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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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私の怒りとアルマゲドン

 


 その後もオークやバッセレイという水牛のような魔獣を狩ながら進んでいく。

 少しずつ木がまばらになり、赤茶けた大地が見え始めた頃、エレインのサーチが助格コンビを捉えた。

 私たちは馬車を降りてゆっくりと近づいていく。地響きを感じるようになると時々魔獣の咆哮が聞こえてくるようになった。

 木々が無くなり視界が開け荒野が広がると、最初に目に入ってきたのは、サウラドラゴンと同じような形の体躯に、ワニのような口をした魔獣だった。そしてそれは前回狩ったサウラドラゴンよりはるかに大きかった。助さんと格さんが二体で攻撃しているが、魔獣もなかなか動きが速く、大きな口を開けて食らいつくように頭を振って二体を追っていた。


「おお!スピグナスではないか!」

「素晴らしい。是非、魔石を得たいですね。」


 魔導師コンビが興奮していてちょっとうるさい。


「クラウスさん、スピグナスはどんな魔獣なんですか?」


 私は隣に立っているクラウスに情報を求める。


「俺もスピグナスは初めて見る。本来この国にいる魔獣ではないので詳しいことはわからない。どうやって国境を越えたのか調べる必要があるな。」


 ウォルフもリゼルダも見るのは初めてだと言う。これほど大きいと騎士団でも討伐は難しいらしく、助格コンビに任せるしかないのだが、苦戦しているように見えた。

 皆が戦いを見つめる中、エレインの頭から声がした。


「スピグナスは目の上辺りの脳天を貫くと倒せるぞ。そのためにはまず目を潰すことじゃ。」


 オスロが少し頭を持ち上げて舌をチロチロ出しながら言った。それをどうやって助格コンビに伝えればいいのかわからない。ここからだと助格コンビはかろうじて姿が見えるくらい遠いのだ。だが二体の戦いを見ていると、攻撃が頭部に集中しているので、弱点を知っているかもしれない。


「主の武器が使えるが、ちと魔力が足りんかのう。」


 オスロは、エレインのクロスボウの矢じりを火属性と土属性で作り、目を射って動きを止め、そのあと神聖属性の槍で脳天を貫けばいいと言った。


「簡単に言うが、莫大な魔力が必要じゃぞ。」


 ダルフォードがあご髭を撫でながら言うと、ウォルフがポンと手を打ち私を見た。


「バカほど魔力を持ってるじゃないか。」

「ボスと合わせ技?」


 ――エレインの目がキラリーンと光った気がするんだけど……。


「私にできることはしますけど、何をどうすればいいですか?」

「主は土属性を持っておらぬからのう。矢じりはリオーネが作るのがよかろう。」


 オスロがそう言うと、エレインがアイテムボックスから棒を一本出して私の手に乗せ、「ボス、がんば!」と言う。


「がんば!じゃなくて、ちゃんと説明してくれないと全然わかんない。それに、目は二つあるんだけど。」

「おっとそうだった。はい、もう一本。火と土で矢じりを作って。」

「どうやって?」

「作ろう!って思えばできる。ダメなら作る!って言ってみて。」


 エレインの説明がざっくり過ぎて理解できないが、とりあえずは言われたようにやってみる。棒を手のひらに乗せて握る。そして「火と土で矢じりを作る!」と言うが……何も変化が起きない。

 エレインはこの棒に矢じりと羽根をつけてたはずだけど……とエレインがギルドの訓練中に矢を作っていた姿を思い出す。

 すると、エレインがしていたように矢じりと羽根が現れ始めた。


 それを見てオスロが頭を近づけてくる。


「属性分離ができておらんぞ。」

「やり方がわからないのでできません。」

「それほどの魔力を持っておるのにできなんだか。まあ、全属性なら威力が弱まることはないじゃろうて。そのまま魔力を込めていけばよい。」


 私は言われるままに全力で魔力を込めていく。矢じりからバチバチと音がして、放電しているような光に包まれている。

 どこまで魔力を込めていけばいいのかわからず、オスロに聞こうと顔を上げたとき、目の前で戦っている魔獣の動きが止まった。そしてゆっくりとこちらに向かって動き出した。


「しまった。魔力に気づかれてしもうたわい。」

「エレイン。魔獣の目を射るのじゃ。」


 じいさんが二人でややこしい。が今はそんなことを気にしている場合と違うので、できた矢をエレインに渡す。そして助格コンビを呼んだ。


 声が届いたとは思えないが、助格コンビが振り向いた。その瞬間魔獣が大きく頭を振り、二体を弾き飛ばした。

 助さんと格さんが落ちていくのが、スローモーションのようにゆっくりと見える。それと同時に怒りが湧き上がってくる。

 私は体中を駆け巡って溢れる魔力をスピグナスの脳天めがけて放った。


「アルマゲ・ドーン」

 

  私の魔力は隕石のように炎を纏った火球になり、スピグナスの頭を地面に叩きつける。そして頭を貫いた火球によって地面に大きなクレーターができた。轟音が響き、次に衝撃波がくる。ダルフォードが防御の盾で皆を衝撃波から守ってくれたので私たちは怪我をすることもなく土埃を浴びただけで済んだ。


「怪我はないかのう?」

「ありがとうございます。大丈夫です。」


 エレインは使わずに残った矢をもったいないからとアイテムボックスにしまった。

 私はすぐに助格コンビの姿を探したけど落ちていった方向には見当たらない。走り出そうとした私をリゼルダが止め、エレインがサーチする。


「ボス、助格こっちにいる。」


 エレインが指し示したのは、落ちた方向からだいぶ先の場所だった。私たちは助格コンビを探しに向かい、クラウスとウォルフはスピグナスの状態を確認しに行った。


 エレインが「助格こっちに向かってきてる。」と言うので、とりあえず動けることがわかって胸を撫で下ろす。だが実際に二体の姿が見えると血の気が引いた。身体の半分が血に染まり真っ赤になっていたのだ。


「助さん、格さん。怪我してるの?どこ?」

「怪我は大したことない。」

「魔獣に落とされたあと、何かが降ってきた衝撃で更に飛ばされて岩山にぶつかったのだ。」


 ――あー、それはもしかすると、私のせい?


「ごめんね。すぐに手当てしなきゃ。誰か救急箱持ってませんか?」


 私の問いに誰も答えてくれない。それどころか複雑な表情をして私を見ている。


「リオーネ、そなた聖母であろう?治癒と癒しの魔術を使って治すのではないか?」

「皆当たり前に言いますけどね。私は魔法のない世界から来たんですよ。わかってたら魔術学院に入学する必要なんてないんです。」

「そうであったな。魔力の調節も学ばねば、あのような火球を落とされたら国が滅ぶわい。それよりアルマゲ・ドーンとはなんじゃ?」

「あー、それは私のいた世界の予言に出てくる、世界を滅亡させる原因の隕石です……と、思います。」

「映画で見た!予言って何?地球って滅亡するの?いつ?」

「お母さんが学生の頃に滅亡するはずだったけど、しなかったの。」


 私は話しながら治癒と癒しの魔術がどんなものか考える。前にアリシアが癒しを与えるのを見たけど、呪文は覚えてない。

 私は助さんと格さんを抱き寄せ傷口にそっと手を当てる。


 ――これが本当の手当て。なんてね。冗談です。はい。


「癒しはヒールよね。じゃあ治癒は何?痛いの痛いの飛んでいけー。とか?」


 ズワっと手のひらから魔力が放出されていく。私も驚いたが、助格コンビも驚いていた。


「主、怪我は治ったが、その呪文を聞くのは初めてだ。」

「でしょうね。私も初めて言ったから。」

「おお!異世界の呪文かのう?」


 ダルフォードがとても楽しそうに聞いてくる。知らないことを前にした興奮度合いがマルセロと一緒だ。だがマルセロはダルフォードの前では興奮はしても暴走はしないので、ここは弟子に任せよう。


「助さん、格さん、傷が治ったならその血をキレイにしちゃおうよ。」

「我はこのままでも構わんぞ。」

「我も気にしない。」

「私が気になるの!いいから目を閉じて息止めて。」


 私は助格コンビに洗浄魔術をかけてキレイにする。やっぱり真っ白モフモフが一番だよ。二体を抱きしめてキレイになった毛並みに顔を埋める。


「主もキレイにした方がいいと思う。」


 ――そうね。さっき土埃をいっぱい浴びたわ。


「ごめんね。それよりスピグナスを見に行こう。」


 話を反らし、皆でスピグナスの倒れているところへ向かうが、途中からクレーターのデコボコに足を取られて進みにくくなる。それでもしっかり歩いてるダルフォードを見ると本当に元気なのだと思う。


  スピグナスの頭元にはクラウスとウォルフがいた。


「キレイに脳天を貫いてるぞ。」

「他に傷も少ないし貴重な素材もたくさん取れるだろう。」


 クラウスとウォルフの言葉に魔導師コンビは踊り出しそうな勢いで喜んでいる。


「あんたとんでもないことやったねぇ。」


 リゼルダが呆れたように笑う。


「あはは、やっちゃいましたね。それにしても大きいですね。どうやって解体するんでしょう?」

「肉は我らのものだ。」

「肉は絶対に譲らぬ。」


 助格コンビは相変わらず肉にしか興味がない。私の質問にはマルセロが答えてくれた。


「解体場に入らない場合は解体職人を連れてきてその場で解体するのが一般的ですね。問題はどこの職人を呼ぶかです。」

「ジグセロさんでいいんじゃないですか?」

「そう簡単な問題ではないのです。これだけ大きく、希少な魔獣ですからね。権利争いが起こりますよ。」


 マルセロがなにやらまた面倒なことを言い出した。


「言っている意味がわかりません。助さん格さんが見つけて戦って得た魔獣の権利を誰と争うんですか?」

「前にも言った通り、魔獣を買い取り解体したものがオークションに出品する権利を得るんです。さすがにこのサイズで希少価値も高いですからね。」

「解体を頼むのは私ですよね?私が決めることでしょう?」

「そうもいかないんですよ。魔導師団としては貴重な素材もですが、スピグナスについての研究もしたいですから陛下に報告して国の管理下で解体をしたいと思います。」


 ――……王族と争うってこと?めんどくさいことこの上ない。


「無理ですよ。お偉いさんはこっちの話しなんて聞かないじゃないですか。お断りします。」

「簡単に断れることじゃないです。」


 もう既に話しにならない。私は引っ越しパーティーのための肉を求めて狩りをしているのであって、素材はおまけでしかない。

 私はアイテムボックスを開け、入り口のモヤモヤをスピグナスにつけるようにカバンをひっくり返す。すると一瞬でスピグナスはアイテムボックスに吸い込まれた。


「めんどくさいのでこれはなかったことにします。」

「「なっ!」」


 一同が驚愕の表情を見せる中、エレインだけが笑い転げていた。

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