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
40/80

イライラの舞踏会と危険な帰り道

 


「知っている者とは誰じゃ?」

「ここでは言えませんが、そのお話しもしたいので、明日の夕食を一緒にいかがですか?」

「メニューはなんですか?」


 ジグセロが身を乗り出して聞いてくる。


――何でそんなにがっつくの?普段の食生活が気になるよ。


「明日はイグレットバードを出す予定です。バッセレイもまだ残っていたと思いますけど。」

「それは楽しみじゃのう。」

「それでは、また明日。私はアルフレッドさんをお誘いしてきますね。」


 そう言って三人の世界から抜け出し、アルフレッドを探した。


「主、アルフレッドはこっちにいる。」

「誰かと話している。」


 助格コンビが見つけて教えてくれる。私が近くまで行くと、アルフレッドが気づいて、話している男性を紹介してくれた。


「リオーネ、ちょうどよかった。私の幼なじみのアイザックです。」

「アイザックです。お会いできて光栄です。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」


 アイザックを見ればすぐにわかった。リゼルダそっくりだ。


「おわかりと思いますが、リゼルダのお兄さんです。」

「ええ、似ていらっしゃいますね。」


 アイザックはちょっと眉間にシワを寄せたが、すぐに笑顔に戻り話し始めた。


「リオーネ様のお作りになるものは、この世界では大変珍しく高値がついています。どこの店も取引を望んでいますよ。」

「そうなんですか?でも今はジグセロさんとリゼルダさんのお店にしか出してないんです。工房ができないと商品も作れませんし、先のことはわからないですね。」

「リオーネ様はリゼルダと取引しているのですか?」


 アイザックは驚いたような顔をしている。


「ええ、そうです。今は一緒に暮らしているので、これからは工房の立ち上げに協力してもらうつもりです。」

「リゼルダを通してうちに卸してもらうことは可能ですかな?」


 アイザックが商人スマイルで取引を申し込んできたが、目が笑っていない。私は背筋がゾクゾクして一歩下がった。


――リゼルダさんは結婚を機に絶縁してるって言ってた気がするんだけど……。


「アイザック、今さらリゼルダに何を言っても無駄だよ。それだけのことをしたんだ。諦めろ。」

「だが、それではうちの店が……。」

「それは自分でなんとかするしかないよ。」


 アルフレッドとアイザックが何を話しているかはわからないが、リゼルダとアイザックの間に深い溝があるのは理解できた。

 再び目が合ったとき、アイザックの上に矢印が現れた。どうやら敵意を持っている人の上に矢印がついているらしい。

 私はアルフレッドに矢印のことを簡単に説明して、明日の夕食に誘った。

 アルフレッドもいくつか気になることがあるからと、夕食の招待を受けてくれた。



 舞踏会なので、ずっと音楽が鳴り響き、誰かが踊っている。けれど、私の背中は限界が近かった。痛いわけでも、疲れたわけでもないが、とにかく丸くなりたいのだ。

 子どもたちの前ではできないが、背中を丸めて肘をついて紅茶をズズっとすすりたい。


 アルフレッドに帰りたいと愚痴をこぼしていると、助格コンビが声をかけてきた。


「主、嫌なヤツがいる。」

「臭いヤツだ。」


 助格コンビが見ている方向にギリングと聖女たちの集団がいた。矢印が付いているので間違いない。

 めんどくさいから無視でいこうと視線を逸らしたが、向こうから近づいてきてしまった。


――今ものすごくイラついてんのに。またトラヴィスさんに怒られるじゃない。お願いだからこっちにこないでー。


「あら、処刑されたと思っていたのに上手いこと逃げたのね。」

「逃げてなどいません。ちゃんと出していただきましたし、衛兵からの謝罪も受けました。」


 この大きな態度は何なのだろう。パンディアの地位を理解していないのか、ギリングも余裕の笑みで見ている。


「あなたみたいなおばさんがクラウス様にエスコートしていただくなんて、なんて厚かましいのかしら。王族がなんと言おうが修道館に属さないあなたは聖母とは認められないのよ。」


――いやいや、王様が決めたら認められるんだよ。馬鹿なの?


「きっとすぐに庶民に戻ることになるんだから、そのとき慌てても遅いのよ?」

「庶民に戻ったところで慌てることも困ることも特に無い気がしますけど。」

「強がっていられるのも今のうちよ。それよりアリシアはお元気かしら?」

「さあ、最近忙しかったから、孤児院へは行ってないの。でもあなたがわざわざ気にかけるなんてちょっと心配ね。近いうちに様子を見に行ってみようかしら。」


 アイーシャがまた勝ち誇った顔をしている。

 アリシアを話題に出すことで、何かしましたって言ってるようなものだとは思わないようだ。教育が足りないのか、元々が残念なおつむなのか。どちらにせよ相手をするだけ時間の無駄なのは確かだ。


 ちょうどそこへクラウスが戻ってきて、私に手を差し出す。


「そろそろ舞踏会も終わりだ、最後にもう一度踊らないか?」

「ええ、喜んで。それでは失礼いたします。」


 私はクラウスの手をとり、広間の中央へ向かった。アイーシャが顔を歪めているのが視界の端に見えた。


 踊り始めるとクラウスが顔を近づけてきて小声で話す。


「アリシアは無事館へ連れて行ったと報告を受けた。明日話しをしたいのだが、時間はあるか?」

「ええ、こちらもいろいろあって、夕食に皆さんを招待しています。」

「そうか、では明日館へ行く。食事を楽しみにしている。」


――肉食め。本音が出たな。



 舞踏会の終わりが告げられると王族が退出し、次にお披露目をした私たちが退出する。

 そのまま馬車に乗り込み送ってもらうのだが、馬車が動き出した途端リンネットの怒りが爆発した。


「ねえ、さっきの女ムカつく。お母さんはおばさんなんかじゃないし。」

「いやいや、おばさんで間違ってないよ。」

「おばさんってリゼルダさんぐらいの人でしょ?」


――一回りしか違わないし。


「間違いなくお母さんはおばさんだよ。少なくともお母さんがリンちゃんの歳の頃は三十代でもおばさんだと思ってた。」

「だけど、あの態度が気に入らない。」

「あれを気に入るのはかなりの物好きだろうね。」


 本人がいないので言いたい放題である。口が悪いのは間違いなく遺伝だ。


「でもクラウスさんがダンスに誘ったのはよかったよ。かなり悔しがってたから、スカッとした。クラウスさんグッジョブだよ。」



 その後はエミリアとダンスを踊ったことや、美味しかった料理やスイーツの話しを聞いていたが、南門を出てだいぶ経つのに馬車が走り続けていることに気づいた。

 一緒に乗っている文官に聞こうとしたとき、馬車が止まり文官が外へ出て、降りるようにと言った。

 そこは明かりもない森の中で、前に止まった馬車からは御園夫妻も降りてきた。

 私たちはひとかたまりになって、二人の文官と対峙する。


「何が起きているんでしょう?」

「わかりませんが、あまりいい状況ではないと思います。」


 文官の一人が剣を握り、一歩前へ出る。


「申し訳ありませんがここで消えていただきます。」


――はい?消えていただきますって、神獣たちが乗ってるの知ってて言ってる?


「助さん、格さん。」


 私は助格コンビを呼んで、文官を排除してもらおうとした。が……。姿が見えない。


――あれ?どこにいるの?今絶体絶命の大ピンチなんですけど!


「助けを呼んだのか?無駄なことを。」


 文官がそう言って剣を振りかざし、私たちは皆で寄り添い目を瞑った。しばらく沈黙が流れ、ゆっくりと目を開ける。暗くてよく見えないが、文官は剣を振りかざしたまま全く動いていなかった。

 リンネットが手のひらに炎を出して辺りを照らすと、視界が開けた。


 文官は目を見開き、口からは血が滴り落ちている。炎の光が胸元でキラリと反射して、始めて刃物が突き刺さっていることに気づいた。

 刃物が抜かれて文官が倒れるとその後ろにはエレインが立っていた。御園夫妻の馬車に乗っていた文官はウォルフによって倒されていた。


「あー、そういうこと?」

「そう、そういうこと!」

「えっ、どういうこと?」


 私とエレインの会話にリンネットがつっこむ。

 倒れているのは文官ではなくアサシンだとウォルフが言った。

 エレインが身分証を作ったときにウォルフを始め騎士団に所属する大半のアサシン職が守護者に変わったが、中には変わらなかった者もいて、それは暗殺を仕事として行っているためだと判断し、ずっと監視してきたのだという。

 今回、命令を出した人物の特定はできなかったが、貴族が関わっていることは間違いないらしい。


 私たちは再び馬車に乗り込んだが、御者も殺ってしまっていたので、ウォルフとエレインが馬車を動かし館まで帰った。

 馬車は明日城から取りにきてもらうと言ってウォルフが手紙を飛ばしていた。

 馬車を降りると助格コンビがひょっこり出てきた。


「助さん、格さん。何してたの!こういうときに守ってくれるんでしょ!」


 私が文句を言っていると、エレインが止めに入りそのわけを説明してくれた。


「あたしと師匠が馬車の上に乗ったときに、佐平次が影から皆に計画を伝えたんだよ。だから神獣たちは動かなかったの。」


 エレインの話しにしぶしぶ納得して館に入ると、アリシアが出迎えてくれた。


「アリシア!無事でよかった。怪我はない?」

「大丈夫です。本当にありがとうございます。あのまま反省室で死ぬんじゃないかと思って……。怖かったです。」

「とにかく今日はゆっくり休んで。話しは明日にしましょう。」


 今夜休んでおかなければ、明日子どもたちに会えば揉みくちゃにされ、休むどころではなくなるだろう。

 アリシアの部屋は整えておいたので、すぐに休むことができるはずだ。

 アリシアを部屋へ返すと、子どもたちの様子を見に行く。ミランダとイレーヌは同じベッドで寝ていた。二人の寝顔を見ていたら、急に今日の出来事に腹が立ってきた。


――可愛いこの子たちを残して殺られたりしないんだから。母を甘く見たら後悔するんだからね。


 私は怒りが消えないまま調理場へ行き、リゼルダに今日の腹立たしい出来事を一気に話した。

 話し終えると満足してイライラが消し飛んだので、ふうっと息を吐き紅茶を飲む。


「そういうわけで明日の夕食にイグレットバードとバッセレイを投入します。」

「はぁ。それはいいけど、ちゃんと踊れたんだろうね?」

「はい、アルフレッドさんから合格をいただきました。」

「そうかい、で、アイザックについてはアルフレッドに文句を言った方がよさそうだね。ホントに余計なことをしてくれたもんだよ。あいつはさっさと消しちまいな。ろくなことにならないよ。」


 かなり深ーい何かがありそうだが、触らぬ神になんとやらで首を突っ込まないことに決めた。

 イライラを吐き出して紅茶を飲んだら眠気が襲ってきたので、リゼルダに挨拶して部屋に戻った。

 明日の話し合いに向けて頭の中を整理しようと思ったが、ベッドに入ったところで意識が途切れた。


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