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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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朝市と新装開店

 


 朝市の賑わいは予想以上だった。立ち止まってお店を覗こうにも、人の波に流されてしまう。

 クラウスが前を歩いて人混みをかき分け、離れないように手を引いてくれる。そしてお店を覗く時は後ろに立ち人波を遮ってくれる。さすが偉丈夫。人がぶつかってきてもびくともしない。


――私一人だったら何も買えずに流されて市場から押し出されてたね。


 お肉屋さんでは、自分の頼みでエレインについてきてもらうからと、クラウスが払ってくれたが、お金を出してもらったのでダメとも言えず、お肉を大量に購入することになってしまった。


――これは、サンドイッチ以外の肉料理も持たせた方がよさそうだね。


 鉄壁の守りのお陰ですんなりと買い物も終わり、屋台で串焼と飲み物を買って少し休憩する。買った物はアイテムボックスに放り込むから荷物はないけれど、人が多過ぎて息苦しかった。

 少し離れたところに待機していた助格コンビもお肉の匂いでやって来た。


「我らも肉が食べたい。」


 そう言うと思って多めに買っておいたので、食べやすいように、お肉を串から外してお皿に入れてあげる。それを見てクラウスが唖然としている。もしかして全部食べる気だったとか?まだまだたくさんありますけど。

 助格コンビも美味しそうに食べている。姿が小さくなっても、食べる量は変わらない。不思議な生き物である。



 クラウスとは市場で別れ、その足でリゼルダのお店に向かった。

 改装工事も終わり、商品を並べる段階にきている。美容、衛生、掃除用品など棚を分けて並べていけば見やすくなったし、店舗が広くなったぶん圧迫感もなくなった。


 最後の問題は防犯対策だ。私の作った物はこの世界では珍しく、材料が手に入らないとなるとそれだけ希少価値が上がる。その上マルセロのお陰で値段の基準がものすごく高くなっているのだ。


「あたしだって元冒険者だ。そう簡単に盗られやしないよ。」


 リゼルダはそう言って笑うが、夜は無人になるし、用心するに越したことはない。


――お店ごとまるっと守れる何か………。あっ、防御魔術!


 今回はクッキーを報酬に提示してマルセロに連絡を取ってもらったが、連絡を頼んで半時もせず、マルセロは極上の笑顔でやって来た。


「魔術講師をお探しだとか。クッキーとはどんなものなのでしょう?」


――知らない物に対する好奇心。これは今後も使えるね。


 私も腹黒い笑顔を返しながら、防犯対策について説明する。


「そんな感じで防御魔術をかけておけば、人がいないときでも安心じゃないですか?」

「防御魔術をかけたら認証の魔石を持った人しか入れないので、お客さん入れませんよ。」


 なんてこと……。すっかり忘れてたけどそれじゃ困る。

 私が知っているのは、入り口で暗証番号を押してセキュリティ解除するやつなんだけど、それを認証の魔石を使ってできないかマルセロといろいろ考えてみたが、最終的にお店全体に防御魔術をかけて、開店時に入り口に認証の魔石をはめ込むことで一時的に解除するという方法に決まった。お店を閉めて帰るときに魔石を外すと防御魔術が再び発動する。

 そしてお店を開けている間は助格コンビを交代で通わせることにした。小さくて可愛くなった彼らには看板ウルフとして客寄せもしてもらいたい。



 エレインが意気揚々と出発した数日後、リゼルダのお店がオープンした。

 生活用品は特に目新しい物は置いていないが、服飾雑貨の方は、髪飾りやブローチなどの装飾品と子ども服やクラフトバンドで作ったかごを置いてみた。

 思っていたように、装飾品は眺めるだけで、売れるのは生活に必要な物だった。子ども服はサイズが揃ってなかったこともあり、問い合わせが多かった。


「ここいらの人は自分で子どもの服を作るんだけど、あまり手の込んだ物を作ることはないねえ。それでもやっぱり可愛い服を着せたいとは思ってるんだよ。うちは男ばかりだから穴があいてなきゃそれでいいんだけどね。」


 リゼルダらしい言い分に笑いが漏れる。オーダーメイドの服屋もあるらしいが、お貴族様用の店しかないらしい。下町ではサイズアウトした服を中古屋に売り、そこで繕ってまた販売するという。


――皆裁縫ができるなら、工房を作るのもいいかも。


 リゼルダも同じことを考えていたようで、「工房の立ち上げができるか、商業ギルドで聞いてみようかね。」と言った。


 次の日お店に行くと、リゼルダが服やかごの売り上げを持って出てきた。


「これが昨日の売り上げだよ。今後はどうする?週単位でも月単位でもいいけど。」

「帳簿の締めに合わせてもらっていいですよ。それより手数料は何割になりますか?」

「仕入れたわけじゃないし、お客が集まっただけで十分じゃないかい?」

「それじゃあダメです。今後は売り上げの三割を払います。」


 管理や接客をしてもらっているのだから当然だ。おまけに助格コンビはおやつまでいただいているらしい。

 リゼルダはお客さんにもおまけを付けたりしているので、あまり商売上手とは言えないが、それでもお店がこうして賑わっているのは、やっぱりリゼルダの人徳だと思う。

 服もかごも完売ということで、これからは作る方に専念しなければならない。今回は元の世界で作っていた分を出しただけなので、数もサイズも少なかったのだ。昨日問い合わせがあったサイズを中心に作るつもりだが、ミシンがないので一着作るのにずいぶん時間がかかるだろう。

 それにまずはこちらの世界の素材が見たい。布でもボタンでも、多種多様の素材が揃っていた向こうとは違うはずだから。

 私はリゼルダに頼んで、次の休みに布を扱っているお店に連れていってもらうことにした。



 エレインが竜人族の国へ向かって十日。さみしい……。リンネットもちびちゃんズもいるんだけど、一人でも減るとさみしい。私は子離れできないタイプかもしれない。

 こんなときはギルド長を見て元気チャージしようと冒険者ギルドに行ってみた。

 ギルド内はいつも人が多く、賑やかだ。私は登録したばかりなのでランクはFランク。張り出してあるクエストは薬草採集や害獣駆除が多い。一度行ってみたいと思いながら見ていると、後ろから声をかけられた。


「何かお困りですか?」


 振り向くと、背の低い小太りな男性がいた。


――お腹はスライムみたいだけど……。頭は河童だね。


「いえ、少し見ていただけです。あの、薬草採集は一人でも行けるんでしょうか?」

「ええ、街を出てすぐの森なので、強い魔獣が出ることもないですし、初心者の練習にはいいですよ。」


 受付の女性はいつもぶっきらぼうなのに、この男性はとても丁寧に教えてくれた。


「僕はこのギルドの会計課にいる、ドイルと言います。わからないことがあればいつでも聞いてください。薬草採集を受けられますか?」

「いえ、今日はいいです。ありがとうございました。ちょっと訓練場を覗いてみます。」

「今は誰もいませんよ。ギルド長とウォルフさんが長期で不在なので、しばらく午後は閉まっています。」


――長期不在……。うーん、元気の補充ができないなんて……。


「そうなんですか。それでは今日はこれで失礼しますね。」


 帰り際受付の女性たちが笑いながらこそこそ話しているのが視界に入る。

 いつにも増してヤな感じ。受付嬢は笑顔が基本だと思っていたが、世界が変われば常識も変わるもんだ。まあ、気にしないのが一番だね。きっと。




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