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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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じいちゃんと派遣聖女

 


 引っ越しを終え、館での生活が始まった。

  助格コンビは元の大きさに戻り、見廻りと称して領地内を駆け回っている。

 私は一日の半分をキッチンで過ごしていた。館のキッチンは家電製品がないので何をするにも手間がかかる。これでちびちゃんズが横でバタバタしていたらきっと毎日雷が落としているはずだ。だが今はシノのおかげで落ち着いて料理ができる。シノ先生の保育園は絶対に必要だ。



 魔獣狩の前日、シノはアリシアから手紙をもらって朝早く孤児院へ出かけて行った。引っ越してから三日しか経っていないのに何があったのだろうか。

 シノがいないので今日はちびちゃんズと戦いながら家事をしている。お昼は唐揚げにしようと朝からお肉に下味をつけておいたので、時間を見計らって揚げていく。時々足音がしてはクスクス笑い声がする。私は何度目かの足音が後ろで止まった瞬間、振り返って声を張る。


「こらー!つまみ食いすんなー!」


 ……そこにはちびちゃんズではなく、唐揚げを口に入れようとしている老人の姿があった。


 ――えっ、誰?


 お互いに驚いて固まっている。そこへ大声を聞いた皆が集まってきた。


「じーちゃん見つかった?負けー。」


 ミランダが楽しそうに笑っている。ミランダに知っているのか聞くと「じーちゃんお友だち。」と返ってくる。

 お友だちがどこの誰なのかハッキリさせないといけない。

 私が尋ねるより先に駆け込んできたマルセロが声をあげた。


「師団長様!なぜここに?」


 ――師団長ってことは魔導師団のトップよね?体力が衰えて、仕事が滞りがちって聞いた気がするんだけど……。


 持っている唐揚げを口に入れうんうんと頷きながら食べて、師団長はマルセロに言った。


「そなたは最近姿が見えぬことが多いし、そなたの部屋で転移魔方陣を見つけたもんで、来てみたんじゃ。」

「来てみたんじゃ。じゃないですよ!城にお戻りください。」


 マルセロに一喝できるはずの人がマルセロと同じ行動をしていることに皆が遠い目になっている。


「伺ったお話しと違ってとてもお元気そうですね。」


 そう私が言うと、もう一つ唐揚げをつまみながら師団長が答える。


「誰に何を聞いたのかは知らぬが、ワシはこの通り元気じゃよ。」

「体調が悪くて仕事ができないと聞きましたが。」

「ナイゼルかの、ワシを見つけられなくてそんなことを言っておるのじゃろう。だいたい、いつ死ぬかもわからんのにそんなにあてにされても困るわい。仕事ならそなたら若いもんがすればよいじゃろう。全く年寄りをこき使いおって。」


 ――いやいや、当分死にそうにないですよね。それよりつまみ食いやめて。


 師団長は唐揚げを食べながら文句を言い、再び皿に手を伸ばす。そこで睨んでいる私と目が合い手を引っ込めた。


「すまんのう、美味しくてつい。」

「昼食を用意するので応接室でお待ち下さい。」


 私がそう言うと、マルセロがため息をつきながら師団長を応接室に案内していった。なんともそっくりな師弟であるが、マルセロは自分が同じことをしている自覚はなさそうだ。

 リゼルダがお茶の用意を始めたので、私も揚げ物に戻る。


「これを出したらスープを仕上げてしまおうかね。」


 そう言ってリゼルダはワゴンを押して応接室へ向かった。



 昼食を食べながら師団長がマルセロに不満をこぼす。


「そなたワシに隠れてこんなところに通っておったのか。美味しい物を独り占めするなんてずるいではないか。しかもなにやら招待状もきておったのう。」

「勝手に私の部屋をあさらないでください。」

「人聞きの悪いことを言うでない。部屋を訪ねたら投げっぱなしが見えただけじゃ。」


 マルセロが勝てないのはわかった。だが、正論で一喝するのではなく、マルセロの上を行く困った人だということもわかった。食後のお茶を飲みながらも話しは続く。


「これは明日の昼食が楽しみじゃのう。」


 ――毎日通う気ですか?


「師団長様、明日は用事があって館を留守にするので、お食事は寮で召し上がってください。」


 私がお断りすると、「そうか、残念じゃ。」と師団長は項垂れた。するとミランダが師団長の膝によじ登り師団長の顔を覗き込む。


「明日は皆魔獣狩に行くの。じいちゃんミーちゃんと一緒にお留守番する?」


 五歳児に空気が読めるわけもなく、あっさりバレてしまった。皆が固まる中、師団長は笑顔でマルセロに向き直る。


「楽しそうじゃのう。」


 こうして師団長の参加も決定してしまった。


「ここへは内緒で来ておるからのう。ワシのことはダルフォードと呼ぶがよい。そなたらはじいちゃんで構わんぞ。」


 ダルフォードはちびちゃんズの頭を撫でながらニッコリ笑う。


「そういえばマルセロから特級魔導師が学院に入ると聞いたんじゃが。」

「それはこちらのリンネットさんです。それとリオーネさんも一緒に入学されます。」


 マルセロは私が魔術学院に入る経緯を説明した。


「リオーネは学院に入らずとも、ワシが教えてもいいのじゃが、どうじゃな?」

「師団長様はお仕事をしてください!」


 私が答えるより先にマルセロが却下した。確かにこんなに元気なら仕事をすればいいと思う。

 明日のためにも帰って溜まった仕事を片付けなければと二人は帰っていった。


 そして夕方には疲れきった顔をしたシノが帰ってきた。すごく気になっていたので、お茶を出しながら何が起こったのか聞いてみる。


 シノはお茶を一口飲むと、ふぅと息を吐いて話し始めた。

 修道館から派遣された聖女は三人。上級一人と中級二人だったそうだ。それがまず大きな問題で、上級聖女が働かない上に、中級聖女がそのお世話に付きっきりになるので、結局はアリシア一人で仕事をすることになってしまい、シノに助けを求めたようだ。それでもアリシアとシノは私がいない間も二人でお世話をしていたので問題は無いはずだった。

 ところが中級聖女がシノに仕事を押し付けるので、子供たちのお世話がほとんどできなかったとシノは悲しそうに言った。


「上級聖女って貴族相手に仕事をするんでしたよね?なぜ孤児院に来たんでしょう?」

「アリシアの話しではクラウスさんが孤児院によく出入りなさってるのを聞きつけて立候補したとか。」


 ――おう、受付嬢のお仲間か?


「仕事をしないならチェンジですね。明日は狩があるので行けないですけど、明後日なら私も一緒に行けますよ。」

「明日は私もここでミランダとイレーヌを見ているつもりだから、アリシアには行けないと伝えてあるのよ。大きい子たちにもアリシアのお手伝いを頼んでおいたし、アリシアは大丈夫って言うけどやっぱりちょっと心配だわ。」


 お茶を飲み終わると少し休みたいとシノは部屋に戻っていった。

 特級聖女を下働き扱いするなんて、とんでもないお姫様が来たものだ。私がその場にいたら間違いなく雷を落としてたと思う。ただ、魔力を得た今は本当に雷が落ちる可能性があるので要注意だ。



 今回の魔獣狩は老人がいるので馬車が用意されていた。ダルフォード、私、リゼルダ、マルセロが馬車に乗り、ウォルフが御者でその隣にエレインが座り、クラウスは馬で移動する。前回は徒歩だったので、あまり強い魔獣に遭遇しなかったが、今回は常にエレインがサーチしているので、一気に森の奥まで進むらしい。


 助格コンビは早々に獲物を探して飛び出していった。

 ダルフォードは助格コンビやオスロを見て大興奮していたが、こっちは脳の血管が切れるんじゃないかとハラハラしていた。

 最初にエレインが捉えたのはサイグロスト。見た目もサイその物だった。素材としてはとてもいい魔獣らしいが、群れで活動するので七頭を一度に相手することになった。

 ウォルフ、クラウス、エレインが先に近づき、ダルフォードとマルセロが後方で支援する。リゼルダは私と馬車の守りについた。

 サイグロストは鎧に使われるほど皮膚が硬く、武器が簡単には通らないので主に魔術で攻撃する。

 クラウスが比較的皮膚の薄い鼻先にウォーハンマーを叩きつけ、サイグロストが吠えたところを口内に向けて火球(かきゅう)をぶち込む。すると頭部が内側から焼けて死に至る。

 一頭仕留めると、残りのサイグロストが威嚇しながら突進してくるので時間との勝負になる。吠えるものには次々と火球を放ち、角を向けてくるものはクラウスが一撃を加えていく。途中エレインがクロスボウを口内に撃ち込んだが動きは鈍ったものの、仕留めることはできなかった。

 最後の一頭を仕留め、エレインがサーチで周りに魔獣がいないことを確認してから馬車を降りる。辺りには焼け焦げた臭いが充満してた。肉が焼けるのとは違ってあまりいい臭いではなかった。

 私とエレインで手分けしてアイテムボックスに入れていく。そしてそのあとは私の出番だ。皆に触れて魔力を補充していく。


 ――戦うことはできないけど充電なら任せて!

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