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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
30/80

説教とパーティー準備

 


「扉が開いてるぞ!捕らえた女はいるか?」


 たくさんの足音が近づいてきて、私たちの前で止まった。


「リオーネ、これはどういうことだ?」


 私たちの宴会を見て衛兵たちが牢屋の前で唖然とする中、声をかけてきたのはトラヴィスだった。


「トラヴィスさん、お久しぶりですね。」

「いや、ここで何をしているのかと聞いているのだ。」

「えーと、昼食を食べ損ねてお腹が減ったので……。ちょっとお食事を。」

「エレインはなぜここにいる?」

「お肉があったから。」


 トラヴィスが額に手をあてため息をつく。そして衛兵と話し始めた。


「この者を捕らえた理由はなんだ?」

「上級聖女様に対して非礼を重ねたということで、聖女様より捕らえるよう要請がありました。修道館のギリング様もその場にいらっしゃいました。」

「こちらは聖母様である。上級聖女ごときが処罰できるお方ではない。」


 聖母と聞いて衛兵の顔色が変わった。


「リオーネ、身分証は出さなかったのか?」

「出せと言われませんでしたから。それにしても私がここにいるってどうして知っているのですか?」

「クラウスから手紙を受け取った。早く出さないと王都が更地になると書いてあったが。」

「まさか、私にそんなことできるわけないじゃないですか。」

「できると聞いたが。」


 思ったよりしっかり報連相ができている。でも三日の猶予をもらったはずなのになぜ知っているのだろうか。

 王都が更地になると聞いて衛兵たちはざわつき始めた。


「トラヴィスさん、物騒なこと言わないでください。まるで私が魔王みたいじゃないですか!

「いっそのこと肩書きを変えたらどうだ?」

「お断りします。私はただ帰って明日の準備ができればいいんです。」

「お前を捕らえるように言った上級聖女はどうするつもりだ?」

「どうもしませんよ。助さん格さんは食べる気満々でしたけど。お腹を壊すと困るので止めました。」

「確かにそれは困るな。」


 トラヴィスが困るのがどちらかわからないが、とりあえずここからは出られそうだ。私を捕らえて連れてきた衛兵もトラヴィスに身分証の確認をしなかったことなどを怒られて平謝りだったが、彼らは仕事をしただけなので私は特に怒ってはいない。


「彼らはきちんと仕事をしていましたよ。もし理不尽な暴力を受けたりしたら今頃お腹の中でしょうし。」


「まあいい、家まで送って行こう。」

「ありがとうございます。片付けますんでちょっと待ってくださいね。」


 広げていたお肉をアイテムボックスに放り込んで牢屋から出たが、衛兵たちは助格コンビが通ると後退りしてかなり距離を取っていた。


 ――脅かしちゃってごめんね。



 エレインと一緒にトラヴィスが用意してくれた馬車に乗り込み館へ向かう。

 馬車が動き出すとトラヴィスのお説教が始まった。


「お前は馬鹿か?修道館を敵に回すと貴族にも睨まれることになるぞ。」

「そうそう、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


 全く気にしていない私に呆れたようにため息をつきながら、トラヴィスは「なんだ。」と返す。


「アリシアが上級聖女はクラウスさん狙いだと言っていましたが、聖女って結婚できないんですよね?狙う意味がわからないんですけど。」

「確かに聖女は結婚できない。だが貴族たちは能力の高い聖女を専属にすることで優劣を競っているので、聖女の方も家柄や地位を見て自分を売り込もうとするんだ。」

「専属ってことはお抱え医師みたいなものでしょうか?」

「いや、分かりやすく言えば妾だな。結婚はできないが扱いとしては第二、第三夫人といったところか。だが子を産むことはできないはずだ。」


 上級聖女になって貴族の妾になる……。聖女のイメージが崩壊した。シノのようにいつも笑顔で優しいのが聖女としてあるべき姿だ。そう考えると私はほど遠いが、それはまあいい。

 しかし、狙っている相手の前でヒステリックに喚き散らすなんてただの馬鹿だろう。アイーシャを専属にして優位に立てるとは思えない。


「お前も他人事ではないぞ。王族と面会したあとはお披露目で嫌でも貴族の目に止まるんだ。申し込みが殺到するだろうな。」

「はあ?子連れのおばさんですよ?」

「貴族が欲しいのは聖母という肩書きだ。」

「めんどくさいですね。」



 屋敷の帰るとリゼルダとシノが迎えてくれた。シノは心配してくれていたが、リゼルダは興味津々にその後の話しを聞きたがった。

 トラヴィスは仕事が残っているとそのまま引き返して行ったので、私たちは厨房へ移動し、パーティーの準備をしながらおしゃべりをする。

 結局アイーシャはシノに対しての謝罪はしなかったらしい。だが、子供たちを引き取ったことで修道館に戻ることになったという。

 私が衛兵に連れられて出て行った後の話しをすると、リゼルダは大笑いして「だから心配要らないって言ったでしょう?」とシノに言っていた。


「鼻っ柱をへし折ってやれなかったのがちょっと悔しいですね。」

「それなら大丈夫だよ。クラウスさんが代わりにやってくれたから。」

「何をしたんですか?」

「アリシアに聞いた話しだけどね。あんたが出て行ったあとまたクラウスさんにすり寄っていたらしいんだよ。でもクラウスさんが自分の大切な人に対するあなたの言動は許さない。って言ったんだってさ。それで上級聖女は野望潰えて修道館に帰ったってわけさ。」


 ――殺気は感じなくても、ハッキリ言われればわかるんだ。こんなことならクラウスさんに丸投げすればよかった。


「では孤児院は安泰ですね。それよりシノさん、勝手に子供たちを引き取ることを決めてごめんなさい。私もできる限りのことはしますので。」

「いいのよ。皆手のかからないいい子ばかりだもの。賑やかになって嬉しいわ。」


 ――やっぱりシノさんはすごいな。さすが特級聖女。


 私たちは口と手を一生懸命動かしながら準備を進める。

 唐揚げとサンドイッチとおにぎりは摘まめるように大皿にもってアイテムボックスに入れておく。

 バーベキューなので串焼きと鉄板焼きがメインになるが、肉食たちが少しでも野菜を食べるように肉の間にちょこちょこ野菜を挟みながら串に刺していく。

 どのくらい用意すればいいのかわからないが、半分が肉食なので、追加に困らないように下味だけは付けてこれもアイテムボックスに放り込んだ。


「あとは飲み物ですよね。外でなら冷たい方がいいんですけど氷ってあるんですか?」

「冬じゃあるまいし、あるわけないだろ。」


 リゼルダが言うには、冬になると北の方から氷を売りに来る商人はいるが、高いので庶民が買うことはないらしい。貴族は氷室に入れて保存の魔術を使い、夏にも氷が使えるらしい。


 ――氷って作れないのかな?


 私はパットに水を入れて、「キンキンに凍っちゃえ!」と言って魔力を放った。

 なんの変化もなかった。やっぱり魔術を使うためには呪文を覚えなければならないようだ。はぁーっと大きなため息をついて私は作業に戻った。


 ――今日はいろいろあったけど、明日はうんと楽しもう!



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