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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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追放とステータス

 


 鎧の集団に案内されて、建物内を歩いていく。

 歩くペースはこちらに合わせてくれているし、階段ではキャリーワゴンも持ってくれる。そんなに悪い人たちではなさそうだけど、義務的な感じは拭えない。


 ――まるで迷路だね……。ここはダンジョンあいつは魔王。ホント偉そうで腹立つわ。まあ、実際偉いんだけど。



 召喚された部屋を出てからかなりの距離を歩いている。何度も角を曲がり、いくつも階段を降りたが、その道程で装飾品が途切れることはなかった。

 かなり豊かな国なのか。それとも民を酷使して搾取しているのか。どちらにしても魔王の国では暮らしたくない。

 それよりも気になるのは白髪のご夫婦だ。


「あの、もうずいぶん歩いていますけど、大丈夫ですか?」


 私が声をかけると二人ともにっこり笑って大丈夫だと言った。旅行が好きで普段から散歩やストレッチで足腰が弱らないようにしていると言う。

 在宅ワークで家にこもり、近所のスーパーに行くにも車を使っていた私とは大違いである。

 ご夫婦は御園貴文さんと忍さん。旅行から帰って来たところを召喚されたそうだ。少しずつお互いの話をしているうちに大きな扉の前に着いた。鎧の集団が整列すると目の前の扉がゆっくり開かれる。

 扉の外にはヨーロッパ風の広大で手の行き届いた庭園が広がっていた。

 旅行で来たのなら、はしゃいで写真を撮りまくっているだろうけど、今の状況を考えるとそんな気分にはなれない。むしろ贅を尽くしている魔王に腹が立つ。


「ここから道なりに進むと街に入れます。では、お気をつけて。」


 鎧の集団はそう言い残して去っていった。私は閉まる扉を見たまま声も出ない。隣で御園夫妻も唖然としている。


 ――えっ?こういう場合、しばらく暮らせるぐらいのお金を渡すとか、施設を紹介するんじゃないの?何なのこの扱い。異国じゃなくて異世界なのよ?この国を救ってほしい?ふざけんな!彼女たちが救う前に私が滅ぼしてやるわ!


 できないのはわかってるけれど、そのぐらい怒っている。そんな私を見て、ちびちゃんズが「ごめんねー」と繰り返す。


「みーちゃんといーちゃんを怒ってるんじゃないんだよ。」


 そう言って顔を寄せて笑って見せると、伊織が小さな手で「いい子いい子」と言いながらおでこをなでなでしてくれた。可愛さに癒される。

 ……でも、私はそのとき気づいてしまった。ちびちゃんズは悪いことをしたから謝るんじゃなくて、私が怒っているから謝っていたってことに。イタズラして怒っても繰り返すわけだ。


「これからどうすればいいんでしょう。」


 貴文が問う。でもその答えは誰にもわからなかった。わかっているのは、ここが異世界で常識の通じない場所だということと、私たちが一文無しということだけ。この場にいてもしょうがないので、とりあえず街に向かって歩くことにした。

 庭園を抜けると道の両側に背の高い木が増えてくる。お城の入り口も見えないし、ちびちゃんズがお腹が減ったと騒ぐので、少し道を逸れて木陰で休憩することになった。


 駅前広場にいたときは夕方だったのに空を見上げれば太陽はかなり高い位置にある。どのぐらい時間が経ったのかわからない。


 ――うーん。時差ボケになりそうだね。


 私と露里でキャリーワゴンからお弁当やお茶を出して並べていく。


「御園さんも一緒にいかがですか?」

「ああ、ありがとう。私たちも家に帰ってから食べるつもりでお弁当を買っていたんだよ。」


 そう言ってバッグからお弁当を取り出す。

 私たちはお弁当を食べながらこれまでの話をした。楽しいことだけを選んで。



 食事を終え一息つくと、嫌でも現実と向き合わなければならない。

 街に入る前にこれからどうするのかある程度話し合っておきたい。私はこの国から出ようと思っているが、現状としては今夜の宿もお金もない。


「鑑定したかったな。」


 そうポツリと呟けば、露里から衝撃的な言葉が返ってきた。


「鑑定なんてしなくても、ステータス見ればいいじゃん。」


 ――なんですと?


 露里の話では、ステータスも見られるし、スキルも使えるらしい。そういえば、衝撃と怒りの連続で異世界転移あるあるをひとつも試していなかった。

 まずは露里に教わってそれぞれが自分のステータスを確認することにした。


 ◇◇◇

 佐山莉央 Lv82 聖母

  HP 3752/3752

 MP ∞

 属性 神聖 火 風 土 水

 スキル 鑑定 グレンドーラの鐘 家事


 ◇◇◇

 佐山露里 Lv58 アサシン

 HP 3295/3295

 MP 4600/4600

 属性 火 風 水

 スキル 隠密 マッピング 追跡 感知


 ◇◇◇

 佐山凛華 Lv46 特級魔導師

 HP 2369/2369

 MP 4012/4012

 属性 火 風 土

 スキル 魔道具作成 調合 幻術


 ◇◇◇

 御園貴文 Lv62 賢者

 HP 2683/2683

 MP 5260/5260

 属性 火 風 土 水

 スキル 知識の番人


 ◇◇◇

 御園忍 Lv60 特級聖女

 HP 2183/2183

 MP 7014/7014

 属性 神聖 風 土 水

 スキル 聖女の祈り


 皆のステータスを共有してみたけれど、数値に関しては、この世界の基準がわからないため何とも言えない。だけど、召喚されたのは間違いなく勇者ではなかった。


「お母さんは何で聖母なの?」

「うーん。オカンだから?」


 凛華に聞かれたけど、そんなこと私にわかるわけない。それでも私の答えに


「オカン聖女?ウケるー。しかもスキルが家事ってそのまんまじゃん。」


とお腹を抱えて笑っている。思春期娘の笑いのツボがわからない。


 ――MP∞ってことは魔力は無限に使い放題なんだよね?スキルのグレンドーラの鐘は何なのかさっぱりだけど、この世界のことを調べるのは最優先事項だね。


 私たちだけで話していてもどうしようもないので、とにかく街へ入ろうと荷物をまとめていたら、突然背後から一人の男性が現れた。






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