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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
35/80

退学と夕食会後の報告

 


 トラヴィスが鬼の形相で再度聞いてくる。


「今度は何をした?」

「あー、すみません。魔力封じの手枷を壊しました。」

「…………。神獣が前より大きくなっているようだが。」

「この子たち成長したんですよ。」

「リオーネ、神獣の成長にはどのような条件があるのじゃ?」

「昨日はもう少し小さかったですよね?」


 トラヴィスと私の間にダルフォードとロドリアが割って入る。魔導師たちの興奮状態にここでは話しにならないと、「夕食を楽しみにしている。」と言い残し、トラヴィスは騎士たちを連れて引き上げていった。


――とても楽しみにしている顔じゃなかったね。


「私を魔獣の餌にしようとしたんですよ!退学です。即刻追い出してくださいませ。」


 ダルフォードがヒステリックに叫んでいるトリーデを横目に見て、「わしの部屋へ行こう。」と言った。

 私はリンネットとウルフたちを連れてダルフォードの部屋に向かった。

 ダルフォードの部屋には応接室があり、そこで私とリンネット、マルセロが席についた。


「リオーネ、何があったのか話してもらえるかのう。」

「はい、えーっとどこから聞きたいですか?」

「朝から一通りじゃ。」


 私は時系列順に話していく。途中マルセロが質問してきたが、ダルフォードはそれを止めて最後まで話しを聞いていた。


「ざっとこんな感じですね。手枷は弁償しますので、請求書を発行してください。」


 ダルフォードは私たちが話し終わるとマルセロに質問の許可を出した。マルセロは書き留めていた紙を見ながら質問を始めた。


「トリーデが攻撃を受けたと言っていますが、リオーネさんの攻撃はトリーデと反対方向の的と壁を破壊したと近衛騎士団から報告されています。これはどういうことでしょうか。」

「確かに私はトリーデ先生に向けて火球を放ちましたが、私が狙っていたのは間違いなく的です。壁を壊したのは魔力調整ができてなかったからですね。」

「トリーデに向けて放った攻撃が的に当たるのが理解できません。」

「以前エレインがクロスボウの訓練をしているのを見たとき、矢は軌道修正して的の真ん中に命中していました。でも今日は皆的に当てるのことができても真ん中ではなく、トリーデ先生も腕の角度を調整するように指導していたんです。」

「それは魔術学院でも騎士団でも同じです。何度も練習して身体で覚えて命中率をあげるものですから。」

「そこなんです。なぜエレインの矢は軌道修正するのに、学院生たちの攻撃はしないのか。」

「その答えがわかったのですか?」


 マルセロが身を乗り出してきたが、ダルフォードは静かに聞いている。


「呪文の詠唱です。学院生たちは呪文の詠唱によって攻撃を放つので手のひらから真っ直ぐにしか飛んでいかないんです。だから腕の角度の調整が必要なんです。」

「ええ、それはわかっていますが。」

「その時私はエレインがいつも思えばできると言っていたのを思い出したんです。イメージです。火球を的に当てるとイメージして放てばどこに向けて放っても軌道修正して的に当たるんです。そして呪文の詠唱は必要ないんです。」


 二人は大きく目を見開き口がちょこっと開いている。並んでいると本当にそっくりだ。

「それは誰にでもできるんでしょうか?」

「そんなことはわかりませんよ。少なくともエレインと私にはできました。検証はそちらで勝手にやってください。」


 マルセロは紙に書き込んで次の質問へ移る。


「では午後の実習についてですが、エンシェント・ウルフとエンシェント・ダークウルフを呼んだ経緯はわかりました。手枷が壊れるほどの魔力はいったいどれ程の量なんでしょう?」

「さっぱりわかりません。減った感覚があればステータスを見れば数値でわかりますけど、それがないので。ただ手枷に許容量があることはわかったので、使い続ければいつかは壊れますね。」

「そうですか。こちらもリオーネさんに魔力封じの手枷が通用しないことはわかりました。最後に一つ、エンシェント・ウルフとエンシェント・ダークウルフはまだ成長するのですか?」


 これは私にはわからないので、ウルフたちを振り返るとそれぞれが答える。


「どのくらい成長するかはわからない。」

「以前今の我らより、大きい者を見たことがある。」

「魔獣を狩って魔石から魔力を得るより主の魔力をもらう方がいいと聞いたことがある。」


 マルセロが大きく頷きながら書き込んでいる横でダルフォードは静かに口を開いた。


「リオーネ、リンネット、トリーデは以前より教育者として相応しくないという意見が多かったのじゃが、貴族からの支持が多くてわしらも手が出せんのじゃ。すまんが問題が起きた以上このまま学院に通うことは難しいじゃろうな。」

「それなら別に構いませんよ。魔術の使い方はわかりましたし、呪文を覚える意味がないことも証明できましたから。それよりロドリア先生が神獣に興味をお持ちで研究していることはご存知ですか?」

「ええ、過去の文献を解読しているのは知っています。」

「マルセロさんと一緒に研究していただきたいのですが。」


 私の提案に二人は顔を見合わせる。


「それはどうしてですか?」

「同じような質問にそれぞれ答えるのがめんどくさいからです。それに私、異世界翻訳機能で古語読めますよ。」


 私がニヤリと笑うと二人の目がキラーンと光ったような気がした。


「本当ですか?それはもちろん大歓迎です。古語が読めれば研究がかなり進むと思います。」

「それでは研究のことはいずれお話ししましょう。それからリンネットのことなんですが、トリーデ先生に魔導師団に入る資格はないと言われたので、諦めてくださいね。」


 その言葉に二人は顔色を変えて立ち上がる。


「トリーデにそんな権限はないはずじゃ!リンネットには魔導師団の未来がかかっておる。学院に通わずともわしが育てれば問題ない。」


――リンネットに魔導師団の未来を託していいの?ホントに大丈夫?


 当の本人を見ればルビーを抱きしめて爆睡していた。確かに大物にはなれそうだ。


「はぁ、そういうことで、今日の詳細はご理解いただけたようですし、夕食会には出席されないですよね。どうせおんなじ話しをするだけですし。」

「いやいや、私は黙って聞いていますのでお気になさらず。」

「夕食会とはなんじゃ?わしも魔導師団長として参加するぞ。」


 マルセロはまだしもダルフォードに至っては食事会の主旨もわからず参加を表明した。


――いつも食べに来るけど魔導師団の寮の食事って美味しくないの?



 リンネットがエミリアと一緒に帰る約束をしていると言うので、授業の終わる時間まで師団長室で過ごす。新しく家族に加わった神獣たちの鑑定結果を出すと、ダルフォードはいつもの調子に戻っていた。


 城門前で待っているとエミリアが私たちを見つけて泣きそうな顔で駆けてきた。


「リンネットもリオーネさんも退学になったって、本当ですの?」

「うん、エミリアと一緒に勉強するの楽しみにしてたのに。でも、魔術の勉強はおじいちゃまが教えてくれるって。」

「とても寂しいですわ。」

「エミリアはいつでも遊びに来てね。待ってるから。」


 二人がしばしの別れを惜しんでいると嫌味少女が笑顔で近づいてきた。


「退学になったんですって?それじゃあ舞踏会にも出られないわね。身の程をわきまえて、庶民らしく底辺を這いつくばってなさいな。その方がお似合いよ。」


 嫌味少女が高笑いで去って行くと後ろから声がする。


「あいつあれしか言葉知らないの?身の程をわきまえろって言うならまずは自分が貴族のお嬢様らしい言動しろ。」


 振り返るとエレインが呆れ顔で立っていた。


「正論です。で、どうしたの?」

「クラウスさんが話したいことがあるからボスの予定を聞いて欲しいって。」

「あー、今日はトラヴィスさんやマルセロさんたちが夕食を食べに来るから一緒にどうですかって聞いてみて。私はこのまま市場で買い物して帰るから、助さんはエレインと一緒に行って返事を聞いてきて。格さんは夕食会のことをリゼルダさんに伝えて。」


「「「わかった。」」」


 エレインと助格コンビの声がキレイに重なる。リンネットはエミリアとゆっくり帰ると言うので、私たちはそこで別れた。

 私は市場で上等なお酒を買って、おつまみの材料を仕入れると急いで館に帰った。

 リゼルダは人数分の食器を用意してくれていたし、夕食の準備も始まっていた。


「ありがとうございます。夕食は決めていたメニューでいきますが、おつまみをいくつか作りますね。一応お酒も買って来たので。」

「皆が揃うってことは、なんかやらかしたね?」


 私がやったという前提なのが気になるが間違ってはいないので、夕食を作りながら今日あったことを話す。


「魔術学院を退学になったなんて初めて聞いたよ。でもそれなら尚更舞踊会で見返してやらないといけないねぇ。」


 リゼルダはそう言ってニヤリと笑った。


――なんかヤバい方向に火がついちゃったかも。



 夕食の準備が整うとダルフォードとマルセロが降りてきた。この二人はいつもちょうど出来上がったタイミングで来るのだが、なんでわかるのかが不思議でならない。監視カメラでも仕掛けているんだろうか?

 少し遅れてトラヴィスとクラウスも到着した。


「面倒なお話しは食後にするので、夕食は楽しんで食べてくださいね。」

「リオーネは一緒に食べないのか?」

「ええ、子供たちも夕食ですからね。皆さんゆっくりゆーっくり食べてくださいね。」


  食堂に戻って子どもたちのお世話だ。大きい子たちは問題ないが、一歳から三歳までの子は付きっきりでないと大変なことになるのだ。

 私は子供たちの夕食を終えて歯磨きをさせてから急いで応接室に戻る。


 応接室では皆食後のお茶を飲みながら談笑していた。ただ一人トラヴィスだけは険しい顔をしている。


「さてリオーネ、今日あったことを始めから説明してもらおうか。」


 トラヴィスの表情と言葉にクラウスが「何かあったのか?」と心配そうに聞いてくるので、「ええ、ちょっと。」と返すと「ちょっとではない。さっさと説明しろ。」と怒られた。


「マルセロさん、今日のメモ、持ってたら貸してください。」

「はい、持ってきていますよ。どうぞ。」

「ありがとうございます。では時系列順に説明させていただきます。」


 そう言って私はマルセロのメモ書きを読み上げていく。マルセロの質問に対しての答えももれなく説明し終わり、顔をあげるとクラウスは額に手を当てため息をつき、トラヴィスは眉間のシワが深くなっていた。


「お前は自分の一日の行動なのにメモを見ないと説明できないのか?」

「どうでもいいことってすぐに忘れません?」

「どうでもよくはないだろう。王族との面会前によくもこれだけ面倒を起こせるものだ。」

「めんどくさいのはトリーデ先生であって、私ではないですよ?」


 そこで魔導師コンビが揃って頷く。しかしトラヴィスは険しい顔のままだ。


「面倒を起こすのと、めんどくさいは違うだろう。まあそんなことはどうでもいい。お前が破壊した壁を短時間で直したことは近衛騎士団の多くが見ているし、膨大な魔力を放出したことも知れ渡っている。これでただの庶民で通るわけないだろう。王族もお前の処遇に頭を抱えているのだぞ。」

「そんなこと私に言われても困りますよ。」

「王族は昔の文献から聖母に関する記述を探して、調べた結果を考慮して処遇を決めると言っている。せめてお披露目が終わるまではこれ以上問題を起こすな。」

「だったら問題を起こしそうな人を近づけないでください。それと、面会には神獣を同伴させたいです。王族は近衛騎士団に守られているのに私たちに守りがないのはおかしいですよね?」

「そんなに信用できないのか?」

「権力の集まるところには何が潜んでいるかわかりませんからね。」


 私が貴族たちの存在を指していることに気づいたようで、トラヴィスは深く頷いた。


「一応伝えておく。」


 

 それで話しは終わったので、お酒とおつまみを出して皆に勧めるとトラヴィスは城へ戻って報告すると言い帰っていった。

 私はクラウスにお酒を持っていき、隣に座った。」


「お話しがあると聞きましたが。」

「ああ、その前に今日は大変だったんだな。」

「そうでもないですけど、お説教はいっぱい聞きましたよ。」

「皆がリオーネを心配しているんだ。それは忘れないで欲しい。」

「わかりました。肝に命じます。」

「話しというのはアリシアのことなんだが、どうやら孤児院から追い出されたらしい。孤児院には新しく中級聖女が派遣されていた。」


――なんですと?

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