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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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パーティーと不思議生物

 


 朝早くから子供たちの足音で目が覚めた。環境が変わったからなのか、パーティーが楽しみなのかはわからないが、大騒ぎしている。起き上がるとミランダとイレーヌの姿は既になかった。

 着替えて一階に降りると、クラウスの腕に子供たちがぶら下がって遊んでいた。


「おはようございます。ずいぶん早いんですね。」

「マヨネーズを作るから早く来いと言ったのはリオーネではないか。」

「あー、すっかり忘れてました。よろしくお願いします。」


 クラウスは「そんなことだと思った。」と笑いながら言った。

 皆が起きてくるとそれぞれが準備に入る。私とクラウスはマヨネーズ作り、リゼルダは朝食の用意、タカとシノは子供たちの着替えのお手伝い、ウォルフは鉄板や網を組み立てる。エレインとリンネットは……まだ起きてない。


 集合は昼前のはずなのに、朝食を食べ終わった頃には招待客が集まり始めた。


「皆さん来るのが早くないですか?」

「ワシらはリオーネとリンネットに学院についての話しをしようと思ってな。」

「私はスピグナスについて言いたいことがある。」


 今日は余計なことを考えずに楽しみたかったのだが、招待客が揃うまではまだ時間があるので、皆で応接室に移動して話しをすることになった。


 トラヴィスが後でいいと言ったので、ダルフォードとマルセロから話しをする。


「学院では最初に文字と計算を習い、そのあとは魔術の基本として属性や魔力操作の座学、実習と進んできます。リンネットさんは文字と計算はできますか?」

「こちらの世界とは文字が全く違いますが、召喚された私たちは翻訳機能があるようで、読むことは問題なくできます。計算は四則演算はできるはずです。」

「それは優秀ではないか、でリンネットはどこにおるのじゃ?」

「すみません。まだ起きてないんです。」

「こんな時間まで寝ているのですか?」


 マルセロは驚いているが、放っておけば昼までは起きない。エレインに起こしてくるように頼んで話しを続ける。


「では、基本の座学を受けて、実習にいけますね。今年度の座学は終了しているので、ロドリア先生に授業をお願いしています。」


 魔術学院では年度始めから三ヶ月が座学で、残りは実習になるという。一年生で文字と計算を習うので二年生からの座学と一年生からの実習を受けることになる。マルセロから教科書を購入するか聞かれたので、五年生までの教科書を二人分購入することにした。そうこうしてるうちにリンネットが起きてきた。


「おはようお母さん。おはようございますマルセロさん、とおじいちゃまは誰ですか?」

「おはようリンネット。ワシは魔導師団長をしておるダルフォードじゃ。おじいちゃまで構わんぞ。」


 ダルフォードは子どもに甘いタイプらしい。


「今はそれでも構いませんが、学院で会ったときには師団長様とお呼びしてくださいね。」


 マルセロの注意にリンネットが頷いた。


「学院についての話しはそれくらいですね。あとは文官長様よりお手紙を預かっています。」


 私は手紙を受け取り開けてみる。中には長ったらしい挨拶と王族との面会日時が記されていた。


「こっちの都合を聞かないところは相変わらずですね。後でタカさんとシノさんにも伝えておきます。」



 次はトラヴィスを交えてスピグナスについての話しをする。


「スピグナスを見つけてから討伐に至る経緯はクラウスから聞いたが、解体を拒んでいるのはなぜだ?」

「権利争いとやらがめんどくさいからです。そうだ、スピグナスの鑑定結果をまとめておきましたよ。」


 そう言って私は一枚の紙をマルセロに渡す。マルセロから受け取ったダルフォードが結果を見て興奮し始めた。


「リオーネの鑑定ではこんなに詳細にわかるのか。素晴らしい!」


 ダルフォードとマルセロが二人で鑑定結果を見ながら議論を始めたので放置して再びトラヴィスと向き合った。


「権利は王族に譲った方がいいに決まっているではないか。買い取り金額も保証するぞ。」


 トラヴィスの言うこともわからなくはないが、金額の問題ではないのだ。


「素材を全て渡すわけにはいかないんです。」

「それはどういうことだ?」

「私はいつも一緒に狩に行ってお世話になった人に素材を一つ選んでもらってお礼に渡しているので、それ以外なら売っても構いません。」

「それは希少素材をタダで渡しているということか?」


 トラヴィスは眉間にシワをよせ、声が少し低くなる。


「そうですね。お礼ですから。私が欲しいのは肉です。肉は全ていただきます。それができなければスピグナスはなかったものとして忘れてください。」

「王族や貴族は納得しないだろうが。」

「現時点で私のアイテムボックスに入ってるんですよ。私以外に出せる人はいないんです。存在自体が無いに等しいので納得するしないは関係ないですよ。それから今後は何を狩っても報告はしませんよ。」


 トラヴィス自身が納得できていないようだが、来客を知らせるベルが鳴ったので話しを中断して玄関へ向かった。

 到着したのはロベルトとジグセロ、そしてジグセロの隣の少女はたぶんエミリア。


「こんにちは、お招きありがとうございます。こっちが妹のエミリアです。」

「はじめまして、いつも兄たちがご迷惑をおかけしてすみません。」

「いらっしゃい、マルセロさんはもう来てますよ。エミリアはこっちにいらっしゃい。リンネットを紹介するわ。近いうちに魔術学院に通うことになるからよろしくね。」

「はい、兄イチから聞きました。私も楽しみにしています。」


 マルセロは冷めた子だと言っていたが、しっかりしていると思う。リンネットに紹介すると、同じ歳ということもあってすぐに打ち解け、話が弾んでいるようだ。

 アルフレッドがヴィンス、カミーラ、ロアンヌ、エイリンを乗せて来たことで全員揃ったのでパーティー会場へ移動する。

 長テーブルが二つと子ども用の少し低い長テーブルが一つあり、真ん中のテーブルにはおにぎりやサンドイッチなどが並べてある。タープを張って日除けもバッチリできている。

 子供たちは熱いと食べられないので、あらかじめ焼いたものを大皿に盛っている。大人たちは野営でなれているメンバーが早速焼き始めた。


 私とシノとロアンヌはちっちゃい子たちに食べさせながらちょこちょこ摘まんでいるが、思った通り肉食たちのペースが早くて焼くのが間に合っていない。

 しょうがないのでここで新たな肉料理を投入する。

 オークのお肉をタレに一晩漬け込んで、オーブンで焼いたものだが、本当は薄く切って野菜で巻いて食べるつもりで取って置いたのだ。

 肉食たちは厚切りで次々と口に放り込み酒を飲む。助さん格さんも厚切り肉にご満悦のようだ。


「主、我らはスピグナスの肉が食べたかった。」

「そうだよねー。あんなに頑張って倒したのにね。でもバッセレイとサイグロストのお肉はちゃんと下拵えしてあるよ。」


 私は鉄板が熱くなっているのを確認して、アイテムボックスからバッセレイとサイグロストの厚切り肉を出す。生姜醤油、ニンニク醤油、塩レモンと三種類のタレに漬け込んであったお肉は鉄板に乗せると焼ける音とともにいい匂いが辺りに広がっていった。


 串焼きに群がっていた肉食どもが匂いに釣られて移動してきたとき。空から大きな鳥が降りてきて鉄板に乗せようとしていた肉をかっさらっていった。


 突然のことで驚いていると横から鳥に向かって叫びながら突進していくものが現れた。


「抜け駆けはダメだにぃ。あたいだって腹ペコだにぃ。」

「オレが捕ったもんだ。やらねーよ。」

「静かにおしよ。まったく。」


 言い争っている後ろから更に出てきたのは猫だった。肉をかっさらったのは鷹で突進していったのはうさぎだ。しゃべっているということは、たぶんあれだ。間違いなく不思議生物だ。


「主、我らの仲間が来ている。」

「呼んでもいいか?」

「あー、あれとは別に?まあこれだけいたら増えても変わらないでしょ。呼んでおいで。」


 助さん格さんはシッポを振りながら走っていった。残ったのはこの三……いや二匹と一羽だ。


「おぬしら招待も受けず勝手に入り込んで食事をするとは、礼儀を知らんな。」


 オスロの言葉に不思議生物たちが振り向いた。


「礼儀知らずとは失礼な。ちょっと腹が減っていただけではないか。」


――うん、お腹が減ってるの関係ないよね……。


「あたしら大きな魔力を感じて集まって来たんだよ。」

「主を探しているのだ。最高のオレに相応しい者は誰だ?」


 不思議生物たちはパーティー会場にいる人たちを見渡してそれぞれが動きだす。


「あたいはこの子にするにぃ。」


 そう言ってリンネットに飛びついたのはうさぎだった。

 真っ白な毛並み、ロップイヤーラビットのような垂れた耳に真っ赤な目。額に小さな角状の赤い輝石がある。


「可愛い!ボクが主になるの?」

「そう!早く名前を付けるにぃ。」

「えーっと、じゃあルビー。目も角もルビーみたいに赤いから。」

「あたいはルビー、契約を交わし、忠誠を誓う。」


 ルビーはクレセント・バニーという種族らしい。次に主を決めたのは猫だった。ひょいっとシノの膝に飛び乗り首を伸ばしてシノを見つめる。


「あたしはこの子にするよ。さあ、名前を付けてちょうだい。」

「私でいいの?そうね、神麗(シンレイ)はどうかしら?」

「とっても素敵な名前ね。あたしはシンレイ、契約を交わし、忠誠を誓う。」


「シノさん、その子猫又……。」

「猫又ってのはなんだい?」

「えーと、長生きした猫の尾が二又に別れて二足歩行をしたりしゃべるようになるっていう伝説的な?」

「あたしらはツインテール・キャットで生まれたときから尾は二つだし、普通にしゃべってるよ。」


――神獣だもん。妖怪とは違うよね。


シンレイはライトグレーの毛並みに薄い緑色の目をしていて、額に逆三角形の黄色い輝石があった。


 最後は鷹だ。鷹だけに~。ってそれしかないでしょう。

 予想通り鷹だけにタカを選んだ。


「オレはこいつにする。最高のオレに相応しい輝きだ。さあ、名前を付けろ。」


 主にしようと思う人をこいつと呼ぶのはどうなんだろう?と思うが、相手は神獣なので考えるだけ無駄なのかもしれない。シンレイもシノをこの子って言っていたし。


「では君の名前はロフティにしよう。」

「気に入った。オレはロフティ、契約を交わし、忠誠を誓う。」


 ロフティはアルティメット・ホークという種族らしい。ダークブラウンの身体の胸の辺りに紫の菱形の輝石があった。


 この間子供たちは走り回って遊び、魔導師コンビは興奮し、クラウスは様子を見ながらも肉を焼いていた。他の皆も驚きはするが、もはやなれたもので主が決まれば普通に受け入れている。


――いやー。慣れって怖いね。



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