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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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新しい家族と夜のお茶会

 


 皆が食事を続ける中、魔導師コンビは新しく加わった神獣たちに興味津々で質問しているし、ジグセロはスピグナスの解体をしたいと言っている。それを見てエミリアが呆れたように口を開いた。


「兄さんたちは未だに公私の区別がつけられないのね。今日は新しい生活を祝うパーティーでしょう?そんなことより食事を楽しみなさいよ。」

「エミリアには未知の物を前にしたこの高揚感がわからないのですか?なぜそんなに冷めたことを言うのでしょう。」


マルセロがため息をつきながら肩をすくめている。


――うーん。冷めてるっていうより、一番冷静で常識的な子だね。魔術学院に行ってもエミリアがいれば安心だ。


 皆お腹いっぱいになってきたのか、食べるより飲んでおしゃべりしている感じなので、残ったお肉を焼いてしまってアイテムボックスにしまうことにした。そうしておけばいつでも食べられるし、助格コンビのおやつにもなる。


――そういえば仲間を呼びに行ったままだなぁ。どこまで行ったんだろう?


 食後のお茶の準備を始めた頃、助格コンビが帰って来た。けれど一緒に来たのは真っ黒な毛並みをしていた。


「主、我らの仲間だ。」

「エンシェント・ウルフは毛色が何色もあるの?」

「いや、我らは皆白だが、時々黒いものが生まれる。」

「我らはエンシェント・ダークウルフと言って区別している。」


 初めて見る神獣に魔導師コンビが再び興奮し始めた。


「我も主を探しているが、なかなか見つからない。最近大きな魔力を感じて来てみたが、もう契約を交わしていると聞いた。」

「神獣との契約は数に制限があるの?」

「制限はないが、我らは主の魔力をもらうのであまりたくさんの契約をするとヒューマンに負担がかかる。」

「それなら大丈夫だよ。私の魔力は無限にあるし、せっかく来たんだから助さん格さんと一緒にいる方が楽しいでしょ?」

「いいのか?」


 ダークウルフは小さな声で聞いてきたが、シッポが全力で揺れている。どうにも気持ちを隠すことはできないらしい。


「助さん格さんもそのつもりで呼びに行ったんでしょ?」

「我らは幼い頃よりずっと一緒に過ごしてきた。」

「だったらあなたも私たちと家族になりましょう。」

「では、名を賜りたい。」


 今度こそかっこいい名前を考えようと、頭を働かせる私にエレインが話しかけてきた。


「助さん格さんときたら次は弥七か飛猿か鬼若?ボスの推しはどれ?」

「何言ってんの?お母さんの最推しは佐平次だよ。速水佐平次!」

「我は佐平次。契約を交わし、忠誠を誓う。」


――あああ!ちょっと待ってよ……。


「露ちゃんが話しかけるから決まっちゃったじゃない!」

「時代劇が本当にお好きなんですね。なかなか出ませんよ、その名前。」


 タカは知っているようだが、エレインは「誰それ。」と言っている。


――将軍様のお庭番だよ。


 こんなはずじゃなかったと落ち込む私にウルフたちは腹が減ったと催促するので、アイテムボックスにしまったお肉を出してお皿に乗せていく。

 美味しそうに食べる三体を見ていると、魔導師コンビとトラヴィスがやってきた。


「神獣と三体も契約するとは。これも報告しなければならんな。」

「そんな必要ありますか?だいたいプライバシーの侵害ですよね。」

「神獣がこれほどたくさん集まっているのだぞ!それに契約などそうそうできるものではないのだ。ことの重大さを考えろ。」

「リオーネ、神獣自体そう簡単に見られるものではないのじゃ。本にも伝説程度の記述しか載っておらぬ。是非とも研究したいのじゃが、協力してもらえぬか?」

「質問するぐらいならいいですけど、解剖は許可しませんよ。」

「解剖などせぬよ。リオーネに鑑定をしてもらえるとありがたいんじゃがのう。」

「本人の許可が取れればいいですよ。」


 魔導師コンビは大喜びしているが、トラヴィスは一人険しい顔をしている。


「何をそんなに考えているんですか?」

「お前はもう少し考えることをしろ。ここまで力を持つと王族からの印象が悪くなる可能性がある。貴族の反発も強まれば、この国にいられなくなるかもしれないんだぞ。」

「なぜ印象が悪くなるんですか?」

「王族の地位を脅かすことになるからだ。」

「誰が?」

「お前がだ!」


 なぜ私が王族の地位を脅かすのかさっぱりわからない。私はここで平民として静かに暮らしていきたいだけだ。子供たちや神獣が増えて静かとはほど遠いけど……。どちらかというとめんどくさいのでできるだけ関わりたくないと思っているのに邪魔をしてくるのはそっちの方だと思う。


「私は関わりたくないんですけど。そこのところはちゃんと伝わってますか?地位を脅かすとか、被害妄想ですよ。なんならこの国から出ていくこともできますしね。」

「この国を出てどこへ行くのだ?」

「うーん、例えばパルド王国とか?」

「あの国はお前たちを奴隷として捜索していたではないか。」

「ええ、ですからあの国を更地にして、私が新しい国を作るとか。まあ例えばの話ですよ。」


 トラヴィスには理解できないようで、頭を振って大きなため息をつく。

 とにかく報告するなら私の希望も伝えてもらいたいと念を押しておいた。

面会日時は決まっているのだから話しはするが、一方的に言われるだけなら行く必要なんてないのだ。

 トラヴィスはそれも含めて報告すると言い、帰っていった。



 アルフレッドとヴィンスは日陰でのんびりとお茶を飲んでいた。私が今朝届いた手紙を見せると、面会日までには衣装を届けると約束してくれた。そして一つの情報を仕入れたと言って皆から少しずつ離れて行く。


「リオーネ、修道館とぶつかったそうですね。」

「そんな覚えはないんですけど、なぜですか?」


 昨日のことなのに知っているなんて、アルフレッドの情報網はすごいと思う。


「上級聖女が殺されそうになったと訴えて回っているらしいのだ。」


アルフレッドの情報収集も早いと思ったが、アイーシャの行動はもっと早かったのだ。その早さで仕事をしたらきっと引く手数多なのに、残念過ぎる。


「へえ、そうなんですか。その上級聖女と繋がっている貴族ってわかりますか?」

「わかるがどうするつもりかな?」

「今後私の関係する取引から外してください。関わりたくないんです。」

「それでは敵を増やすだけになるのではないですか?」


 アルフレッドが私の心配をしてくれているのはとてもうれしいが、シノへの態度もメメイに攻撃したことも許せないので、そんなアイーシャの味方をする貴族とも関わりたくない。


「ホントにそこら中敵だらけですね。助さん格さんは私に敵意を向ける者は食べると言っているし、困ったものですよ。」


 私は笑って言うが、アルフレッドとヴィンスは笑えないようだ。ちゃんと止めてると付け加えた私に「頼みますよ。」と言ってアルフレッドが力なく笑った。

 そのあとは館の料理人の話しに移る。希望者はたくさんいるが、これだけ神獣がいるとなると、慎重に選らばなければならないし、どうも貴族からの密偵が紛れ込んでいるようで、すぐには決められないという。


「希望者のリストをもらえませんか?エレインなら調べてくれると思います。まあ、王族との面会でここにこのまま住めるかどうかも決まるので、それまでに調べることができれば、計画が一気に進むんですけどね。」

「できるだけ穏便にお願いしますよ。」


 アルフレッドの気持ちはわかるが、あまり自信はない。この前の文官があれなのだ。きっと王族は命令を下すだけだ。そう考えると今から気が重くなる。



 なんだかいろいろあったけれど、楽しく過ごせてよかった。皆を見送ったあとは洗浄の魔術でささっと片付けを終わらせて、それぞれの部屋に戻った。

 ミランダとイレーヌは走り回って疲れたのか、いつもより早く寝てしまったので、お茶でも飲もうと調理場へ行くと、リゼルダがお湯を沸かしていた。


「子供たちは寝たのかい?」

「ええ、今日はいっぱい動きましたからね。」

「ちょうどよかった。少し話したいことがあるんだよ。」


 リゼルダはお茶を入れてワゴンに乗せると、食堂に行こうと言った。

 食堂にはウォルフとエレインがいて、アルフレッドの言っていた料理人希望者について話していた。


「おう、リオーネ。アルフレッドから聞いたが密偵がいるって?」

「そうらしいですね。でもアルフレッドさんに気づかれたってことは大した密偵でもないですよね。」

「いや、アルフレッドだから気づいたんだろう。あいつの周りはすごいぞ。精鋭揃いだ。」


 そういえば何時だったかアルフレッドが言っていた。優秀な人材を育てれば、仕事は放っておいても片付くと。集めるではなく、育てるというのがアルフレッドのすごいところだと思う。


「調査はできそうですか?」

「ああ、エレインと俺とロベルトで手分けしてやるつもりだ。」

「あたしはその間あんたにダンスを教えてやるよ。」


――はい?今なんと?


 リゼルダの突然の発言が理解できなくて、フリーズしてしまった。


「言っている意味がわかりません。」

「王族との面会のあとは舞踏会に出るんだろ?ダンスのひとつも踊れないんじゃ恥かくよ。」

「ダンスができなくても別に恥ずかしくないですけど?」


 いつもの調子で答える私に、リゼルダの雷が落ちた。


「あんた、貴族に馬鹿にされて悔しいと思わないのかい?修道館から上級聖女たちもくるんだよ。あのわがまま聖女に笑われたいのかい?」

「悔しくはないですけど、アルマゲ・ドーンは落としたくなるかもしれませんね。」

「あたしは我慢ならないね。舞踏会までに完璧に叩き込むから覚悟しときな!」


――そんな無茶苦茶な……。


「ところでリゼルダさんはダンスがお得意なんですか?」

「ああ、若い頃は舞踏会に出てたからね。」

「舞踏会に出るってことは、リゼルダさんは貴族ですか?」

「違うよ。あたしは商家の生まれだからね。いわゆる豪商ってやつさ。今はなんの縁も残って無いけどね。」


 リゼルダがアルフレッドと幼なじみなのにも納得できた。

 リゼルダは冒険者になりたくて家を出て、ウォルフと結婚するときに家と縁を切ったと言う。

 自分の意思を貫く強さを持っているリゼルダを羨ましいと思う。それはこの世界で生きていくと覚悟を決めたシノに対しても同じだ。私もいつかは決めなければならないのはわかっている。めんどくさいで逃げられるのも限界なのかもしれない。



「アルフレッドとヴィンスも舞踏会には参加するだろうけど、あんたエスコートは誰にしてもらうんだい?」

「全くわかりません。私が頼むんでしょうか?」

「あんたが頼めば断る男はいないだろうね。」


 貴族たちは私が単独で土地を持ち、富を得るのは気に入らないが、専属になるなら歓迎するらしい。


「エスコートしてもらいたい人はいないのかい?」

「私が選んでもいいなら、冒険者ギルドのギルド長ですね。ギルド長と舞踏会。私キャサリンになれるかも……。」


 私の妄想が暴走してワールドに入っていると、エレインから突っ込みが入る。


「それってベルじゃないの?」

「いや、ヴィンセントといったらキャサリンでしょ!」


「何のことかさっぱりわからんがギルド長には言っておくから、お前はダンスを覚えろ。」

「そうだね。踊れないと相手に恥をかかせることになるんだよ。」


――それは困る。ヴィンセントに恥をかかせるなんて絶対にダメだ。それにヴィンセントと踊れるなら完璧なキャサリンにならなくては。


「全力で頑張らせていただきます!」


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