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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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面会と密談

 


 面会の日の朝、ウォルフとエレインはアリシア救出作戦の確認をしていた。

 この数日エレインは修道館に通って聖女たちの夕食からアリシアへ夕食が配られるまでの時間や、人通りのない場所などを調べていたらしい。

 ウォルフはエレインが出てくる予定の場所で警戒にあたり、アリシア救出後は城へ報告に来てくれるという。


「大丈夫だと思うけど、くれぐれも殺り食いはダメよ!」

「わかってるって。」


 ――最近皆過激になってて心配だよ。



 城からのお迎えは時間通りにやってきた。豪華な馬車が二台で、それぞれに文官が一人乗っていた。

 私たちは御園夫妻と佐山家に別れて馬車に乗り込み城へ向かった。

 馬車の中では文官が面会からお披露目までの流れを説明してくれる。今回の面会では王様、王妃様、第一王子、第二王子、第一王女に会うことになっていると言われた。


 ――王族、思ったより多いね。はぁ、めんどくさくなってきたよ。


 城に着くと待機する部屋に通され、お茶が出てきた。

 私は部屋の入り口に立っている文官に声をかける。


「エンシェント・ウルフは小さいままの方がいいんでしょうか?」

「小さいままとはどういう意味でしょう?」


 文官は首を傾げて聞き返してきた。


「本来の大きさとは違うんです。」


 そう言って助さん格さんに元の大きさに戻ってもらうと、文官が驚いて壁に張り付いた。


「だったらオスロも戻った方がいい?」


 エレインの言葉には皆が驚いた。


「元の大きさって……。」

「普段は頭に乗るために小さくなってるんだよ。」


 エレインがそう言うと、オスロがエレインから降りて元の大きさに戻った。

 オスロはとても大きかった。とぐろを巻くと天井に届きそうなくらいに。


 ――オスロって言うより、オロチじゃん。


 オスロに見つめられた文官は蛇に睨まれた蛙そのもので、「皆様小さいままでお願いします。」と小声で言った。

 姿勢を正して座っているのが辛くなってきた頃、やっと面会の部屋に案内された。

 部屋に入ってすぐに並んで片膝をつき頭を下げる。タカが代表して長い挨拶をすると、席に着くよう声をかけられた。

 最初に王様の斜め後ろに立っている男性が名乗った。


「私は文官長をしております。ジェラールと申します。」


 続けてジェラールが王族の紹介をする。

 リュシアン陛下とアデライド王妃殿下、第一王子プロスペール殿下、第二王子ヴィルジール殿下、第一王女セレスティーヌ殿下。


 ――うん、一度で覚えるのは無理。それにしてもオルドラ王国の王様も若いね。三十半ばってとこかな?


 次に私たちを紹介して、本題に入る。


「私どもが古い文献を調べた結果、過去の聖母様にはパンディアという位が与えられていました。ですがリオーネ様は聖母といっても修道館に属しているわけではないので、聖母とは認められません。よって地位を与えることもできません。」

 ジェラールが説明した後、リュシアン陛下が口を開こうとすると、「陛下。」とジェラールが制止して話しを続ける。

 王族は皆、顔は正面を向いていても視線が下がっている。


「リオーネ様がグレディオール家の領地を買い取ったことで貴族たちからの不満も出ています。どうか領地を国に返還し、身の丈に合った暮らしをなさってください。」

「土地は買った物なので、返還ではなく買い取っていただかないと」

「直答は許されていませんよ。」


 私の言葉をジェラールが遮った。


 ――直答が許されないと王族の言い分だけ聞いて終わりじゃない。


 私は立ち上がって並んで座っている皆に話しかけた。


「皆さん帰りましょう。この国で暮らすのは無理です。」

「待ちなさい、そんなことが許されるとお思いですか?」


 ジェラールが大きな声を出したことで、助格コンビが元の大きさに戻り威嚇する。

 すると陛下の後ろに立っていたトラヴィスが剣の柄に手を当て私に助格コンビを下げるように言ってきた。


 それを見てリュシアン陛下が「直答を許す。」と言った。


「陛下。勝手な発言はお控えください。」


 ジェラールの言葉には違和感がある。言い方は丁寧だが、まるで主従が逆転している。


「人払いをお願いいたします。」

「そんなことは認められない。身の程をわきまえろ。」


 ――身の程をわきまえろってこの国の流行語なの?


「では、庶民らしく簡単に片付けましょうか?エンシェント・ウルフのお腹に納まりたい方はお残りください。そうでない方は速やかに退出願います。」

「リオーネ、それでは王族の守りがなくなるではないか。」


 トラヴィスが険しい顔で睨んでくる。


「トラヴィスさんが残ればいいじゃないですか。帰ってから同じ話しをするのも面倒ですから。さあ、皆さん早く選んでください。」


 助格コンビが威嚇すると側近たちは慌てて部屋から出ていった。

 私は助さんに扉の外で聞き耳を立てる者がいないように見張りを頼んだ。

 残された王族は私の勢いに唖然としていたが、リュシアン陛下が最初に口を開いた。


「大変失礼なことをして申し訳ない。」

「こちらこそ失礼なのは承知で聞きますが、どうして文官長があんなに偉そうなんでしょう?」


 リュシアン陛下はアデライド王妃と一度視線を合わせてコクリと頷くとゆっくりと話し始めた。


「ジェラールは先代の王より仕えていて、娘は私の第二夫人です。それゆえ強い発言権を持つようになったのです。リオーネ、私たちはそなたにパンディアの位を与えようと思っている。」

「そのパンディアとは地位としてはどの辺なんでしょうか?」

「パンディアは王の次に権力を持つ地位だ。ジェラールは自分より強い権力を持たせたくないために、そなたを認めないのだ。」

「その位を賜ればこのままあの土地に住んでもいいのですか?」

「もちろんだ。だが位と領地を得た以上は我が国に協力してもらうことも必要だ。」


 ――なんだかめんどくさいことになりそうな予感がするよ。



 この世界の均衡が崩れているという話しは前にも聞いたことがあるが、その均衡を保つために聖女が必要ということで、各国が聖女召喚の儀式をして、より力を持った聖女を得ようとしているらしい。

 その一方で均衡が崩れたことを好機とし、他国や他種族に対して戦闘行為に及んだり侵略を企んでいる国もあるという。

 今ヒューマンは六つの国に別れているが、元は一つの国で、戦争を繰り返し別れてしまったようだ。どこの世界も似たようなものである。

 そして、その別れた国でもオルドラ王国のように奴隷制度もなく、全ての種族と共存している国が三つ、ヒューマン至上主義で奴隷制度はもちろん、他国、他種族の国を攻め取ろうとする好戦的な国が三つあるという。

 均衡が崩れ始めたことがわかったのは最近で、その影響については各国で調査している段階だという。

 来年の夏にヒューマン各国と各種族の代表が中央会議に出席して調査報告と今後の対策を話し合うと決まっているそうだ。

 それまでにオルドラ王国でも聖女召喚をするつもりでいたところに私たちが転がり込んで来たというわけだ。

 聖母を連れて行けば中央会議での影響力が上がることは間違いなく、ジェラールは地位を与えず王の命令で連れて行くことを提案したのだとか。

 だが王族はきちんと地位を与え、それに見合った働きを要求するつもりでいたらしい。


 ――うん、どっちにしても中央会議に出席するのは決定なわけね。


 だったらジェラールに従う気はないので、位をもらって領地に早く工房を建てたい。


「私はまだ国王となって日が浅い、だがよい国を作り、民を守って行きたいと思っている。そのために、皆に協力してもらいたい。」


 私は皆を見回す。御園夫妻は笑顔で頷き、エレインは「好きにすれば。」と言い、リンネットは「協力してあげてもいいわ。」と王様の前でもやっぱり上からだった。


 ――ちょっと教育が必要だね。その発言、斬首ものだよ。


「私はパンディアの位を賜りたいと思います。国や世界のためにお役に立てることはいたしますが、それ以外は自由に過ごすことを認めてください。それから、用があるときはトラヴィスさんを館に寄越してください。文官では話しになりませんから。」


 リュシアン陛下が立ち上がり、私にも立つよう促す。


「リオーネ、そなたにパンディアの位を授ける。国のため、民のために尽力することを誓うか?」

「誓います。」


 私の宣言と共にリュシアン陛下以外の全員が私に向かって片膝をついた。


 その後側近たちが部屋に戻され、ことの顛末を聞き、ジェラールは半狂乱で叫んだ。


「こんな女に位を与えるなんて認めません。撤回してください。」

「あなたが認めなくても、陛下より賜りましたもの。それは差し出口というものでしてよ。」


 私の言葉にジェラールは顔を歪めていた。



 面会が終わると昼食が出された。

 御園夫妻は優雅に食べていたが、佐山家は皆ぎこちなく、悪戦苦闘していた。

 リュシアン陛下は笑いながら、「少しずつ覚えていけばよい。」と言った。


 ――やっぱり覚えないといけないんだ。リゼルダさんには教わったけど、実践が必要だね。



 昼食を終えるとお披露目までは特にすることもなく、のんびり過ごせるはずだったが、私はトラヴィスに呼ばれ部屋を移動する。


「どこに行くんですか?」

「うるさい、黙ってついてこい。」


 ――ちょっと聞いただけじゃない。


 案内された部屋にはリュシアン陛下とアデライド王妃がいた。

 私が正面に座ると、トラヴィスが私の隣に座り話し始めた。


「リオーネに頼みたいことがある。」


 ――えっ、さっそくですか?


「ちょっと待ってください。」


 そう言って佐平次を呼び、部屋に近づく者がいないか影から警戒するように頼む。佐平次が影に入ると、続きを促す。


「リュシアン陛下が王位に就いたのが五年前だ。その頃からジェラールの影響力が増し、修道館が増長し始めた。今回のアリシアの件も陛下には報告しているが、どう思う?」

「どうって、明らかに癒着でしょう。」


 私はこの後アリシア救出に向かうエレインがお披露目を欠席することを伝えて、非礼を詫びる。


「民を守ることは優先すべきことだ。トラヴィスからそなたの娘の有能さは聞いている。」


 リュシアン陛下はジェラールの影響力が強くて、自分の意見が通らないこと、有能な側近たちが排除されてしまうことに憤りを感じているという。


「文官長を罷免しようにも証拠がなくてはどうにもならないので、エレインに協力して欲しい。」

「エレインは快諾すると思いますけど、私はあの態度の大きな貴族も繋がっていると思うんですよね。芋づる式に一刀両断しちゃいますか?」


 私とトラヴィスはいつもの調子で話し込んでしまい、王族が置き去りになってしまった。


「すみません、つい。」

「いや、私たちは立場上表立って動くことができない。だがこの機に膿は出しきってしまいたい。やり方はそなたたちに任せる。」

「でしたら、アリシア救出後は文官長とその周辺を調査するようにエレインに頼みましょう。」


 長時間姿を消しているのも怪しまれるので、密談は早々に切り上げられた。

 私たちは来るときと違う道を通って部屋へ戻った。部屋に入るとエレインが「オッケーだよ。」と言った。

 私もトラヴィスも驚いて顔を見合わせる。


「佐平次、エレインに気づかなかったの?」

「エレインは警戒対象か?」

「いや、違うけど。全く気づかなかったよ。」

「ボスに気づかれたら終わりでしょう。ヘッポコもいいとこだよ。」


 ――確かに……。でもなんか悔しい。


「話が終わったんなら行ってくるね。」

「うん、そうだね。気をつけてね。殺り食いなしだよ!」

「わかってるって、佐平次、行こう。」


 そう言ってエレインは修道館に向かった。

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