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母は異世界でも強し  作者: 神代 澪
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野営地と契約

 


 結局回復薬は使わずマルセロに返して、先に進むことになった。

ここからは歩いても問題なさそうだと言われたので、荷車を降りて。樽や木箱をアイテムボックスに入れていく。

 ちびちゃんズだけを乗せて歩くのに荷車は大きすぎるので、荷車も片付けてキャリーワゴンを出した。

 折り畳み式の構造に興味津々のマルセロが引いて行きたいと言い、軽さに感動していたが、早々にリタイアした。魔導師団は体力系ではなかった。



 パルド王国を出て八日目。野営にも慣れてきた。

 途中で魔獣にも遭遇したけれど、今まで読んだ本の中のグロいのや巨大なモノではなく、魔力を持った野生動物といった感じだった。

 クラウスの話では、大型の魔物は生息域が違っていて、国境と国境の間にある森には冒険者で対応できるものがほとんどだと言う。


「冒険者に対応できないものが出てきたらどうするんですか?」

「冒険者の中で一定レベル以上の力を持つ者が騎士団に所属していて、召集がかかると騎士団として討伐に向かう。」


――うーん、地域の消防団みたいな感じ?


 騎士団と言えばお城の中で王族を守っているイメージだったが、そちらは近衛騎士団の仕事だそうだ。


 旅商人や冒険者が通るため、自然と道ができているので迷うことはない。野営をする場所も皆が使えばだいたい決まってくるらしく、かまどが作ってあったりで食事の用意は楽だった。

 まだ日は高かったけれど野営地に着いたので、この日はここで泊まることになった。

 ちびちゃんズの子守をリンネットに頼むとそれぞれがいつものように準備を始めた。

 タカはかまどの周りを掃除して、火を入れ湯を沸かし始める。私は食材を出し、シノと献立を決め、調理にかかる。

 マルセロが野営地に防衛の魔術をかけ、男性陣は野営地周辺を見回り、魔獣の痕跡があれば狩っておく。獲物があれば夕食のメニューが増えるので、毎度張り切って出かけていく。エレインはついて行ってウォルフからいろいろ教わっているようだ。

 スープの灰汁を取っていると、男性陣が薪を抱えて帰ってきた。今日はおいしいお肉がいなかったらしい。

 いつもならウォルフとクラウスの姿を見つけると、走り寄っていくはずのちびちゃんズの声が聞こえない。振り返り見回してもいないことに焦り、リンネットに問う。


「リンちゃん!ミーちゃんとイーちゃんは?」

「あー、どこだろ?」

「見ててって頼んだでしょ。」

「それよりも早く探さないと日が落ちるぞ。」


 クラウスの言葉にウォルフが即座に反応した。


「エレイン。サーチだ。」


 エレインが「サーチ」と呟き空中を見つめる。


「あっちにいる。でも、なんかたくさんいる。」


――たくさんって何?


 エレインが走り出し、男性陣がそれを追う。私も調理をシノに頼み追いかける。

 かろうじて見失うことなくついて行ったが、息が苦しい。エレインはこちらに来て身体能力が上がったのに、私は全く変わらないのはなぜだろう?

 そこには、ちびちゃんズと男の子が一人、そしてこちらを威嚇している二匹の大きな魔獣がいた。


「魔獣が……」

「魔獣ではない。だが、安心はできない。」


 そう言って、ゆっくりと近づいていく。男の子は獣の後ろに隠れ、ちびちゃんズは「おかあさーん」と駆け寄ってくる。


「おともだちー。一緒に遊んでるー。」

「わんわん。」


――わんわんって大きさじゃないんですけど……。


 ちびちゃんズの様子を見て、男の子がひょこっと顔を出し、「おかあさん?」と呟く。そしてポロポロと涙を流し泣き出した。

私はちびちゃんズをエレインに任せて男の子の方にゆっくりと歩いていく。

 獣も威嚇をやめ、じっと見つめてくる。そっと男の子の手を取り「大丈夫」と声をかけるけど、「おかあさーん」と泣き続けるので、膝の上に座らせてしばらく頭を撫でていた。

 少し落ち着いてきたので、迷子になったのか聞いてみると、首を横に振りこれまでにあったことを話し始めた。


「友だちと遊んでいたらみんなとはぐれちゃって、飛ぶのにも疲れちゃったから人形じんけいになって歩いて家に戻ろうとしてたんだ。暗くなってきた頃におとうさんとおかあさんを見つけて信号をあげたら、おかあさんが人形になったところで、男の人がいっぱい出てきておとうさんとおかあさんに網を投げかけて……おとうさんは竜形りゅうけいのまま捕まっちゃって、おかあさんも一緒に連れていかれたんだ。」


 話しながら思い出したのかぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


「助けたかったけど、怖くて動けなかった。」


 さみしくて早く帰って仲間に助けを求めたかったけど、自分も見つかるんじゃないかと思うと移動することもできなくて、そんな時ちびちゃんズに会って、遊ぼうと誘われてうれしかったと言う。

 傍に座っている二匹はずっと一緒にいたのかと聞くと、ミランダが見つけて連れてきたと言った。

 思えばいつもそうだった。ミランダは誰にでも寄っていき遊ぼうと誘うのだ。


――小動物じゃないんだよ。座ってても私の身長と変わらないぐらい大きいんだから。ちょっとは怖いとか思わないんだろうか。


 とにかく暗くなると危険が増すので一緒に野営地に戻ることにした。二匹はミランダが「わんちゃん。おいで。」と言うとゆっくりついてきた。

 野営地に戻ると御園夫妻はちびちゃんズの無事を喜び、ついてきた二匹に驚いた。リンネットは「モフモフー。」とはしゃいでいた。


 夕食後は二匹について話をする。真っ白な毛並みで額にはしずく型の宝石のような物がついている。ダイヤモンドのようでとてもキレイだ。


「この二体はエンシェント・ウルフという古代種で、神獣と言われている。滅多にお目にかかれるものではないのだが……。」


 トラヴィスの言葉に二体が反応した。


「我らは主を求めて旅をしている。」


――えっ、しゃべれるの?


「我らはヒューマンと従属契約を結び、主を守り、主から魔力を得ることで長く生きることができる。」

「長くってどのぐらいなんですか?」

「二千年程だ。契約を結んでいない者の寿命はその半分くらいだ。」


 千年でも十分長い気もするが、私たちの寿命が百歳だとしたら五十歳ぐらいまでしか生きられないということだ。五十歳といったらまだまだ働き盛りなので、ウルフたちの言葉にも納得できる。


「神獣ってことは神様に遣えてるんじゃないんですか?」

「誰にも遣えてなどおらぬ。我らは自分で主を選ぶ。」


 私は並んで座る二体を見て何かに似ていると思い、ポンと手を打ちエレインに声をかける。


「ねえねえ、こうやって二体並んでると狛犬さんに見えるけど、真ん中に立ったら助さん格さんみたいじゃない?ちょっと写真撮って。」


 そう言って二体の間に立つ。すると二体から矢継ぎ早に質問が飛んできた。


「狛犬さんとはなんだ?」

「助さん格さんとはなんだ?」

「えーっと、狛犬さんは神様のいる神域を守っている眷属で、助さん格さんというのは、昔偉い人を守っていた強い忠臣で助三郎と格之進って名前だから助さん格さんって言うんですよ。」

「ボス、時代劇好きだもんね。あたしも観てた。」


 エレインは夕方の再放送を一緒に観ていたので話がわかる。そうでしょー。と楽しんでいると二体の額にある宝石が輝きだした。


「我は助三郎。」

「我は格之進。」

「「契約を交わし、忠誠を誓う。」」


――えっ、なに?

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