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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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身分証と高級な昼食

 


 王都に入って最初に向かうのは、中央会館という場所だ。私たちの世界では役所に当たるところで、住民登録をすることになっている。


 トラヴィスを先頭にマルセロ、御園夫妻と続く、リンネットはロベルトとおやつを食べながら歩いているし、エレインはいつものようにウォルフにくっついて、話しをしている。

 イレーヌがクラウスに肩車してもらっているので、私はその隣を歩きながら、眠ってしまったミランダを乗せたキャリーワゴンを押して進む。

 道沿いに人が集まってきている。女性が多いのだが、前の方では歓声に近い声が聞こえる。それに比べて私たちのそばではひそひそと話しているようで、正直感じ悪い。


 そんな中一人の女性が走り寄ってきて、「ちょっと、あんた。」と言い、いきなり平手……いや、グーパンチを炸裂させた。


「こんな昼間っから若い女を連れ歩くなんて、どういうつもりだい?」


 パンチを受けたウォルフはため息をつき、「今は仕事中だ。」と言う。女性は周りを見渡し、初めてトラヴィスやクラウスがいることに気づいたようで、小さな声で「ごめんなさいね。」と呟いた。


「師匠、どなたですか?」


 そうエレインが問うと、女性が更に驚いた顔になった。


「あんた、弟子を採ったのかい?自分の息子は断っておいて。」

「レベルが違いすぎる。話にならない。」


 ウォルフと女性が話し込んでしまったので、エレインが私の隣にきて、ボソッと呟く。


「師匠に手を上げた。万死に値する。」


――いやいや、値しないから!


「ちょっと落ち着いて、言ってることおかしいから。」


 そんな私とエレインを見て、クラウスが教えてくれた。


「彼女はウォルフの奥さんだ。」


「「なるほど。」」


 私たちが納得したところでトラヴィスが、中央会館へ行った後でゆっくり話せばいいだろうと、二人の間に割って入り、奥さんをその後の昼食に誘う。

 奥さんはトラヴィスににっこり笑って了承すると一緒に歩き始めた。ウォルフに紹介されたエレインも奥さんと言葉を交わし楽しそうだった。


――流血沙汰にならなくてよかった。



 中央会館は思ったほど大きくもなく、戸籍関係の管理と隣に併設された孤児院を運営していた。

 中に入って身分証を作るために鑑定を受ける。額の前に立ち横に置いてある石に触れると、魔力が引き出され額に虹色の膜が張っていく。そして、浮かび上がった文字に身分証用のカードをくっつけると、名前、レベル、国籍、仕事が書かれた身分証が完成する。因みに、ちびちゃんズのカードは仕事が書いてなかった。


「ちょっと質問いいですか?ウォルフさんやエレインの仕事ってアサシンじゃないですか。でもアサシンとしての仕事ってあります?」


 私の質問にウォルフが笑いながら答える。


「全くと言っていい程ない!今はそこそこ平和だからな。」

「じゃあ、普段はどんなお仕事をしてるんですか?」

「潜入や諜報、護衛に魔獣討伐ぐらいか?」

「それだとアサシンって言うよりも国を守る仕事が多いから、守護者ガーディアンって感じですよね。」


 そう話していると身分証を作り終えたエレインが首を傾げて戻ってきた。


「ジョブが変わってる……」


 皆で覗き込むと、エレインの身分証にはアサシンではなく聖光の守護者と書かれていた。

 ウォルフとロベルトが自分の身分証を出して確かめると、彼らもアサシンから守護者に変わっていた。


――さすが異世界。不思議なことが起こるでござる。


 この件に関しては国の中枢に報告して、調査した方がいいと言い、マルセロが城へ向かった。

 リンネットはレベルが五十を超えたと喜んでいた。



 昼食はお店で食べようとトラヴィスが案内してくれた店は、見るからに高級な感じで入るのを躊躇してしまう。


――服装からしてアウトじゃない?ちびちゃんズもいるし、マナーとか知らないよ?追い出されちゃわない?


 ドキドキしながら入ってみれば、そこはまた別世界だった。席に案内され、座るものの周りからの視線が痛い。クラウスが気にしなくてもいいと言いながら、イレーヌの隣に座った。

 私としてはもっと落ち着いて食べられるところがいいのだが、リンネットは高級感を堪能しているようだ。空気が読めないって、ある意味幸せだと思う。


 ウォルフは奥さんに私たちと出会った経緯やエレインを弟子にした過程を話し、私から購入したプレゼントを渡した。奥さんはとても気に入ったようで、他の物も見たいと言った。


ちょっと期待していた食事だが、やはり調味料が単調で残念な結果に終わった。

 食後のデザートとお茶をいただいていると、リンネットと同じぐらいの少女を連れた家族が入ってきた。

 少女はこちらを見て目を瞬かせ、母親らしき女性に言った。


「ねえ見て、あんな粗末な服を着てる人たちがいるわ。このお店で食事して、お金が払えるのかしら?」


 少女の言葉に一緒にいた大人たちもこちらを見て顔をしかめる。だが、何かに気づいたように目を見開き、少女を諌めて席に着いた。


「あれを口に出して言うのは躾ができていない証拠。」


 ボソッと呟くエレインに私もうんうんと頷いた。

 リンネットがフグのような顔をしているのに気づいたのでお店を出ることにした。通路を出口に向かっていると、さっきの少女が笑顔で「身の程をわきまえなさいな。」と言った。

 ジロリと睨むエレインの肩をウォルフと奥さんが押さえるのが見えた。


 お店を出ると案の定リンネットが爆発した。


「何なのあれ、身の程って何?ボクは異世界人だよ。レア度で言ったら世界一だよ。」


――確かに。間違ってない。


「あの一家はプライドが高くていつも人を見下してるって聞くわね。でも、間違いなくリンネットちゃんの方が可愛いわよ。」


 ウォルフの奥さんの言葉に皆が頷いた。


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