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異世界転移無双系(前編)

 土曜日。夕方。出かけた先からの帰り道。

 公園の前を通りかかったところだった。

 声があがった。

「むっ? アレって正志兄ちゃんとアスカ姉ちゃんじゃない?」

「えっ? そうなの。でも雰囲気がいつもとちが――」

「あっ! ほんとだ。オオォーイ正志にいちゃぁああん!」

 男子小学生が叫び声を上げながら大手を振って呼びかけていた。


 ミニサイズ少女がアピールする小学生に気づいた。

「ん? ありゃ。アレって……」

 呼びかけられる彼は、そちらを見ない。目をそらしていた。

「…………これ、やっぱ僕のことだよなぁ」

 ――関わり合いたくない。無関係だ。

「それじゃ、アスカさん。僕はこれで」

 別れを告げて、小学生のいる公園の前を逃げるようにそそくさと通過する。

 ハズだった。


「あれ? 気づかなかったみたい」

「いや。別人なんじゃないかな……?」

「そんなことないよ! アレはそうだよ。ぼく声かけてくる」

「おれも!」

 だだっ! 

 小学生ダッシュ。


 ――げげっ!

 嫌な顔して彼が逃げようと走りはじめようとするが――不意を打たれたスタートダッシュが命運を分けた。即時で追いつかれ跳び付かれた。

「うりゃあ! 捕まえたぁ!」

「どりゃあ! 捕ったどぉお!」

「うおわぁ!」


 彼は小学生に捕縛された。





 公園に連れ込まれて事情聴取される。


 …………。


「ええー。じゃあ正志兄ちゃんじゃないの?」

「うっそー。まじでー」

「ほら、やっぱり……」

 小学生たちが彼の説明を聞いた反応である。

 彼が再度、簡潔に説明。

「うん。正志は弟。僕は双子の兄で真斗っていうんだ」

「えー。うっそだぁ。そっくりすぎるもん。おれ他の双子の人みたことあるけどこんなに似てないもん! むしろ現実の双子って似てないよ」

 彼が小学生の認識に物申す。

「いや、双子の似てる似てないはヒトそれぞれだろ。一卵性や二卵性とかあるし」

 ――てか似ていない双子って、あの姉弟のことか?

「アンタたち真斗と正志の違いもわかんないのね? あたしはもうちゃんと見分けがつくわよ?」

 この姉とその弟のことであろう。


「そっかー。正志にいって兄ちゃんいたのかー。すっげえそっくり。これテレビでられるよ!」

「うん。5万回は言われたと思う」彼うんざり。

「ほら。だから違うって言ったじゃん。雰囲気がぜんぜん似てないしさ」

「うん。それも7万回は言われたと思う」彼げんなり。

「すっごいよ! 絶対事件とか起こるやつじゃん。ドラマで見た。入れ替わるやつ!」

「うんうん。誰かが殺されて『この双子のどっちが犯人なんだ?』ってやつとかね」

「ケンっ、トラっ! 失礼だから!」

 ――それは言われたことないな。

 小学生のトリオ漫才のような掛け合いに彼が苦笑いした。



 小学生が自己紹介。

「ぼくたち、正志兄ちゃんとアスカねえちゃんとエビヤ兄ちゃんとかと、よくテニスしてるんだ。日曜日の朝に川沿いのテニスコートで秘密の特訓。――あ、ぼくケン」

「おれトラ」

「ルイだよ」

「……うん。なんとなく予想はついてた」

 彼はうんざりしながら返事した。


「それで? ケン、トラ、ルイ。アンタたちはなにしてんのよ。この公園にはテニスコートもないようだけど? 暗くなるし、小学生のガキにはおそい時間なわけだから早く帰ったほうが――」

「ぼくらルイが『ポーモン』を買ったからいっしょにやってたんだ」

「なんてわけって?」少女の眼の色が変わった。

「だからケンが言ったように、ルイが『ポーモン』買ったからいっしょに遊んでたんだよ」

 ほらコレ、というように小学生がゲーム機を見せた。

「へー、アンタたちまだ時間大丈夫なわけでしょ? ちょっとパーティ見せてみなさいよ」

「おい、アスカさん。数秒前の発言どこいった? 会話の方向反転してんだけど?!」

 ノリノリで乗り気になった少女につっこむ彼。


 少女が小学生のゲーム画面をそれぞれ確認する。

「ふむふむ、ケントラの2人はストーリー終わってるわけね。でルイはいま中盤と」

「うん、ぼくらもう何度も世界救ってるから!」

「おれ巨船も手に入れたよ」

「ちょっ! 待ちなさいアンタたち! 言い過ぎ! ルイはまだストーリー終わってないんだからネタバレくらっちゃうわ!」

「大丈夫だよアスカねえちゃん、攻略サイト見て知ってるから」

「え、ああそうなの? まあそれならいいのかしら……? あたしのときはとりあえず何も見ずに一週目は攻略したもんだけど、あたしの時とは時代が違うわけね……」

「アスカさん、時代は同じじゃないのか? 同じゲームしてるわけだし」

 地味に彼がつっこみした。



「それでね。ぼくたちみんなで対戦してたんだけど、ルイが弱くってさー」

「うんうん、おれとケンはいい勝負なんだけど、ルイがついて来れなくってー」

「い、いや、だってさぁ。買ったばっかりだし……」

「いいえルイ、それは違うわけよ。――ポーモンはね、たしかに技術や経験、運も大事だけど――1番大事なのは戦う意思よ。プレイヤー対戦は初心者経験者の差を少なくする同一レベル対戦になるわけだから、レベル差は関係ないの。工夫を凝らして、相手の動きを読んで対応して、1ターン1ターンの読み合いが勝敗を分けるわけ。だから技術経験の少なさは、実力――プレイングでカバーできるわけ」

「アスカさん熱弁しているけれど、同レベ対戦のレベル差がないのはあたりまえだし、結局のところ『実力とプレイング』っていうのは『技術と経験』だから初心者にはカバーできないんじゃないかな?」

「うるさいわね真斗! あんた初心者が実力者に勝つ、という展開が熱いと思わないわけ?」

「たしかにその展開にはロマンを感じるけれど、いまの状況にはそぐわなくない?」


 燃え立つように少女が言い放つ。

「ケントラ、あんたたちもう一度ルイと勝負しなさい。――あたしがルイを勝利に導いてやるわ!」

「いいよ! 受けて立ぁつ!」

「望むところだぁ!」

「え、でも……アスカねえちゃん、それは……」

 ノリノリの2名に気後れする1名。

「アスカさんが指示を出すなら、もはやそれはアスカさんがプレイしているのと同じなんじゃないの? ポーモンはコマンドバトルゲームで、アクション要素がないし」

「むむ、たしかに……」

「そもそも指示を出したら、その声で『技』が相手プレイヤーに伝わって作戦ばれちゃうんだけど……」

「むむむ。たしかにそうだわ。……あっそうだ!」

 少女がひらめいた。


「だったら2対2のツインバトルにしましょう! あたしがルイと組むわ!」


「なるほっど!」

「おおっそっかぁ!」

「え、でもアスカねえちゃん、それって――」

 ワクワクの2名に何か案じている1名。

 だが急に少女が頭を抱える。

「ああっ! しまったぁああ!」

「どーしたの?」「なんだなんだ?」

 思い出したのだ。


「あたし、いま『ゲーム機』もってないわけじゃないの!」


「……一番近いコンビニだけのつもりだったらしいしなぁ」

 そりゃそうだろ、という当然のテンションで彼がぼやいた。

「ああもうっ! こうなったら、今から家までガンダで取りに帰って、ガンダで戻るわ! ちょっと待ってなさいアンタたちっ!」

 少女が駆けだす準備する。

「どんだけ本気で小学生とポーモンやりたいんだこの人?!」彼が走りだそうとする少女を止める。「まて、落ち着けアスカさん。今から海老井家にゲームを取りに戻る時間はないって。小学生にはもうギリギリの時間なんだから」

 冬の公園。もう日が暮れて薄暗い。

「それでもよ! ルイにも勝利の喜びを知ってほしいわけじゃない? ここで、負けたままか、1回でも勝てるか、……これは今後の人生において価値観が大きく変えるわ! 努力は報わるってことを知ってほしいわけ!」

「そんな大きな話なのコレ?! あと努力云々なら、前々からプレイしているケン君トラ君の方に軍配が上がると思うんだけれど?」

「うるさいわね真斗! とにかくあたしは、ケントラに敗北を、ルイに勝利をもたらしたいわけよ。だから行かせなさい! 小学生相手にあたしのパーティで無双してやるわ!」

「言っていることが徐々にカッコいいような気がしてきたけれど、内容をしっかり聞いてみると傍若無人で最悪じゃんか!」

 ガンダッシュ寸前の少女の腕を掴んで彼は引き止める。


「アスカねえ、ぼくもアスカねえとバトルしたいけど、間に合わないって」

「おれたちそろそろ帰らないといけないし……」

「うん、そうだね。もう時間が……」

 小学生3人が現実的に述べた。

「あーもうっ、じゃあ仕方ないわ……あきらめるわ」

 ようやく少女が折れた。彼を振り切って走りだそうとする足を止める。

「ふう」

彼が溜息。

「たしかにアスカさんが家にゲーム機を取りに帰るのは時間的に無理だ。ならば――」

 彼が自身のバッグに手を伸ばし――

「僕が、戦う」

 ――ゲーム機を取り出した。



 ドッと。

 全員が沸いた。

「正志に――じゃなかった。真斗にいポーモンもってんの!?」

「マジでマジでマジで!? 最強レベルいくついくつ?」

「スゴイ偶然。もってたんだ!」

 小学生が興奮する。

「ちょっと真斗、アンタなんでゲーム機を持ち歩いてんのよ!?」

「いやあ」少し照れて。「隣町の大型ショッピングモールのポーモンショップで限定色違いモンスターの配布イベントを開催してたから、受け取りに行ってたんだ」

「ちょっ! 大刀剣犬獣ケンケンオーの色違い配布の件じゃないのよ!」

「さすがアスカさん、知ってるのか」

「真斗、てっきり休日だからミナとデートしてたんじゃないかと予想してたんだけど、配布イベントに行ってたわけね。なんだ違ったわけね」

「え、いや……ああ、うん」

 彼はもう面倒だったので言わなかった。


 小学生がゲーム画面を操作しながら、高いテンションで話す。

「よっし! ツインバトルだ。ぼくいま『ヘヤ』を用意するから!」

「おれとケンがチーム組むから、真斗にいちゃんとルイでチームね」

「わかったわ。覚悟しなさいアンタたち」

「いやアスカさんはやらないだろ? ――あとさ、もう暗いしバトルモンスターは1人1体でやろう。複数体のフルバトルは時間的に無理だ」

「わかったー」「いいよー」

 いい返事だった。

 

「わかってるわね。真斗!」

「わかってるわね、と言われても……。とにかく、僕がこの子と組んで、あの二人、ケン君トラ君とバトルすればいいわけだね?」

「ええ、そうよ。全力でいきなさい」

「いや、それはちょっと大人げない気がするから……。それよりも――」

 彼はチームメイトに視線を向けて話しかける。

「――『部屋』。対戦の設定は、『むこう』がしてくれるみたいだから、今のうちに少しだけでも作戦を立てよう」

「うん」相棒がにっこり笑って頷いた。

「ちょっとゲーム画面見せてね」彼が寄る。「どんなモンスターが仲間にいるか、どう戦いたいか、教えてくれる?」

「う、うーん。ええっと、『このコ』、とか」

 相方の戸惑いを感じつつ、彼はゲーム画面を見る。

「おっ!」

 悪いことを思いついた。







――ツインバトル・スタート!――

 各自のゲーム画面には、四人の少年がそれぞれ対峙した。

「さあ、それぞれのポーモンが登場するわけよ」

ゲーム画面を覗き見する少女が状況を伝える。

「よしいっくぞー」

――空間が裂けて歪みよりいずる。――

――ケンは『エンバーン』を呼び出した。――

 回転しながら燃え盛る大きな円盤が出現。コミカルな目と口――顔がある。

「円形業火炎エンバーン、ね。初期に選択して仲間にできる仲間――御三家の一角。その最終形態。高いアタックとスピードが持ち味の炎系ポーモンってわけ」

 ――アスカさん。1人だけやることないから解説に回ることにしたのか。

 彼が悟った。


「次はおれだー」

――トラは『ユメノア』を呼び出した。――

 巨大な船。大きく帆を張ったいにしえの木造巨船は中空に浮かび、主砲のある船首の上部に象られた女神が見下ろし笑みを浮かべた。

「うっわ。夢幻航行船ユメノアじゃないのよ。ストーリー最終版で仲間にできるラスボスキャラ。高耐久な上にバトルで通りがいい夢系の技が強力な伝説級なわけね」

 ――うーん。アスカさんの解説が適切すぎる。

 彼は少女のゲームにかける熱量を改めて理解した。


「……」緊張しているようだ。

 ――ルイは『ナマクラ』を呼び出した。――

 黒く錆びつく鉄塊。形状から元は大刀であったであろうことが見受けられる。刀身に発現する頼りない眼が困ったように相手を見ている。鉄塊は重い音を発して地に突き立った。

「……錆憑古刀霊ナマクラね。そこそこの耐久力を備えた防御よりの構成が多いポーモンね。鉄系と霊系のめずらしい複合系統を持っているわけ」

 ――さすがアスカさん。わかってるな。

 彼が少女の理解力を察して、浮かべた笑みを隠した。


「最後は僕だな」

 ――マコトは『イバリス』を呼んだ。――

 リス。小さい。だが太っている。ちびデブだ。腹が大きく傲慢な顔。ノシノシ歩いてやってきた。

「ちょっ! イバリスって、挑発小型獣イバリスじゃないのよ!」少女動揺。

「え、なんだっけあれトラわかる?」

「あれだよ。はじめの世界で、半分くらいのところで出てくる、あれ」

「ああ。あれか思い出した。仲間にできたんだ」

 小学生にも浸透していなかった。

「最序盤で出現するわりに、中盤の割と面倒くさいサイドイベントをこなさないと仲間にできない挑発小型獣イバリス。仲間にしなくてもストーリー進むから問題ないわ。低火力、低耐久、低ビジュアル、三拍子そろった対戦向けではないポーモン。てか『イキリイバリス』にグローアップしてないわけ……」

「さすがアスカさん、よく知ってるな」

「……そりゃ、ねぇ。ガチ勢で知らない方がおかしいわけよ」

 あきれていた。

「あと無知な小学生ども聞きなさい。イバリスを呼ぶときは、時空を割らずに、ふつうに歩いてやって来るところが地味にレア演出なわけだからちゃんと見ときなさい」

「えっ! あっほんとだ!」

「ふつうに歩いてきてた!」

「え、え? なんの意味があるの?」

「意味はないわ」解説少女。

「……え?」

 わけがわからなそうだ。

 彼はゲーム初心者の相棒に伝える。

「うん。無駄演出。いや演出はないんだけど……。そういうムダも、ゲームの面白いところだから」

「へー。勝ち負け以外にも、そういう楽しみ方もあるんだ」

 初心者が一歩と『沼』に進んだ。


――オーダータイム――

「さあ『技の選択』の時間よ。ポーモンに指示――オーダーする時間。指示は大まかに3つ。憶えている『技』、もしくは『交代』――は今回一匹ずつだからないわね。もしくは『降参』のコマンドも――ありえないわね」

 ――当り前のことしか言っていない……。

 彼が解説少女をあきれた目で見ていた。

「さあ、修得している4つの技から、1つ入力なさい。最初のコマンド――この選択、読み合いで勝敗が大きく変わるわけ」

 話すことがないのだろう。ゲームシステム的な面を取り上げる解説少女。だが楽しそうだ。

「真斗にいちゃん……」

 不安げに聞いてくる相棒に、

「大丈夫。作戦どおりにやろう」

 彼は笑顔を返した。


「ケン、どうする。ここはやっぱり強い方から――」

「いやそうかもだけど、ここは倒しやすい方から確実に――」

「アンタたち、声で作戦を伝えてたら相手にバレちゃうわよ?」

 解説少女が指摘する。

「あ、そうだ」

「たしかに!」

「ふう。まったく。これだから小学男子3バカトリオは」

 あはは、と力なく笑う声が彼の隣から聞こえた。

「……」指差しで仲間にいろいろ伝えている。

「……」コクン、フルフルと頭を振って意思を伝えている。

 ――モロバレなんだよなぁ。

 彼は思った。もうコマンド選択は終えているので対戦に影響はないのだが。




――アクション!――

「さあ、コマン入力終了。スピードの速い順に技を出し合ってゆくフェイズよ」


――ケンの『エンバーン』の『かえんビーム』!――

 燃えながら高速回転する顔あり円盤から赤い光線が放たれる。

「え」と彼。

「ん?」と解説少女。

「あれ?」と技を出した少年。

「え、どうしたの?」とわからない彼の相棒。

 ゲーム画面上、『かえんビーム』はイバリスに命中。ダメージのエフェクト発生。

――マコトの『イバリス』に命中!――

 画面下部に表示されているイバリスのHPバーが半分以上減って、赤色になった。

 彼は疑問。

「ねえケン君、なんで――」

「ケンあんたなんで『かえんビーム』なわけ? ふつう専用技の『かえんエッジ』じゃないの?」

「え、だって、どっちも技の威力は同じだし」


 ポーモンの攻撃技には『ちょくせつ』と『えんかく』との2種類が存在しており、『エンバーン』は『ちょくせつ』――アタックが高いタイプ。『ちょくせつ』である『かえんエッジ』の方が『えんかく』である『かえんビーム』より威力が高いはずなのだが……。

 だから、ガチ勢の中学生に2名は驚いた。

 ――弱い方の技、使ってきた!


「ケン、『エッジ』の方が火力が出るわけよ? エンバーンはCよりAの方が高いわけだから……」

「え、どーこと?」わからない小学生。

 ――魔境……いや異世界だ。コレが、小学生の技構成。

 そんな『ガチ勢の常識』を小学生は凌駕がする。

 ――予想以上にHPもっていかれた。B特化にしていたのがアダになったか……。

 彼が焦る。


 小学生が驚いていた。

「いや、それよりも! ぼく、ルイのほうを狙ったはずなんだけど! なんで真斗にいのほう攻撃してんの? バグ?」

「それはイバリスのスキル『あざける』が発動してるからだね」

「イバリスにはツインバトル専用スキルがあるわけで――いやそれよりゲーム画面よ!」


 バトルは進んでいる。


――トラの『ユメノア』の『ドリームキャノン』!――

 と表示されていたが、すでにその文字は消えていた。

 長く神々しいエフェクトが始まっていた。船首の女神が高らかに歌いあげ、その下の主砲が光を集めてゆく――そして、一閃。放たれる。光の砲撃。

 ゲーム中最高威力技の一つ。『ドリームキャノン』

 イバリスに光が直撃。

「よっし!」技を放った小学生が拳を握る。

 が、

――『イバリス』に命中! だが、効いていない。――

 ゲーム画面――そこには何食わぬ顔で、おデブなリスが立っていた。

「え、うそ! なんで!」

「イバリスは現実系よ。だから夢系の技『ドリームキャノン』は効かないわけよ」と解説少女。

「あとトラ君も『ナマクラ』を攻撃していたかもしれないけど、スキル『あざける』でイバリスのほうに引き寄せさせてもらったから」と彼も解説。

「な、なるほどー」

小学生が頭を上下に振った。


――マコトの『イバリス』の『かむ』――

 リスは、ドテドテと走ってゆき巨船の前に、口をあげてガブリ。

 チョロ。と『ユメノア』のHPバーが1ミリほど減った

「「「「よわっ!」」」」

「い、いや、イバリスの基本はサポートだから火力はいいんだよ。どうでも」

 全員から放たれた一言に彼がフォローをいれる。

 それでも小学生は言う。

「それにしても弱いよ!」

「うん。HP3しか減ってないよ」

「……」相棒は神妙な顔で何も言わない。

 ――へー。『3』は削れたのか……。

 彼は、冷静だった。



――ルイの『ナマクラ』の『てつうち』――

「これは知ってる。叩いてくる技」

「うん。あんまり強い技じゃないよね」

「あら? アンタたち、知らないの?」

 小学生二人に上から目線で解説する少女。

「錆憑古刀霊ナマクラの『てつうち』は、ね」

 

 カン・カン・カン、と。鉄塊から音が聞こえる。

 ドゥーンと、能力ダウンエフェクト。

――ナマクラのディフェンスがさがった。――

「え、攻撃じゃないの?」

「弱くなった?!」

 そしてギューンと――能力アップエフェクト。

――ナマクラのアタックとスピードがおおきくあがった。――

 鉄塊に変化が見られる。困ったような垂れた目は吊り上げられ、やる気を感じる鋭い眼光へ。そして刀身は磨かれ光を宿した。ここに名刀と成る。


「――敵ではなくナマクラ自身をターゲットに『てつうち』することで能力アップ技――積み技として発動することができるわけよ!」

「ええっ!」

「そうなの?!」

 小学生が驚いた。

「ふっ」

「フフっ」

 彼と、そして隣の相棒が笑んだ。


――オーダータイム――

「さあ、2ターン目よ。さっきの1ターン目の攻防で、真斗のイバリスがほぼ瀕死だけど、他の3体はほぼ無傷、でもルイのナマクラは能力がアップしているし、まだどうなるかわからないわね」

 解説少女が本領を発揮し始めた。

「トラ、ここは何とかしてルイのナマクラを――」

「いや、でもそのためには真斗兄ちゃんのイバリスを倒さないと――」

「アンタたち、だから作戦聞こえるわよ?」

「おっと!」

「そうだった!」

 二度目。身振り手振りで伝え合う。


「いい感じだね。後は自由にやろう。僕がサポートするから」

「うん!」笑って頷く。




――アクション!――

「さあ、2ターン目。動くわよ。まずは――真斗ね」

「うん」

 解説少女と彼の目が合う。

 ガチ勢とガチ勢で伝わるものがあった。


――マコトの『イバリス』の『もっかいやれ』――


「え。はやっ」「なにそれ」

 小学生が反応する。

「『もっかいやれ』は先制技。前ターンに使用した技をもう一度使用させる効果があるわけ」

 画面上で、太ったリスが隣の輝く名刀に短い腕を伸ばし、指を1本。

 名刀が反応する。

――ルイの『ナマクラ』の『てつうち』――

カンカンカンの音と、能力ダウン・アップのエフェクトが流れ、名刀の輝きが増した。

「うわっ」

「まじかー」

 小学生組が声をあげた。

「いや、でもその前に倒しちゃえばいいんだよ。エンバーンは速いし」

「あ、でも真斗兄ちゃんのイバリスがいるから、そっちしか攻撃が――」


――ルイの『ナマクラ』の『てつうち』!――

 輝く名刀が巨船の方へ飛んでゆく。そして――叩く。

カン・カン・カン!

 HPゲージが、ガクン・ガクン・ガクンと激減し、なくなった。

 船首の女神が悲愴な顔を浮かべ、爆発して消えた。

 ドカーン!

――トラの『ユメノア』はたおされた。――

「ああっ! おれのユメノアがぁ」

「うそっ! スピード負けてる!」


 彼と相棒がニッと笑って目を合わせた。


――ケンの『エンバーン』の『かえんビーム』!――

 先と同様。燃えながら高速回転する顔あり円盤から赤い光線が放たれる。

 画面下部の赤くなっていたHPバーがすべて消えた。

――マコトの『イバリス』に命中! イバリスはたおされた。――

「これで僕もゲームオーバーか」

 ゲーム画面。リスは倒れた。ゲーム内の少年『マコト』が倒れたリスに近寄って、拾い上げて回収していった。ちょっと重そうだ。

「これもレア演出なわけだから。意味ないわけだけど」

 解説少女の言葉は熱くなってきた小学生の耳には半分くらいしか届かなかった。



――オーダータイム――

「さて、ラストターンよ。――ケンのエンバーンか、ルイのナマクラか」

 解説少女がしみじみ語る。

 

 込み上げる悲壮感に負けずに、小学生は仲間を応援する。

「がんばれケン・エンバーン!」

「でもトラ、巨船ユメノアが一撃で倒された攻撃を、エンバーンは耐えられるわけないし……もう降参するしか……」

「それでもがんばれ! 最後までやろうよ。何か起こるかもしれないじゃん!」

 絶望に打ちひしがれる仲間を奮い立たせる。


 相手サイド。

「……真斗にいちゃん……」

 どうしよう、そんな目で見られる。

「いや、僕はもう倒されているし、どうするのかはキミが決めることだよ」

「……」悩んでいるのだろう。

「気負わなくていいと思うよ?」

 彼は笑う。そして、手強い対戦相手の方を見遣る。

 ――そんなの気にしなくていいだろうから。


 小学生が覚悟を決めた。心の中で立ち上がる。

「そうだな。ぼくあきらめない。トラ、ありがとう。……あとそれと――ルイ、最後まで手を抜かずにちゃんとバトルしろよな。真剣勝負なんだから」

「うん。それに、おれたち、さっきまでルイをボッコボコに倒していたわけだし、やきにくきゅうしょく。わざと負けられても、嬉しくないから! 全力で!」

 それを聞いて、うなずく。

「……うん」

 彼の相棒の心に闘志が戻る。


「『焼肉給食』ってなによ今そんな豪華なモノでてるわけ、って思ったら『弱肉強食』なわけね」

「……アスカさん。なるほど、なんだけど、今その解説はヤボじゃないかな?」

 中学生がそれを傍で見守っていた。









――アクション!――

 これで決まる。全員がわかっていた。

 きっとルイの『ナマクラ』が――


――ケンの『エンバーン』の『かえんビーム』!――


「「「「「えっ!?」」」」」――全員の声が重なった。


燃えながら高速回転する顔あり円盤から赤い光線が放たれる。

 ナマクラのHPゲージに満ちていたHPバーが一瞬ですべて消えた。

 ドカーン! 輝く名刀が爆発して消えた。

――ルイの『ナマクラ』に命中! ナマクラはたおされた。――


 彼のゲーム画面にツインバトルの勝敗が表示された。

―― LOSE ――





―― WIN ――

 表示された画面が信じられなくて、呆けていた小学生2人。

 気がついた。2人は目を合わせる。

「うわああああああ! かったぁああああああああああ!」

「うわあぁ! すっげえ! やったぁケンんんんんんん!」

 放心していた小学生組が歓声をあげた。


 びっくりしていた彼がそのまま相棒を見る。

 ふるふる、と。頭を横に振った。否定だ。

 なにもしてないよ、そういう意思が伝わった。

 そもそも、あの状況で降参以外に負けるパターンがあったとすれば、それは――

「驚いたわけよ。まさか、エンバーンと、『てつうち』で2回能力上昇したナマクラが『同速』――同じスピードだったなんて……。2ターン目の攻防でナマクラが先制したから、てっきりナマクラが上をとっているものだと思っていたわ」

 解説少女が有能だった。

「同じスピードの攻撃順は完全ランダムになるわけ。そしてラストターンは、エンバーンが先制した。まさか、そんなドラマティック展開になるなんて思ってなかったわ」

「ナマクラの防御力が下がっていたのも一撃死の要因かも。――これはちゃんとエンバーンのSに数値を振っていたケン君の勝利だ。おめでとう」

「ありがとう真斗にい。――ところでエスってなに?」

 ――スピードのSだけども。

「……うーん。まあ、うん。おめでとう。対戦ありがとう」

 ガチ勢の事情を、小学生はわかっていなかった。


「ごめん。真斗にいちゃん。負けちゃって……」

「いや、あれはキミのせいじゃないよ。同速だったなんてわからないし」

「……そうかな?」

「それに誰かのせい、ならば僕も負けた責任があるよ。同じだけ僕のせいでもある。いやキミ以上かも。――なにせ僕、敵に与えたダメージ、3だけだよ?」

「……ぷっ」

 その言葉で相棒だったその子は少しだけ笑い声を漏らした。そして彼は問う。

「それより、もっと重要なことがあるんだけど」

「え、なに?」

「対戦、楽しかった?」

 その子は満面の笑みで頷いた。

「……うんっ!」










 小学生が大手を振っていた。

「めちゃたのしかった。ばいばーい!」

「アスカねえちゃんも次は対戦しよーね!」

「それじゃあね!」

 中学生が軽く手を振って答えた。

「アンタたち、次はあたしがボッコボコにするから。首を洗って待ってなさいよー」

「アスカさん、大人げないって。――みんな、じゃあね」




 中学生は家路につく。

「いやーしかし『かえんビーム』とはねー。異世界を見たわけよ」

「うん。ネットのガチ対戦では絶対見ない構成だった。別世界だ。実は『イバリス』はB特化構成だったから『かえんビーム』は焦ったよ」

「へー。そうだったわけ。あと『ドリームキャノン』もネットのランク戦では見ない技だから新鮮だったわ」

「だよね。ふつう『ユメノア』って『おしつぶす』とかの『ちょくせつわざ』が多いからそこも油断してたかも」

「さてっと、あたしアッチだからココで」

「ああ、それじゃまたねアスカさん」

「ええ、じゃあね」


 彼は少女と別れて、暗くなった家路をたどる。

 そこで彼は思っていた。

 ――異世界転移モノ、ってこういう気分なのかな。

 対戦で負けはしたが、それは重要ではない。

 普段見ることのない常識、経験を生かしてハマった自身の戦略、直接顔を突き合わせての激突、そして奇跡のような偶然。これらを評して。


 ――うん。最高だったな。















「……真斗にいちゃん」

「え?」

 彼は振り返る。

 後ろには小学生がいた。ひとりだ

「あれ? どうしたの。もうだいぶ暗いから早くお家に帰った方がいいよ。寒いしさ」

「うん。わかってるんだけど。どうしても、ひとつ、知りたいことがあって……」

「えっと、なにかな?」





























「正志にいちゃんだよね?」














「だれ?」と「なんで?」と

 今回のミステリ的要素です。

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