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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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捜索開始と衣装合わせ

 


「それで、アリシアが今どこにいるかわかりますか?」

「いや、グレイの話しでは三日前に突然新しい聖女が派遣されてきて、アリシアは既に孤児院にはいなかったと言っていた。修道館にも問い合わせたが、追放になったと言われて、その後の足取りはわかっていない。」

「グレイやソフィに何も言わずに出ていくなんておかしいですよね。それに、いきなり追い出されたらまずここに来ると思うんですけど。」


 クラウスがパッと目を見開き呟いた。


「一人ではないということか?」

「もしそうならアリシアが危険です。早く探さないと。」

「だが、修道館がやることには貴族が関わっている可能性がある。我々は表立って動くことはできない。」

「私も今怒られたばかりですからね。でも、放って置くことはできません。それに私が動かなければ問題ないと思いませんか?」


 そう言って私はエレインとウルフたちを呼んだ。

 エレインはお皿に乗せたおつまみを食べながらやってきた。


「なあに?ねえ、ボス。この揚げ物美味しい、また作って。」

「なんだそれは?肉か?」

「我らも肉が食べたい。」


 いつもながら緊張感が全くない。ため息と共に身体の力が抜けていく。でもお陰でちょっと冷静になれたので、食いしん坊たちを制止して話しを始めた。


「いくらでも作るから、真面目に聞いて。アリシアが行方不明なの。」

「じゃあ、探してくる。」

「待て、人の話しは最後まで聞く!一人じゃない可能性があるから、慎重に行動して欲しいの。」

「誘拐されたってこと?」

「それはまだわからないけど、とにかく無事なのか確認したいの。お願いできる?」

「誘拐だったらどうするの?()っちゃう?」

「食べるのか?我らに任せろ。」


 ――真面目に聞けって言ったのに、軽い、軽すぎる。人選間違えたかも……。


「殺るのも、食べるのもダメ。誘拐だった場合は誰の仕業か突き止めないといけないから、報告優先で。」

「主、もし一人でなかったときは佐平次を影につかせるのがいいと思う。常に見張れる。」

「そうね。でも危ないことはしないでね。もし危険だと思ったら、アリシアを連れて逃げて。殺り食いなしで!」


「……わかった。」


 口ではわかったと言いながらも不満が顔に出ている。

 エレインは明日の朝から捜索に出ると言い、ウルフたちはすぐに出発した。

 私とクラウスは館にいる大人たちを集めて状況を説明し、周囲に気をつけて欲しいと頼んだ。


「こいつは間違いなくわがまま聖女の仕業だね。あの時殺っとけばよかったのにさ。」


 リゼルダがとっても過激な発言をするが、誰も止めないところをみると、皆がそう思っているようだ。

 私たちは意見を出し合い仮説を立ててみることにした。

 例えばアイーシャの機嫌を損ねて追放になったとする。その後誰が誘拐したのか。

 私たちが召喚された頃、パルド王国が各国でやっていたので、それがまだ続いている可能性と、修道館が誰かに依頼した可能性があるという意見が出た。

 修道館が依頼した場合、私への嫌がらせが目的ならば、何らかの接触があってもおかしくない。だとすれば、まずはパルド王国の可能性を潰すためにオルドラ王国からパルド王国の国境までの範囲を先に探した方がいいという結論に至った。

 助格コンビは既に捜索に出ていたので、佐平次に追ってもらうように頼む。

 佐平次は私の守りがなくなるので嫌がったが、館には防御魔術がかけてあるので、館にいる間ならばウルフたちが離れても大丈夫だと言い聞かせて行ってもらった。


 次の日、エレインには王都の中を探してもらう。

 エレインは修行がてら、町中の至るところで潜入訓練をしているらしく、けっこうな情報通だった。

 それこそおばさんたちの噂話しから、商人の不正まで。それを聞きながらアルフレッドは何食わぬ顔でメモしていた。


 エレインの話しでは、王都には職にあぶれた人たちが溜まっている場所がいくつかあるらしく、悪いことを考える者や、仲介している者もいるようだ。エレインはその辺りを中心に調べると言って出かけていった。そして当然のようにクラウスがメモしていた。



 私は何事もなかったように振る舞うのが重要だと言われて、いつも通りの生活を続けていたが、何をするにも集中できなくてリゼルダに怒らる日々を送っている。


「いいかい、笑顔と目線が大事だよ。相手はあんたを困らせたいんだ、わざわざ喜ばせるようなことしないでおくれよ。」

「わかってますけど、もう一週間になるんですよ。」


 助格コンビは昨日帰ってきて、国境間にはいなかったと言っていた。エレインも今のところ何の収穫もない。


「アリシアは皆が探してくれているんだ。お披露目までもう一ヶ月もないんだから、自分のやるべきことをおやり!」



 捜索を始めて十日が過ぎた頃、アルフレッドが面会用に頼んだ服と、お披露目に着るドレスを持って来てくれた。


「アリシアについてはまだ何もわかっていませんか?」

「ええ、進展なしです。」

「私の方もいろいろ探ってはいますが、いったいどこに消えてしまったんでしょう。そうそう、エレインの情報はとても役に立ちましたよ。」


 アルフレッドも心配して手を尽くしてくれているようだ。そして不正を働いた商人は捕まったらしい。


「さあ、暗い顔は止めて衣装合わせをするよ。いいかいリオーネ、これは戦闘服だよ。王族や貴族に負けるんじゃないよ。」


 そう言われると、なんだかやる気が出てきた気がしないでもない。

  応接室にはちびちゃんズ以外が集まった。

 ちびちゃんズは舞踏会に出られないし、危険を考慮し、当日は館でリゼルダが預かってくれるので、衣装は必要ないのだ。


 私たちはまず王族との面会用の衣装を着てみた。

 タカはシンプルなタキシードという感じだったので、私のプレゼントしたループタイを合わせることにした。

 シノと私は、白のブラウスにロングスカート。シノが薄い紫で私は水色だ。


 ――なんかあれだね……。これは……そう!ママさんコーラス隊だ。


 その上からお揃いのローブを羽織る。シノはローブにタカとお揃いのブローチを付けた。

 ローブは金色で五センチぐらい縁取りされているが、模様がなくてつまらないので、それぞれのスカートの色で花の刺繍をすることにした。


「シノさんのお好きな花ってなんですか?」

「そうね。藤の花かしら。南公園の藤棚をよく見に行っていたわ。」

「ああ、あれはキレイでしたね。じゃあ、シノさんは藤の花でいきましょう。私は桜でいきます。」


 その間にエレインとリンネットが着替えて来ていた。

 エレインは結局騎士団の制服を譲らなかった。でも本人は「師匠とおんなじ。カッコいい。」と満足していた。

 リンネットも自分で選んだ色とデザインなので、納得できたようだ。


 面会用の衣装は問題なかったのだが、舞踏会用のドレスが並べられるのを見て一同絶句してしまった。

 ドレスと言えば、映画やドラマの中の中世ヨーロッパの貴族とか、ロココ調、披露宴のお色直しなどいろいろと思い浮かぶが、ここに並んでいるのは、奇抜な色とこれでもかとつけられたフリル。どう見ても社交ダンスの衣装にしか見えなかった。


「これは……。普通なんですか?」

「ええ、最新の流行を取り入れていますよ。」


 ――そうだ、ここは異世界。常識が違うんだ。でも、でもでも、これはないでしょ!


「こんなの絶対イヤ!」


 皆が言うに言えなかった言葉をリンネットが叫んだ。

 アルフレッドは当然驚いている。最新の流行を否定されたのだから。


「ねえ、お母さんが作って!」

「リオーネ、ダメかね?」


 リンネットの態度に戸惑うアルフレッドが困り顔で聞いてくる。そこで私はアイテムボックスからいつものノートを取り出した。

 アルフレッドに見せたのは、ハロウィンのコスプレ衣装を作るときにまとめた物で、社交界、舞台衣裳、ゴシック、ロココ調、アニメのプリンセスなど、ドレスという名の写真を貼り付けたものだ。


 ――今見るとカタログみたいだね。


「私たちのいた世界でのドレスはこういうものでしたから、イメージしていたものと違っていて正直驚いています。」


 アルフレッドの見ているノートを横から覗いていたリゼルダが顔をあげてニヤリと笑った。


「これなら勝てるよ。どれもステキじゃないか。あんた作れるんだろ?」

「作ることはできますけど、布がないですよ。」

「そんなもん、アルフレッドが買ってくるよ。」


 アルフレッドはリゼルダの発言に「やれやれ。」と言いながらも了承した。


「確かに最近の舞踏会は歳のせいか、目がチカチカしてしまって、こういうドレスが流行ってくれると助かりますね。」


 ――いやいや、歳のせいじゃないから。想像しただけでも目が痛いよ。それに私、知ってるんだから、アルフレッドさんが六十手前だって。


 白髪に白髭で老紳士だと思っていたけど、見た目よりずっと若いのだ。


  皆がノートを見ながらドレスを選ぶ。

 シノは淡い緑のシンプルなドレス、エレインは騎士団の制服のままでいいと拒否、リンネットはゴシック調のドレス。

 私はリンネットの選んだドレスを見て思い出し、アイテムボックスから真っ赤なワンピースを取り出した。

 それはお店の宣伝用ポスターを作ろうという話しになったとき、リンネットをモデルにして安くあげようと私が作ったものだった。


「これを使えば凛ちゃんのドレスはすぐにできるし、ルビーとお揃いの赤で良くない?」

「デザインはこれがいいんだけど。」


 そう言ってリンネットはノートを指差す。


「大丈夫、それっぽくできるよ。でも、赤に合わせるのは黒じゃなくて白にするね。その方がルビーとおんなじになるから。」

「わかった。でもボクのを一番先に作ってね。」


 リンネットが納得したところで、リゼルダがノートを私の目の前に突き出してきた。


「あんたはどれにするんだい?」


 私はノートをパラパラとめくり、その中からゴールドのドレスを選んで見せた。ゴールドといってもキラキラしているわけではなく、落ち着いた色合いでその上に銀糸で刺繍のしてあるものだった。


「ちょっと地味じゃないかい?」

「あれに比べたらどんなドレスも地味になりますよ。上品と言ってください。」


 ――戦闘服なら、いっそのこと迷彩柄のドレスはどうかな?……いやいや、私が着るんだった。ダメダメ。


 そして私はまたまた思い出してアイテムボックスを漁る。出てきたのは大量の布だが、服ではなくアクセサリーを作るために使っていたものだ。中から和柄の布をいくつか選んで広げる。


「シノさんのドレスにこれを使うのはどうでしょう?あまり大きい布ではないので、アクセントに付けるぐらいですけど。」

「あら、ステキねえ。私はこれが好きだわ。」


 そう言ってシノが選んだ布は、白地に金糸や淡い暖色系の糸で小さな牡丹や菊が刺繍されていた。

 素材が決まってくると、どんどんイメージが膨らんで早く作りたくなってきた。


「リオーネ、さすがに私では何を買えばいいのかわかりませんよ。自分で選んだ方がいいんじゃないかね?」

「でも私では売ってもらえないですよ。」


 以前リゼルダと行ったときに布に触るなと言われたので、気が引ける。


「今日一緒に来ているのはうちの専属の仕立て屋です。ティオーラと一緒に買いに行けば大丈夫だと思いますよ。」


 アルフレッドが紹介してくれたティオーラは私と同じぐらいの歳の女性だった。


「ティオーラと申します。私もお手伝いいたしますので、もしよろしければ、リオーネ様の技術を学ばせていただけないでしょうか。」


 ――いいけど、ちょっと堅苦しくない?


「それは構いませんけど、できれば普通に話してもらえますか?そんなにかしこまった話し方だと、なんというか右から左に抜けていくような……。要するに頭に入ってこないんですよね。」


 私が何を言っているのか上手く理解できないようで、ティオーラは目をパチパチさせて固まっている。


「おバカだから堅苦しい言葉はわからないんだってさ。言葉を崩して話してやりな。」


 リゼルダがティオーラに説明する。


 ――言い方は酷いけど、全くもってその通りです。


「ではそういうことで、明日一緒に買い物に行きましょう。」


ティオーラは笑顔で頷いた。

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