シークレット オブ フレンズ(前編)
シリーズ既読の方はご存知かと思いますが、
恒例の『ネタバレ回』でございます!
『MN』の根幹になっております。
――ほかの話を未読の方は、一度お戻りになることをお勧めいたします。
とある高校への通学路。
「受験じゃ受験じゃあぁ! 討ち入りじゃあ!」
「…………」
彼女の隣を歩いていた彼は無言であきれた目で見ていた。
「いやいや、無視しないでもらえますか真斗くん」
「…………高校受験当日に戦を行う戦国大将のような言動の人物に、どう声をかけたらいいんだよ……?」
「受験当日だからこそ高テンションでキンチョーをぶっ飛ばしてやろうという私の作戦!」
「……はあ」彼溜息。「あんまり騒ぐと問題になるんじゃないかな? 夏にゲーム買いに行った時みたいに……」
「ぐおおっ!」彼女が思い出す。「お、おいおい真斗くん。受験前のナイーブなメンタルにダメージを与えてくるんじゃない!」
「そんなつもりはなかったけど、ごめん。――でも、もうちょっと抑えた方がいいよ。今から気張っても疲れるだけだし」
「まあ、たしかにそだね」
彼女が落ち着く。
「皆元さん。昨日はちゃんと眠れたの?」
「ふっ」笑った。「ぜんぜん? ちっとも眠れなかったさ」
「おいおい……」あきれた。
「こんなに眠れなかったのは真斗くんが私の告白を保留にして、玩んでいた時くらいだね。それくらい眠れなかったね! ほんとにまったく」
「なんで僕に精神ダメージ与えてくるの? てか、もてあそぶって……」
「ごめん」素直に謝る。「さっきの仕返し! なんというか、緊張感で精神が尖ってるから、つい攻撃的になっちゃうよね」
「まあ、それはあるかもね。余裕を持っていこう」
「うむ。そうだね」
道を歩く。
それそろ高校の前。人が多くなってきた。
「さて、そろそろ別れていこうか。知り合いに見られて、からかわれたくないし。――皆元さん、大丈夫?」
「お、おう。ちょと、心臓バクバクで口から出てきそうで、足がガクガクして動きづらくて、なんか視界が狭くて前しかよく見えなくて、あまり耳が聞こえないけど、うん大丈夫……」
「それは大丈夫なのか?!」
彼が見る。
彼女がガッチガチに固まっていた。
「ま、まあ、大丈夫、さ。――私には、この真斗くんから貰った『お守り』がある。コレがあれば、あらゆる災厄から、私を守ってくれるはずで……」
彼女が鞄の中を確認する。
「ああ、初詣のときに買ったやつだね?」
「…………」
彼女が鞄をカサゴソやる。
「てかアレ、厄除けじゃないよね?」
「…………」
彼女が鞄を漁る。
「どうしたの、皆元さん?」
「……」
彼女が青い顔していた。
「どうしよう真斗くん」
「……なにが?」
彼女が絶望していた。
「…………ふでばこ、忘れちゃった……」
彼が言う。
「ま、皆元さんがここで気がついてよかったよ。まだ時間に余裕があるから。――今から帰るのはちょっと難しいけど。家に電話して、親御さんに持ってきてもらえばいいからね」
「……うん。そうだね」
「ま、筆箱に付けていたお守りのおかげで、忘れ物に気がつけたっていうのは、お守りの効力かもしれないなあ」
「……うん」
「じゃ、皆元さん……家に電話して――」
彼女が青ざめていた。
「どうしよう真斗くん」
「……どうしたの?」
彼女が死にそうだった。
「…………スマホも、忘れちゃったみたい……」
彼が言う。
「……いやあ、厄日だね。皆元さん」
「ど、どうしよう……昨日の夜、確認でちょっと取り出した時に、そのまま……」
「まあ、なんとかなるよ。僕のケータイを貸すから、家に電話すればいい」
彼が鞄を開けようとする。が――
「いや、ごめん。ダメなの……」
「ん? ダメって。どういうこと皆元さん」
「私、自分の家の番号、憶えてない……」
「あー、うーむ。現代社会が便利になった弊害がこんなところに……」
彼が呻いた。
「ああ、もう、ほんと、どうしたら……」
彼女が泣きそうだった。
「はい。皆元さん」
彼が差し出した。
「え、なに真斗くん。これって――」
「シャーペン、鉛筆、消しゴム。僕の予備。一式貸すから、まあ大丈夫だよ」
「でも、それじゃあ、真斗くんの予備が……真斗くんが、書けないんじゃ……」
「予備だから平気だよっ! 落ち着けって皆元さん。問題ないから」
「あ、そっか…………うん。ありがとう」
受け取る。
「他のモノは大丈夫だよね? 受験票とか」
「……うん。それは大丈夫」
「…………」
彼がうつむく彼女の頭を、ぽんぽん、と優しく叩く。
「……え、あの」
「……まあ、大丈夫だからさ。なんとかなるさ」
「う。うん」
彼が頭から手を放して――
「それじゃ、ここからは別れていこう。――皆元さん、ご武運を!」
ちょっと小走りで校門の方へ向かう。
「…………真斗くんだって戦国っぽいこといってるじゃん」
はは、と。
ちょっと笑って、すこし余裕を取り戻した。
高校の校舎。
見慣れない廊下を進み、受験票に書かれている教室へ。
自分に割り当てられた席に座り、テスト開始を待っていた。
辺りは、大きな緊張とほんの少しの興奮でうるさく感じる。
「あ、いたいた。――おい。ミイ、ミイー」
なぜか、呼ばれた。――あだ名で。
そちらを向く。
「えっ!? 薫ちゃん?」
そこにはクラスメイトの少女がいた。
「おー、よかったよかった。見つかって」
「どうしたの? 私に用事? もうすぐテスト始まるから、自分の教室に戻った方が――」
「まあ、すぐ退散するけど。そのまえに、ほら、コレ」
筆箱を渡された。
彼女の筆箱だ。お守りがちゃんと付いている。
「えっ! なんで?」
「頼まれたんだよ。忘れたらしいから渡して欲しいって」
「ええっ! うそ!」
「時間ないな。それじゃ、がんばれミイ」
友達は教室を出ていった。
受験が終わった。
帰路につく。
「でも、あれは、なんでだろう……」
人生の岐路も一段落したところだが、なにかスッキリしない彼女。
「あっ、みっちゃんだよ」
「あ、ほんと。ミナ。おつかれー、どうだった?」
彼女を見つけた友達2人が寄ってくる。
「あ、寧々香。アスカ。うん、おつかれさま」
「うん。お疲れさま」
「どしたのよミナ? なにか疲れた顔して……まあ、受験すぐ後だから、そりゃ疲れてるだろうけど……もしかして、その……」
「え、あ、いや、テストは大丈夫だったよ。ふつうに解けた」
「そっか。よかった」
「ええ、それなら、どうしたわけ? ミナ、なにか浮かない顔してるけど?」
「ああ、うん。実は――」
「実は……?」「なに……?」
「真斗くん。友達いたんだ、って思って。でも、不思議だな、誰だろうって……」
話を聞いた友人2人は、わけがわからなかった。
女子3人で帰り道。
事のあらましを説明。
「――と、そんなわけで薫ちゃんが私に筆箱を届けてくれたんだけど……」
「みっちゃん。筆箱を忘れちゃたんだね。相談してくれればよかったのに……」
「うん。ありがとう寧々香。でも、なんとかなったし、あんまり心配掛けたくなかったから」
「で、その話しのどこが不思議なわけ?」
「いや、アスカだからね。私、筆箱を忘れたこと、真斗くんにしか話していないの。心配掛けたくなかったし、なんとかなったから、真斗くんだけにしか」
「うん。そう聞いたわけだけど、だから?」
なに、と小型少女が疑問を投げる。
彼女が、当り前のように言う。
「だってだって、真斗くんに友達がいると思えないんだもん! どこからどうやって薫ちゃんに話が伝わっていったんだろう……」
「ミナあんた、アイツの彼女なのに、ちょっとヒドくないかしら!?」
友達が、まともなことをツッコミした。
【つづく】