シークレット オブ フレンズ(中編)
注意。
今回も続きモノで『推理パート』となっております。(一応は)
まだ、ご覧になっておらず、間違えてご来訪された方は、これまでのエピソードに目を通された上で、どういうことかを推理して、お茶でも飲んで一息ついてから、再びこのページにお戻りになられることを勝手に願っています……。
あ、既読の方は、どうぞスクロールしてお読みください。
受験の日。
忘れ物をした彼女に、友達が筆箱を届けてくれた。
しかし、彼女が忘れ物をしたということを知っているのは、彼だけで――
「だってだって、真斗くんに友達がいると思えないんだもん! どこからどうやって薫ちゃんに話が伝わっていったんだろう……」
そういうことらしい。
女子3人で帰り道。そんなこんなを相談していた。
小型少女が問う。
「いや、さすがに、あの真斗でも友達すこしはいるでしょ。すこしは……」
「え、そうなの? アスカ、真斗くんの友達とか知ってる?」
「いや、知らないわけだけど。……そもそもあたし、あいつと学校違うし、よく知らないのよね」
「うん。だよね」納得。……まあ知っていたら、それはそれで問題なのだが……。
別の友人にも聞く。
「寧々香は、だれか知らない?」
「うーん。」悩む。「うちも、思い浮かばないなぁ……。苗倉君って、いつも教室では隅の席で文庫本を読んでいるイメージで、誰かと積極的に会話しているイメージはない、かな」
「うんうんそうそうだよね! あの本を読む姿から『話しかけてくるんじゃねーよオーラ』が出ているから、話しかけづらいよね! だから誰かと話しているの見たことほとんどないし。うん、森中学校三年生の陰キャぼっちの代表格だもんね!」
「ミナ、あんたカノジョなのにボロクソに言うわね……」
あきれていた。
「それに私、真斗くんのスマホのアドレス帳を見たんだけど――」
「いやミナ、いくら彼氏彼女の関係でも、プライバシーってモノが……」
話を聞いて、少女は心配になった。
「あっ、いやいや、そうじゃなくて、ずっとまえに見たことがあるというか……」彼女が訂正。「去年の秋、連絡先を教えてもらった時に、私が直接、真斗くんのスマホに私の電話番号とメールアドレス、IDとかを打ち込んだんだけど――その時に登録完了の画面から、アドレス帳が見えて……」
「ん。そうなの? 直接?――でもほら、振るだけで伝わる機能とか、QRコードとか」
「真斗くんが『使い方がわからない』って。だから私が彼のスマホの登録画面に直接入力したの」
「あー、なるほど。そういうわけね。その機能は使わなかったわけね」
――てかその機能、言ったアタシ自身もよく知らないわ。ほとんど使ったこといから。
自身の陰属性がバレるので、少女は言わなかった。
彼女が進まない話を進ませる。
「ともかく、彼のスマホのアドレス帳――連絡先一覧を見ちゃったことがあるんだけど――」
「あ、うん。ええ」
「うん」
相槌を打って、聞く。
「連絡先一覧の登録が、なかったんだよね……」
「ん? ミナ、登録がなかったって……?」
「あ、いや、いくらかはあったんだけど」再び彼女の訂正。「『家』、『母さん』、『父さん』の3項目くらいは……」
「え、苗倉くんのスマホ、おかしいね……。なにそれ――あっ……データの破損とかじゃないかな?」
「いや、本人に聞いたら、デフォだって……はじめから、登録されてないって」
「真斗あいつ、どんだけ友達いないのよ!?」
――あたしも似たようなモンだけども……。
自身のことを棚に上げながら少女はツッコミした。
「あっ、しまった。これ、真斗くんの個人的情報かっ?! 友達いないのは周知の事実かもしれないけど。寧々香、アスカ。ごめん。――今の、聞いたけど聞かなかったということで、配慮して下さい。お願いします!」
「あ、うん。大丈夫、言わないよ」
「まあ、大丈夫よ。あたしが言うわけないわよ」
――まず言う友達がいないわけだから……。
とは悲しくなるので、少女は言わなかった。
彼女が不思議がる。
「まあとにかく、だから真斗くんから、どうやって誰に連絡がいって、薫ちゃんまで伝わったのか……不思議でならないんだよ」
「なるほど。ミナが悩んでいるわけは、わかったわ」
問題を理解した。
友達が思いつく。
「あ、そうだ。みっちゃん。SNSはどうかな?」
「ん? どういうこと」
「ほら、SNSで情報を拡散すれば、誰かから誰かに伝わって、薫ちゃんまで情報が届くんじゃないかな?」
「あー、なるほど。ネネ、やるわね!」
「そ、それは、私がハズいなぁ……」彼女動揺。「じゅ、受験当日に私が筆記具を忘れてしまったことが、拡散されているなんて……」
――なんて恥が拡散されてしまったのだろう……。
彼女は地中に埋まりたくなった。
「ところでみっちゃん、苗倉君、SNSは――やってるのかな?」
「……あ、そっか。いや、でも、彼……やってないと思うよ。SNS」
思い直して、元気になった。
「私、アカウント知らないし。いろいろ検索をかけてみたこともあるけど、真斗くんっぽいアカウントも、出てこなかったし」
「そっか……。そもそもSNSで、みっちゃんの忘れ物を拡散したら、うちにも通知や情報が届くはずだもんね。それに苗倉君が、みっちゃんが困るような情報を拡散するようにも思えないし……」
「そもそも、SNSで発信して、そんなに早く行動できるのかしら? その薫って友達、すぐ持ってきてくれたわけでしょ? それよりも、ミナやネネの学級って、グループ連絡の設定とかないの? クラスの1人から、全員に連絡が行くようなヤツ。大抵のクラスにはあるんじゃないの?」
「ああ、うん。私達のクラスの森中3年2組にもそういうのあるよ。任意で登録するやつ。でもでも真斗くん、森中3年2組グループには登録もしてないみたい。だからクラスのグループから、発信するのは無理だね」
「なによ真斗あいつ、コミュ力ないわね」
――あ、でも、あたしも入ってないわ。クラスのグループ連絡……誘われなかったし。
言いながら、思い出して、虚しくなってきた。
そこで友達が思いついた。
「あ、でも、苗倉君、友達いたよ」
「えっ!? 寧々香ほんと? だれ?」
「ネネ、それって、もしかして『アスちゃんやうち』って解答なわけ?」
「ち、違うよ」
たしかに友達だからそれはそうなんだけどそうじゃなくて、と友達は前置きして。
「エビヤくん」
「あ、弟ね」
「あっ! あー、なるなるほどほど盲点だった。――それなら真斗くんから、エビヤくんに伝わって、そこから――」
「いや、ちょっと待って。ミナ、ネネ」
小型少女がストップをかける。
「ん? なにアスカ」
「いや、あいつも――弟も友達いないわよ?」
「……え、いや、それでもいるでしょ? すこしは……」
「いや、いないわけよ。――あいつのスマホのアドレス帳を最近見たんだけど、『家』『母』『父』『姉』『苗倉』『ミナモト』の6項目くらいしかなかったわけ」
「…………」
「…………」
「だから、あいつに繋いでも、次に繋がらないわけよ。ストップしちゃうわ。他に連絡先がないわけだから。――ってミナ、ネネ、どうしたわけ?」
「……」
「……」
弟の友好関係が壊滅的であることを暴露した姉に『そういうことは公表しないであげてよお』という弟への同情で、絶句していたのだ。
彼女が言いづらそうに、言う。
「……あのね、アスカ。まあご家庭の自由裁量だとは思うんだけど、いくら弟でも、年も離れていないし、勝手にスマホをいじるのは、やめてあげた方がいいと思うの……」
お年頃だしプライバシーとかあるし、と言葉尻に付け足す。
「あっ、そっか……」しまったちょっとまずかったか、と思い直す少女。だが、「――でも、あいつが勝手に使っていいって言ったわけだし。あいつのソシャゲ、ログインしないとログボも貰えないわけだし。勝手に見たわけじゃなくてソシャゲのアイコンと間違えてタップしちゃっただけなわけで――」
そんな言い訳。
「いや、いいよ。アスカ。次から気をつけてあげて。聞かなかったことにするから」
「――でも、その、姉弟、仲良くて、いいことだよね?」
その友達その言い訳から、おそらく姉が弟のスマホにゲームアプリをインストールしてサブアカウントとして運用しているのであろうことを看破したが、体面から『2人は仲良しだね』というフォローをした。
「うーんむ。さっぱりわからないなぁ……。真斗くんから、どういう経緯があって、薫ちゃんまで話が伝わったのか……」
悩む彼女。
「あのさ、みっちゃん」
「ん? なに、寧々香」
その友達は、なんでしないんだろう?、と疑問を抱きながらたずねる。
「本人に直接聞いたらいいんじゃないかな?」
「盲点だったわ!」
彼女がそんな簡単なことにようやく気がついた。
「よしっ!」彼女が意気込む。「じゃ、真斗くんに連絡して、どうやって薫ちゃんまで連絡を繋げたのか聞いてみよう」
「しかし、ネネ。よく思いついたわね。あんた天才なわけなの?」
「え、いや、そんな驚くようなことじゃ……」
恐縮というか、いっそ『なんで気がつかないのだろう?』と驚愕している友達。
「でも、みっちゃん。それ――」
「って、しまった!」
「ミナ。どうしたの?」
「私、スマホを家に忘れてきちゃってたんだったぁ!」
彼女が思い出した。
「しまったなあ。これじゃあ連絡できない……。しょーがない。また帰ってから真斗くんに連絡して聞いてみるよ。――寧々香とアスカも、真相がわかったら、また改めて伝えるね」
「ええ。そうね、ここまで聞いたら、あたしたちも気になるわけだし」
「え、いや、あの……」何か言いたげな友達。
「いやあ悪いね。つき合わせちゃって。ありがとう。いっしょに考えてくれて」
「まあしかたないわ。そんなことがあったらモヤモヤするわけだし」
「ちょっとまって、みっちゃん、アスちゃん」
この場ではあきらめるという空気を、止めた。
「え? どしたの寧々香」
「ん? なにかあるわけネネ」
「うちが、連絡しようか?」
「でも寧々香は、真斗くんの連絡先、知らないよね?」
「さすがにミナも、スマホに登録してある電話番号を記憶してないわけでしょ」
たとえカレシの番号でも、と付け足した。
「そだねー。はじめの3ケタくらいならいけるかもだけど……」
とはいうが、自宅の番号も思い出せないのだから、他の番号を思い出すなんぞ、どだい無理な話である。
「いや、そうじゃなくてね……」
「え?」
「ん?」
わからない2名。
その友達は、当然のことを訊いた。
「うちのスマホで、薫ちゃんに電話して聞いてみるんじゃ、ダメなのかな?」
「「 盲点だっだわ!? 」」
ヘッポコとポンコツがシンクロした。
「もしもし、薫ちゃん? いま大丈夫?」
友達がスマホで電話してくれていた。
「そういうわけね。ミナに筆箱を持ってきてくれた友達の方に聞いてみるわけね。なるほど」
「薫ちゃんが、誰からどうやって私のピンチを知ったのか分かれば、そこから逆算して真斗くんがどうやって誰に伝えたのかがわかるもんね!」
あ、でもでも、ないと思うけどSNSで拡散されてたら、めちゃめちゃハズいなぁ。
そんな心配があった。
電話中。
「あ、うん。ありがとう。うちも、試験は大丈夫そう……」
まだ本題に入らない。
「……雑談が長いわね」少女がグチる。
「まあ、今日が受験だったからね。寧々香と薫ちゃんも仲良いし、結果が気になるんだよ。うん」
ただ待機する。待つ。
通話中。
「えっ! そんな、でも……」
なにか驚いていた。
「え、え? なになに。薫ちゃんなにを言ったの?」
「気になるわねえー。いったいなんなのかしら?」
「もしかして、ほ、本当にSNSで私の痴態が拡散されたんじゃ……」
不安になる。
続く通話。
「うん、わかった。――いいよ」
友達が電話に了解を伝えた。
気になる2名。
「どういうわけ?」
「いいよって、いったい……」
「みっちゃん」
急に呼ばれて驚く。
「え、なに寧々香?」
「薫ちゃんが電話、代わってほしいって。――はい」
スマホを差し出される。
理由もわからないけれど、受け取る。耳にあてる。
電話を渡した友達に、少女が聞く。
「ネネ、その友達、なんて言ってたの?」
「えっと、なんだか、薫ちゃん忘れちゃったって……」
「はあ?」
通話する。
「もしもし、薫ちゃん?」
『おつかれミイ。試験の方は大丈夫だったか?』
「あ、うん。おかげさまで。今日は筆箱を持ってきてくれてありがとう」
『いいって。試験に間に合ってなによりだよ。――あ、それより、ネネのスマホだし、手短に聞くけど』
「え、うん。」
『ミイって、「苗倉真斗」のこと好きなの?』
「ぶゅえっ!?」驚きすぎた。「ええっ!? な、なに、いきなりなになの、なんで、いやそれ、は、まあ、いや、それは秘密で、って、え、そ、ちょっ、えっ、なんで――」
動揺しすぎた。
『ぷっ。あはは』電話越しで友人が噴き出した。『おっけーおっけー。わかったからもういいよ』
「え、いや、あの、薫ちゃん?」
『試験、お疲れさま。ゆっくり休めよ』
電話が切れた。
ツーツーツー。耳元で電子音。
「……」
「あの、みっちゃん?」
「ミナ。どうしたのよ。そんなに取り乱して……」
「あ、いや、えっと………………」
何を言えばいいのか、わからない。
けれども一つ、切実に疑問に思う。
――あの男、いったい何を発信拡散しおったの?!
謎は解決しなかった。
【つづく】