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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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召喚と鑑定

 


 明るい場所から突然薄暗いところへ来たせいか、周りがよく見えない。

 私はすぐに子どもたちの頭にポンポンと手を乗せて数えていき、みんな揃っていることに安堵の息をつく。そして、周りを警戒しながらゆっくりと立ち上がった。

 相変わらず大きな歓声は聞こえているけれど、状況が把握できず、心拍数が跳ね上がっているのがわかる。


 ――こんな展開は読んだことあるよ。勇者とか召喚するヤツだよね。私戦うの?子どもたち連れて?それよりこんな緩みきった身体で動けるの?私。


 ちょっとテンパって現実逃避気味の思考回路になってしまったけれど、そんなことを考えているうちに、少しずつ目が慣れてきた。

 最初に見えたのは、白いローブを着て膝をついている人。その向こうにグレーのローブの人が倒れている。更に向こうには青や赤のカラフルなローブを着た人たちも皆倒れて動かない。


 ――こんなに人が倒れているのに歓声を上げるって何なの?まさかドロシーみたいに着いた瞬間倒しちゃったとか?



 当然そんなわけはなかった。鎧を纏った人たちが小瓶を白いローブの人から渡していく。液体を飲み干してしばらくすると、皆何ごともなかったかのように動き出した。カラフルなローブの人は、それでも動けないようで何人か運ばれていった。


 ローブの集団が去ると灯りがついて、そこがかなり広い部屋であることがわかった。そして私たちが部屋の中心を背にして壁の方を向いていたことも……。

 振り返ると見慣れた服を着た人が思いの外たくさんいた。


 ――わぉ。召喚勇者がたくさんいるでござるよ。


 制服姿の女子高生が四人、OLらしき女性が三人、夜の蝶のようなキレイな女性が一人、白髪のご夫婦が一組、我が家が五人。どの顔にも不安の色が見える。


 ――召喚ってこんなに大勢呼べるもんなの?勇者何人必要なのよ?



 召喚した側がよろこび、転移した側が戸惑っている。そして状況が全くわかっていない我が家のちびっ子二人が動き出す。


「えっ。ちょっと、じっとしてて!露ちゃん、凛ちゃん、ワゴンに乗せてお菓子開けて!」

「「了解!」」


 慣れた動作でちびちゃんズは回収され、お菓子を見ると二人揃ってちょうだいポーズをする。


 ――うん、うちの子可愛い。いつものことだけど、いつもの状況じゃないからヒヤヒヤするね。お菓子いっぱい持っててよかったよ。


 三女の美都と四女の伊織がお菓子を食べ始めると、横から露里と凛華が手を出してつまんでいく。

『緊張感無さ過ぎでしょ!』と盛大に突っ込みたいが今はそんな場合と違う。しばらくはおとなしく食べてるだろうけど、いつまでもつやら……。私はその光景を見て大きく息を吐いた。




 急に歓声が止んで室内が静まりかえり、ポリポリ、パリパリとお菓子を食べる音だけが響き渡る。落ち着きかけた心拍数が再度跳ね上がった。

 あわててちびちゃんズを止めようとしたけれど、突き刺さるような視線はすぐに開かれた扉へと向けられた。

 入って来たのは見ただけでトップだとわかる御仁。きらびやかな衣装と王冠で間違えようがない。


 ――でも、王様にしては若いね。王子様?……は王冠被らないか。


 ここは間違いなく私たちが持っている常識が通じない世界だから正確なことはわからないけど、これから何が始まるのか皆戦々恐々としている。……うちの子たちを除いて……。



 王様らしき男性が大きな椅子に座ると、袖口や裾に金糸の刺繍で縁取りしてある白いローブを着て仙人のようなあご髭を生やした男性が話し始めた。


「本日パルド王国で行った聖女召喚の儀式は成功しました。召喚された皆様には是非ともこの国を救っていただきたい。これより、皆様の等級を鑑定させていただきます。」


 ――勇者じゃなくて聖女だったよ。王国を救うってことは相手は魔王?あんまり怖いのは得意じゃないんだけど、鑑定には興味あります!



 グレーのローブを着た人が二人がかりで大きな額縁のような物を持っている。そしてその前に一人の女子高生を立たせた。

  最初に選ばれた子は胸の前でぎゅっと手を握り、不安そうに立っていて、他は皆何が起こるのかじっと見つめている。額縁の中をくぐり抜けるのかな?と思ったら、仙人さんが額縁を挟んで正面に立った。

 仙人さんが呪文らしきものを唱えると、額縁の中にゆらゆらと虹色の膜が張り、その色がだんだんと赤くなっていく。


 ――魔法だよ!すごーい。


 初めて見た魔術に気持ちが昂って、身体中の血液が全力で巡っていくような感覚になる。


揺らめきがなくなると、仙人さんは女の子に名前を言ってそこに触れるようにと指示を出す。女の子が消え入りそうな声で名前を呟き、赤い膜に触れたとたん仙人さん側に文字が浮かび上がった。

 仙人さんが浮かび上がった文字に持っていた紙を貼り付けると、浮かんでいた文字が吸い込まれるように消えて、そのまま紙に写し出された。


「上級聖女様です。」


 仙人さんの言葉に歓声と拍手が沸き起こる。周りの人たちの笑顔に鑑定を終えた女の子はホッとしたようだ。

 次に選ばれた子が額縁の前に立ち、仙人さんが鑑定を始めようとしたところでストップがかかり皆が声のした方に顔を向けると、王様らしき人が立ち上がっていた。


「そこにいる者たちは何だ?既婚者や子を産んだ者が聖女であるはずがない。目障りだ、追い出せ。」


 言い終えると同時に鎧を纏った人たちが近づいてくる。背の高いマッチョが鎧着て寄ってくるのは、密室で壁が迫ってくるような恐怖に似ている。映画で観ただけで実際に体験したことはないけれど、きっとそう。

 露里と凛華を背にかばい睨みつけていると「こちらへどうぞ。」と丁寧な対応をされて、思わず「うへっ?」と情けない声を出してしまった。




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