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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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市場と秘密

 


 あっという間の出来事に言葉が出なかった。


「エンシェント・ウルフと従属契約を結ぶとは……。」


 トラヴィスの呟きに我に帰る。


「ちょっと!契約ってお互いに納得した上で結ぶものじゃない?」

「我らは自分で主を選ぶ。」


――それはさっきも聞いたけど、選ばれる側に拒否権はないってこと?


「ええ、わかっていますとも、ここは異世界で私の常識が通用しないってことぐらい。それにしたってもうちょっと心の準備をする時間があってもいいと思うんですよ。契約するなら名前だってもっとちゃんとカッコイイのを考えたのに。」

「従属契約を結ぶ相手を決める条件はあるのですか?」


 私の言葉を流して興奮気味のマルセロが助格さんに問う。


「基礎レベルが五十を超えていないと契約は結べない。」

「我らには超えている者が光っているように見える。それと、悪いことをしているヤツらは臭いから契約は結ばない。」

「さすがエンシェント・ウルフ。鼻が利くとはこのことですね。」


――どのことですか?


「ここにはレベル超えをしたものがたくさんいるから、きっと他の者たちも見つけて集まってくるだろう。」

「えっ?他にどのぐらいいるんですか?」

「数までは我にもわからんが、そのうちわかるであろう。」


 わかりたくはないが、私の脳裏に動物園という言葉が浮かんだ。

 その夜、子どもたちは助格さんのモフモフに埋もれて眠った。竜人族の子ガルーも一緒に。



 翌日朝食を終えた後、ガルーをどうするか話し合う。問題は大きく二つある。

 竜人族の国まで送るにしても、一度オルドラ王国へ行って私たちの住民登録をしなければ、途中の街に寄ることもできない。そしてガルーは両親が捕まったことで、ヒューマンに対して恐怖心を抱いているので、無理に連れて行くことはしたくない。

 行き先がなかなか決まらない。そんな中、助格コンビがガルーに声をかける。


「ヒューマンがそなたを傷つけようとしたら、我らが守ってやるぞ。」

「我らは主の大切な者も守る。」


 その言葉にガルーは私たちと一緒にオルドラ王国へ行くことを決めた。



 あと一日も歩けばオルドラ王国の国境門に着くという頃、私はちょっとした疑問を誰にともなく投げかける。


「助さん格さんはこのまま入れてもらえるんでしょうか?」


 私の言葉に皆の足が止まった。騒ぎになるのが容易に浮かんだのだろう。


「助さん格さんは身体を小さくすることはできない?」

「できるがやりたくない。」

「それはどうして?」

「我らは三百歳だぞ!もう子どもではないのだ。」


 どうやら小さくなると子ども扱いされると思っているようだ。別に子犬になれと言っているのではない。そのままの姿でちょっとサイズを縮小してくれればいいんだけれど。

「嫌でもできるんならやってもらいます」と言って主命令を出すと、助格コンビはイレーヌが抱き上げられるぐらいのサイズになった。それはもうモコモコのモッフモフに。あまりにも可愛いので、大型犬ぐらいでよかったのにという言葉は飲み込んだ。



 オルドラ王国の国境門では、連絡が飛ばしてあったためかスムーズに手続きを行うことができた。

 その日は国境門の街に泊まり、あと二日かけて王都に入る予定だと言われた。


 私たちは夕方の市場に出かけた。市場の賑わいもパルド王国とは全く違う。そしてここでは、獣人族、エルフ族、ドワーフ族と、あらゆる種族が買い物をしている。


「あー!猫耳発見。兎耳もいるー。」


 リンネットが目をキラキラさせてはしゃいでいる。


「クラウスさん、獣人族って初めて見ましたけど、猫耳さんと兎耳さんではまた種族が違うんですか?」

「ああ、獣人族の中でもいくつか種類はあるが、あれは猫ではなく虎人族だ。それに獣人族を見るのは初めてじゃない。」

「えっ?そうなんですか?いつ見たんだろう。」

「目の前にいる。俺もトラヴィスも獅子人族だ。」


――なっ!


「でも耳もしっぽもないですよね?じゃあ、あの虎耳さんたちはヒューマンとのハーフとか?」

「混血でも、父親が獣人族ならば子どもも獣人族だ。逆の組み合わせでは子どもは生まれない。耳と尾が残るのは人形への変化が未完成だからだ。」


――未完成……要するにヘタっぴってこと?


 ちょっと残念な現実を見てしまったが、気を取り直してお店を見て回る。いろいろなお店があるけれど、やっぱり自分の好きなものが目につく。私は雑貨屋さんを見つけ店先に並べられたアクセサリーを手に取る。白い木に小さな花がたくさん彫刻されたバングルで、花の形が桜に似ていてとても懐かしい感じがした。

 この店のアクセサリーは木彫りが多い。木の種類によって色合いが違うし、寄せ木細工や節目の柄を利用している物もあり、見ていて飽きない。

 私がずっとバングルを持っていたので、クラウスが「出会った記念に」と言って買ってくれた。


 夕食は屋台でお肉と野菜炒めを買ってきて、パンに挟んで食べた。肉食たちは相変わらずの肉食だった。


――あの筋肉は肉と酒でできているのか……。


 宿への帰り道リンネットが突然皆の前に立ちはだかり、「ちょっと皆に見せたいものがあるんだけど。」と言う。皆を円形に並ばせてから、私に手を伸ばす。


「王都に着いたら今までみたいにずっと一緒にはいられないでしょ? ちょっと魔力使うから、充電。」


 充電器扱いには納得いかないけれど、とりあえず協力する。


 リンネットが私と手を繋ぎ、反対の手を上に上げる。そして


「ボクの大好きなもの皆に見せてあげる。」


 そう言うと辺りが真っ暗になる。幻術を広範囲で使っているようで魔力が引き出されていくのがわかる。

 見慣れた風景が現れた。よく散歩していた海岸沿いの道、そして目の前に大きな花火が打ち上がる。


「はなびー。」


 ミランダがうれしそうに手を伸ばす。御園夫妻も笑顔で見上げている。こちらの世界の皆は……。目を見開き周囲に映し出される光景を見ていた。花火の次は夕焼け、遊園地、リンネットの記憶を映し出しているようで、車を運転している私や、ゲームをしているエレインの姿も見られた。

 まだ一ヶ月ぐらいしか経ってないけど、すごく懐かしかった。


「今日見たものは絶対に秘密だよ。ボクたちは秘密の仲間だからね。」


 そう言ってリンネットは宿に向かって歩きだした。


――秘密の仲間か……その発想まだまだお子ちゃまですな。嫌いではないけどね。



二重投稿しちゃってました。

ご指摘ありがとうございます。


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