初めてのクエストと魔獣狩り
翌朝お弁当を持って出かけた私は冒険者ギルドに寄り、Fランクのクエストから薬草採集を選び、受付に向かった。
受付嬢達はそそくさと奥に引っ込み代わりにスライムカッパが出てきた。
「今日は薬草採集に行かれるんですね。定数より少ないと報酬は受け取れません。逆に多い分はお支払いしますので、頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます。」
――この対応を見習え!受付嬢。
南門を出た所で皆と待ち合わせしていたが、早めに着いたのに全員集合していた。いや、予定より多い。
ジグセロと同じ顔が笑顔で手を振っているし、アルフレッドは大きなカバンを抱えた男性を連れている。リゼルダはロングソードを持った女性と一緒だった。
「皆さんおはようございます。」
「おはよう、リオーネ。こっちは甥のヴィンスだ。荷物持ちと不動産の話をしようと思って連れて来たんだ。」
せっかく南門から出るので、売りに出されている土地もついでに見ようということらしい。さすが商人、効率的だ。
「おはようさん。こっちは二番目の息子の嫁のカミーラだ。現役の冒険者だよ。心配性でついてきちまった。」
リゼルダも強そうだが、現役ということで安心感が格段に上がる。
「おはようございます。隠してくるつもりだったんですが、バレてしまって。」
「素材に呼ばれました。」
――笑顔だけど言ってることおかしいからね。
私は薬草採集のできる場所が知りたいと言い、初心者の狩り場へ案内してもらった。
助格コンビは「もういいか?」と何度も聞いてくるが、許可を出す前に皆に説明しなければならない。
「助さんと格さんは王都に入るために小さくなっていますが、本当はもっと大きいんです。驚かないでくださいね。」
皆が頷くのを確認して助格コンビにゴーサインを出すと、額の輝石がポゥと光り、同時に元の大きさに戻った。「おお!」っと皆から感嘆の声が漏れる中、助格コンビは走り出した。
私は冒険者ギルドにあった薬草図鑑で今回受けたクエストの薬草、《モルギレス》を見てきたので、記憶を頼りに探していく。
――ドクダミみたいな薬草だったんだけど……。
草だらけでどれもこれも同じに見えてきた。それでも頑張って草を掻き分け進んでいると、マルセロが笑顔でやって来た。
「いいことをお教えしましょうか?」
「報酬は何でしょう?」
私も学習している。ここでうっかり先に聞いてしまうと、報酬を提示されてから困ることになる。
マルセロは笑みを深めて言った。
「リズリの花を探していただきたいです。」
「どんな花かわからないので無理です。」
「大丈夫です。今から教える方法ならどちらも見つけられますから。」
「見つからなかったらどうなるんでしょう?」
「探してくださるだけで報酬になりますよ。」
――探すだけでいいなら大丈夫かな。
「わかりました。教えてください。」
「鑑定を使えばいいんですよ。」
「鑑定ですか?見つけたら確認するのに使おうとは思っていましたが。」
「いえ、広範囲にモルギレスを指定して鑑定をかけるんです。」
――わお!そんな裏技があったとは。
私は教えてもらったように、見える範囲を囲むイメージで「鑑定 モルギレス」と言った。するとポツポツと、ところどころに下向きの矢印が見える。近付いて確認すると、図鑑で見たのと同じ草が生えていた。
――これならいっぱい採集できるよ。鑑定スキル便利だね。
私は矢印めがけて進み次々と採集していく。一時間もしないうちに定数以上の薬草が集まった。浮かれている私の隣でマルセロが微笑む。
「約束を覚えておいでですか?」
――あー。すっかり忘れてました。
「ええと、何の花でしたっけ?」
「リズリの花です。」
私は同じように範囲を指定して鑑定する。だが今度は何の反応もなかった。
「反応ありませんね。」
「なかなかのレア種ですからね。気長にお願いしますね。」
――えっ?ずっと探すの?
マルセロの報酬が鑑定一回で終わるわけがなかった。私たちは少しずつ先に進みながら、私は鑑定を、リゼルダとカミーラは魔獣を狩っていく。初心者エリアなので、そんなに強い魔獣は出てこないらしく、カミーラは物足りないみたいだった。
昼近くになって、王都からだいぶ離れた場所でオークに遭遇した。マルセロが手のひらに火炎を作りだし、オークに放つ。頭部に直撃しふらついたオークの首をカミーラのロングソードが切り裂いた。完璧な血抜きだった。
――やっと豚肉として認識できたところだったのに、二足歩行で柄の悪い豚なんて見たくなかった。ホントにこれアイテムボックスに入れなきゃダメ?
「皆さんこんな姿を知っていてよく食べられますよね。美味しいのは認めますけど。」
「オークはうまそうにしか見えないがねぇ。」
――あー。あれか?水族館に行って美味しそうって思うヤツ。いやいや、やっぱ無理美味しそうには見えない。
そんな会話をしながら昼食の準備を始めたとき、地響きと、何かを引きずっているような音が聞こえてきた。
カミーラが緊張した面持ちで前に出てロングソードを構える。その直ぐ後ろではリゼルダとマルセロが、いつでも攻撃できる体勢を整えていた。
突然視界にティラノサウルスのような大きな魔獣が横向きで現れた。そう、横向き……。
ドサッと落とされた魔獣の後ろには助格コンビがいた。もう一方は大きな鳥類を咥えていた。
「「サウラドラゴンにイグレットバード」」
同じ顔でハモった二人の興奮ぶりはドン引きものだった。近寄ってはいけないオーラが出ていたので、しばらく放置を決める。
「これはすごい。なかなかお目にかかれない代物ですな。」
アルフレッドが商人らしい目になっている。カミーラは戦いが見たかったと悔しそうに拳を握っていた。
「素材は取れそうですか?お肉はけっこうありそうですけど。」
「「解体はうちでしませんか?決して損はさせません。」」
キレイにハモっている辺り、まだ興奮は冷めていないようだ。
「ギルドに頼むのとどう違うんでしょう?」
「ギルドで解体すると魔獣の種類と大きさによって価格が決まっているんだよ。その点個人ならオークションでの儲けも入れて買い取ってくれるから収入としては大きいね。」
リゼルダの説明に納得するも、後ろから反論がある。
「我らの狩った獲物だ。肉は我らのものだぞ!」
「大丈夫ですよ。肉は全てお渡しします。」
「ならば良い。好きにしろ。」
そこで私は一つ疑問が浮かんだ。
「そのドラゴンって竜人族ではないんですよね?」
私の質問にマルセロはカバンから一冊の本を出してきて答えてくれた。
「ここに載っているドラゴンが竜人族の竜形の姿です。そしてこっちが魔獣であるドラゴンです。竜人族は国として成り立っていますし、言葉を介して意思の疎通ができますが、魔獣にはできません。」
図鑑で見ると違いがよく分かる。竜人族は映画とかでよく見る西洋ドラゴンの姿をしていて、一方魔獣は恐竜その物だった。図鑑をパラパラとめくっていると、東洋ドラゴンの姿があった。坊や~が乗っているあれである。
「マルセロさんこのドラゴンも竜人族ですか?」
マルセロは図鑑を覗き込み首を横にふる。
「これはグレンドール・ドラゴンといって神獣なので、エンシェント・ウルフと同じようなものです。」
「グレンドール……それってグレンドーラと似てますね。」
「グレンドーラとはこの世界の中心と言われる世界樹の名前です。山よりも高くその樹頭は誰も見たことがないとか。グレンドール・ドラゴンは唯一その樹頭まで飛んで行くことができると伝えられているんですよ。」
私が図鑑に夢中になっている間にアルフレッドとジグセロが解体について話し合っていたらしく、昼食をとりながら報告を受けた。
ジグセロの所有している解体場を使い、それぞれが欲しい素材を買い取る。そして残りは商業ギルドからオークションへ出品するというものだった。
「それで構いませんが、リゼルダさんとカミーラさんには護衛費用代わりに何か素材を選んでもらってくださいね。」
「いいのかい?私らがもらっても。」
「当然ですよ。とても助かりましたから。」
いいもなにも、これまでだってこれからだって、いろいろお世話になるのは間違いない。素材がお礼になるなら、是非もらって欲しい。そして気になるのがマルセロの報酬だ。
「リズリの花見つかりませんでしたね。」
花が見つからなかったのだから、マルセロにも素材を一つ選んでもらおうと思ったが、助格コンビが「リズリの花なら途中にあったぞ。」と言った。
「どこにあったのですか?」
身を乗り出して助格コンビに詰め寄るマルセロをジグセロが押さえる。リズリの花は匂いでわかるのだそうだ。
「必要ならば採ってきてやってもいいが。」
「是非!是非お願いします!」
マルセロの勢いに「では、我が行ってくる。」と一体が走り去る。残された方はジリジリと寄ってくるマルセロの頭をペシッと叩いて「近い!」と軽く威嚇した。
「ねぇ。あなたは助さん?格さん?」
「我は格之信だ。」
「あなたたちを見分けるための物が必要よね。」
「我らは全く違うが、わからないのか?」
――わからないから言ってるんですけど……。
「首にバンダナみたいなのを巻くとか……。でもそれじゃあ大きさを変えるときに不便だよね。」
「それなら獣人族の服飾店に行ってみるといいですよ。」
私の呟きにアルフレッドが答えてくれた。
「獣人族は変形したときに身体の大きさが変わるので、それに対応できる特別な服や装飾品を着けていますから。」
「ありがとうございます。行ってみますね。」
それからまもなく助さんが何本かの花を咥えて戻ってきた。マルセロがまた興奮してきたのでジグセロに押し付けて、帰路に着いた。




