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バッチリきめてチャリで来た



 帰り道。

 見知った人物がコンビニに入店するのが見えた。

 のどが渇いていたのでそのコンビニに寄ることにした。

 少女は雑誌コーナーにて週刊ガンジャン合併号を立ち読みしていた。

「……ん?」

 その彼の声で、立ち読みしていた低身長の少女も気がついた。

「え? あっ。――え、」

 だが、少女は戸惑っている。

「こんにちはアスカさん」

「ああ、あんた真斗ね。なに買い物?」

「うん。まあ」

「ふーん」

 それだけのやり取りをして、少女はまた雑誌に視線を落した。

 彼としても用事はない。飲料コーナーからいつも飲んでいるスポーツドリンクを取り出し、レジで会計、店を出る。そこで、かち会った。

「ん、真斗、あんたもう済んだわけ?」

「うん。飲み物買うだけだったから」

「ふーん」

 2人して店を出る。

 そして別れる。

「さて、そんじゃね。――って、ん。あれ?」

 辺りを見渡した少女が困惑。

「アスカさん、どうしたの?」

「うっそでしょ……っ!」


「――――――」

 窮まった少女が叫んだ。


 彼はそれを聞いて、とある出来事を思い出した。





――――――――――――――――――――――――――――――――――





 駐輪場にて。


「自転車のカギ落としたぁあああぁ!」


 絶望した彼女が頭を押さえて天を仰いだ。

 それを見てあきれた彼が溜息をついた。

「……はあ」

「まずい、まずいよ真斗くん。これじゃあ私、帰れない! どうしようどうしよう。どこで落としたんだろう……もしかして盗まれた? いやいや、自転車の鍵をスリで盗んでも、どの自転車の鍵かわからないだろうし。やっぱり落としただけだよね……。私のミスか。落し物って、どこに届いてるのな?」

「いやいや、皆元さん?」

「ん? どうしたの真斗くん。あきれたような眼で私を見て――あ、いやほんとに無いのカギ。冗談とかドッキリとかじゃなくて。えへへ実はありましたぁーもってましたぁー、とかいうオチだけは絶対ないから。断言するよ、ない! マジだから。ほら、疑うならボディチェックしてみろって、ほらほら!」

 彼女はその場で両手を広げて見せた。

「…………」

 その場で彼は考える。――本気か、と。

「え、あの、ま真斗くん本当に触る気ですか?」彼女ちょっと焦る。「いやたしかに触ってみろとは言ったけどそれは本当に鍵が無いのを証明するためのアピールであり嘘や悪巧みではないことの証明でしてここは人の往来もあるから『よいではないか』『あーれー』って私を爆転シュートするのは――」

「しないから大丈夫だよ!」

 彼がつっこんだ。

「落ち着けって、皆元さん。落ち着いてよく思い出すんだ」

「え、思い出すって……」

 彼女は思い返す。



~~~~~~




 お昼すぎ。

 人が多い。

 集合場所の鳥居の前には彼の方が早く来ていた。

 ニット帽を深く被った彼はスマホをいじって待っていた。

「やあやあ、お待たせ真斗くん。ごめん遅れたかな?」

 そこに彼女がからころと歩いてきて彼に声をかけた。

「いいや、時間ピッタリだよ。僕もいま来たところだから」

「おっとおっと、定番のセリフを押さえてきた。ニクイねえ。でもでも本当は30分くらい前から待っていたり――」

「いや、ホントのことだしなぁ……。ここに着いたのも本当にさっきだし」

「あらら、そうですか。――本当は?」

「本当だよ。それよりも早くいこうよ」

「え、あ、うんうん。そーしよかっ」

 彼と彼女は石畳の端を歩きだした。




 彼女に合わせる形で彼もゆっくり歩く。

「さてさて、今日は勝手に『非NGワード』ゲームをやっていこうと思います」

「皆元さんがいつもながらに突然だなぁ。で、何それ」

「私が考えてきた――設定した『ワード』が真斗くんの口から出てくるまで、私は家に帰りません」

「え、マジで何それ?」

「だからだから、真斗くんから『非NGワード』が出てくるまで、私はずーっと真斗くんに付き(まと)いますので、私が家に帰るために――いや、私を家に帰したくなかったら何も口に出さなかったらいいよ」

「本当にルールがわからない!」

「だから、真斗くんは『非NGワード』を言ったらいいんだよ。そういうゲーム」

「僕が何かしらの『ワード』を言ったらいいってこと?」

「そうそう、そういうこと『NGワード』ゲームの逆ってこと。アレは特定のワードを口にしたらダメってルールだけど、コレは特定のワードを口にしたらOKというルールです。――あ、ゲーム名を『OKワード』ゲームに変更しようか?」

「いや、どうでもいいから、どっちでもいいけど……」

「とりあえず、3ワードくらい準備しました。どれを言ってくれてもいいよ。この紙に書いてあるからね」

 彼女は3枚の手のひらサイズの紙を見せて巾着の中にしまいこんだ。

「準備がいいなぁ……」

「はい。そんなわけで真斗くん『OKワード』言ってください」

「ノーヒントで?!」

 突然だった。

「あっはっは」彼女が笑う。「――まあ用事が終わるまでに言ってくれればいいよ。普通にしていたら、きっと言うであろうワードだから」

「え、本当に?」

「うんうん。そうそう、今日言わなけりゃいつ言うんだよ、ってワードでもあるからね」

 普段から言ってくれてもいいけれど、と彼女がボソッとつぶやいた。

 彼、考える。

「……あけましておめでとう?」

「たしかに今日言わなけりゃいつ言うんだよってワードだけどチガウ!」

 彼女が首を振った。それから――

「てかてか、そーだそうだね。言ってなかったよ。真斗くんに新年のあいさつ。――あけましておめでとうございます」

「うん。おめでとう」

「これからも末永くよろしくお願いします」

「あれ、なんかそれ新年のあいさつとはちがくないか?」

 まあでもこちらこそよろしくお願いします、と彼も返した。




「おっとっとととぉ」

 階段で彼女がよろける。

「皆元さん、大丈夫?」

「うん、へーき」

 態勢を立て直した彼女が返事する。

「そう、それはよかった」安堵。

「あ、まった。ストップ」思案顔の彼女。「やっぱりさっきのよろけたところで『あ、ダメ。足痛い。ケガしちゃったみたい……』って上目遣いで儚げに申し上げたほうがよかった気がする。そうすれば真斗くんがおんぶ――はムリか、お姫様抱っこで運んでくれるから、階段登らなくて良くなってラクできたから……」

「それ口に出して全部台無しにしている上に、そうしたらもう階段登るの中止して戻るから。まだまだ階段下の方だし!」

「ちっ!」

「舌打ちがでかいよ」彼がつっこみした。「まあでも、本当に転んだら危ないからね。――……はい」

 そう言って彼が手を差し出した。

 えへへ、と彼女が笑ってその手に自分の手を重ねた。




 手と手を合わせた。


 手を合わせた彼を見て、彼女は同じことを願っていたらいいなぁと思った。






 すみやかに用事を済ませて階段を下り、駐輪場の方まで戻ってきた。

「さて、それじゃあそろそろ帰るとしようか、皆元さん」

「おい待て、真斗くん」

「ん? なに皆元さん」


「早く『ワード』を答えてよ!」


「え、ええぇ……」

「ほらほら『非NGワード』ゲームの答え」

「いやまあわかってるけど……」

「わかっているなら答えてよ」

「いや、答えがわかっているって意味じゃなくてね?」

「真斗くんが答えてくれるまで私帰らないって言ったよね? だから帰らないよ!」

「そう言われてもさ、寒いだろうし。それに受験勉強だってしないといけないだろ? わがまま言うなよ……」

「むぷーっ」彼女がハムスターした。

「まあ、でもせっかく皆元さんが考えてくれたわけだし、その『非NGワード』ゲームは、また別の機会に――」

「ダメなの。それは、今日じゃないとダメなんだってば……」

「…………そうなんだ……」

「なんで言ってくれないの? わかるでしょ? 私の言わせたいことなんて!」

「いや、だって、そんなのノーヒントじゃ答えようが……」

「それでもわかるでしょ! 察してよ!」

「……えー」

「ねえ、それ、本気で言ってるの?」

 今だから言えることあると思うんだけど、と彼にねだる。

「…………」彼無言。

 彼女が折れた。

「…………じゃあ、もういいよ。ごめんね。わがまま言っちゃって。――さてさて、それじゃあ帰ろっか」

 彼女がカランコロンと下駄を鳴らして歩き始めた。



「……その、」

 彼が、一杯いっぱいになりながら、答えた。

「――浴衣、似合ってるね」



 彼女が微笑んだ。

「にひひ。……うん。当たり」




 彼女が訂正した。

「でもでも、真斗くん。いま着ているこれは浴衣じゃないよ」

「え、そうなの?」

「うん、着物だけど、浴衣はもっと薄いやつで湯上りや夏に着るやつ。――これは着物で、さらに言えば小紋。振袖とは違うの。もっとカジュアルなやつ」

「へー。コモンか」

「まあでも、ちゃんと『非NGワード』の『似合ってる』を言ってくれたので、ヨシとしましょう。まあ一番無難なワードだったけど」

 彼女が巾着から紙を取り出して一枚見せる。

 そこには『似合ってる』と書かれていた。

「他の『ワード』も言ってくれてもよかったけどね」

「――かわいいね」

「えっ」

「――キレイだ」

「えっえっ!」

「……どうかな。その二つは? 正解?」

「えっと、うんまあ。――ああ、そっかうんうん。答え合わせだね。うんうん」

 ――私を見て本気で言ってくれたわけじゃないんだよね。


「……ホントは、鳥居であった時に伝えようとしたんだけど、なんかタイミングを逃しちゃって、皆元さんからユカ――いや、着物の話題が出たら伝えようとは思ってたんだけど、なんかそういう話題にもならなかったし。あとまあなんか、照れくさくて、さ……」

「え、あ、うん。そ、そっか!」

 照れた。互いに。


「さてさて! それでは、いただきたかったお言葉も頂戴したし! 私は帰るとするよ。それじゃあね!」

 彼女が下駄を鳴らして背を向けて、巾着から自転車の鍵を探すが……

「え、あれ、あれれれれれ?」

「ん? どうしたの皆元さん」

「どうしよう、真斗くん……」


 そして彼女が言った。



「自転車のカギ落としたぁあああぁ!」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――







 彼が語る。

「――と、まあそんな感じで」



「あたしはナニを聞かされているんだ?」

 少女が肉まんを口にしながら不満顔で申した。



「え、どうしたのアスカさん」

「いや、どうしたじゃないわよ!」キレ気味だ。「あたしは焦ってるのよ。コンビニから出てきたら自転車がなかったのよ。たぶん窃盗だから警察に連絡するべきだと思っているのにそんな真斗とミナが初詣に行ったというノロケ話を肉まん頬張りながら聞いている場合じゃないってわけなのだけれどそうね肉まん奢ってくれてありがとねって言ってなかったからいっておくとして、その話は今の状況とまったく関係ないわけでしょーが!」

 盛大にキレて文句を言いながらお礼を言う傷心の少女にほほえましさを感じながら「どういたしまして」と返事してから彼は告げる。


「いや、皆元さんとアスカさん、きっと同じだと思うから……」

「同じ? ちがうでしょ。ミナが失くしたのは自転車のカギでしょ。あたしは自転車――本体、そのものを盗まれているわけ」

「いや、それが間違ってるんだ」

「は? だって自転車ないわけ! だから――」

「いいかアスカさん。皆元さんは初詣に着物で来ていたよね?」

「ええ、だから、そう聞いたわけだけど? カワイイ彼女でご満悦なわけでしょーね」

「いやだから、そうじゃ――いやそうだけどそうじゃなくて……」

「だから、何が言いたいのよアンタ」

 ちょうど肉まん最後の一口を食べ終えた少女が真意をたずねる。



 彼が告げる。

「だって、はじめから自転車に乗ってきていないだろう?」



「ん? え、へ?」少女困惑。

「いいか。皆元さんは着物で初詣に来ていた。着物では自転車に乗れないだろう」

「……」

「いや、実際は着物で自転車に乗れる人もいるかもしれないけれど、慣れが必要だろ。皆元さんはお正月とか特別な日に着るだけ――普段から着用していない、着慣れていない着物で自転車は使えないだろ?」

「……あっ、あー、そうね」

 少女納得。

「で、皆元さんから話を聞いてみたら、やっぱり『今日はお母さんに送ってもらってきたんだった。帰るときもまた電話して迎えに来てもらう予定だったわ』って、だから――」

「いやいや、ちょっと待ちなさいよ真斗。その話と今のあたしが同じって――……ん?」

 思い返す。




 海老井(えびい)明佳(あすか)の行動。

 そういえば今週は週刊ガンジャンを読んでいなかったと思い出して近所のコンビニ(徒歩10分弱)に向かった。ダイエ――いや、すこし身体を動かすために『徒歩』で。

 置いてなかった。

 週刊ガンジャンは棚に無かった。

 ――仕方ないわ。他のコンビニに行ってみましょ。

 置いてなかった。

 ――そこのコンビニも覗いてみましょう。近いし。

 置いてなかった。

 ――次。次ならあるはず! そこだし。

 置いてなかった。

 ――いや、諦めるは早いわけよ。むこうのコンビニも調べてみましょう。


 あった。

 ――やったわ! ついにやったわ!

 ついに見つけたそのすこしくたびれた雑誌を手に取る。

 知り合いに声をかけられる。受け流す。そして読む。



 ……………………合併号だった。



 なにかいろいろと吹き飛んだ。

 ――もう嫌、はやく自転車で家に帰りましょう……あれ?


 置いてなかった。――自転車が。


 以下略。







「アスカさんが徒歩でコンビニに入っていくのを見ていたから、自転車がないって言うのを聞いておかしいと思ったんだ」

 それにアスカさんの自転車ならサイズ小さくてサドル低いだろうし、誰も盗もうと思わないだろうし。

 それを彼は言わなかった。

「あたし、はじめっから自転車で来てないじゃない!?」

「うん。そういうこと」

「ちょっと真斗! それだけのことでしょうがっ! なんで早く言わないわけよ!」

 怒られる。

 彼が弁明する。

「いやいだってさ、自転車がみつからないって怒り心頭アスカさんに『はじめから乗ってきていないんじゃないか?』なんて声をかけても『はぁ?! あんたフザケてんじゃないわよ!』ってキレられるのが関の山だろうから――」

「だろうから、なによ?」


「――皆元さんも同じヘッポコな勘違いをしているし、アスカさんひとりがポンコツなわけじゃないから大丈夫だよ、と説明して落ち着いてもらおうと思って――」


「はぁ?! だれがポンコツよ! あんたフザケてんじゃないわよ!」

 どの道、結局キレられた。







ちなみに、

「この前アタシのチャリ、路上駐輪してたら持っていかれちまってさ。おい、どーしくれんだよ?」

と女子友達からグチられることを彼はまだ知らない。







はい。お読みいただきありがとうございました。

お疲れさまです。


そうですね、はい。

自転車または鍵類の盗難紛失には注意しましょう。

あと駐輪場所と勘違いと……。

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