その告白は突然に
あらすじにも説明がございますが、
『クライマックスシーズン』つまりは『最終章』でございます。
基本1話解決なのでどこからでも楽しめます。が――
これまでの『ツインスタンダード』シリーズやその番外編に目を通された上で、
ご覧になることをオススメしております。
ネタバレをくらう可能性がございます!
ご注意ください。
え、いいんですか?
本当にいいんですか?
ほんとに、だいじょうぶですか。
え、しつこいですか?
すみません。
はい、わかりました。
では、クライマックスシーズン
よろしければどうぞお楽しみください!
お昼すぎ。
苗倉家。
彼は自室で机に向かい合っていたが、スマホが鳴った。
着信だ。番号は非通知だった。
通話を開始する。
「もしもし?」
『あ、もしもし真斗? あたしあたし、あたしなわけよ』
「ん? アスカさん」
『やっほー。あけましておめでとう』
「ああ、うん。あけましておめでとう」
新年のあいさつをする。現在は冬休み。1月2日である。
「てかどうしたの。僕に電話してくるなんて」
『ちょっとアンタに聞きたいことがあるのよ』
「そうなんだ。なに。――カガミモチのこと?」
『アンタいきなりなに言ってんの!? たしかにいま正月だけどそんなこと聞くために電話するわけないでしょ! 無用なボケは挟まなくていいから』
「あ、そう。違うのか」
『違うわよ。――で用件なんだけど。まず次の日曜日って、川沿いのテニスコートにみんな集まるわけ?』
「……さあ、僕に聞かれても……正志に聞いてくれよ」
『あ、たしかにそうね。アンタたち双子だから、時々どっちがどっちかわからなくなっちゃうのよね』
「……左様で」
『せっかくだからちょっと正志に聞いてみてくれない?』
「えー」
『べつにいいでしょ。正月の三が日なわけだし正志も家にいるでしょ? そんなに手間じゃないでしょ? 面倒じゃないでしょ? あたし待ってるから』
「はあ……わかった。じゃあ、ちょっと聞いてくるよ」
彼はスマホを置いて、一度部屋を出た。
彼が再び部屋に入った。スマホを取る。
「もしもし」
『あ、もしもし、どうだった?』
「正志は行くってさ。――でも、そもそも自由参加だし、集合する取り決めもないし、テニスしたい奴だけ来ればいい、ってさ」
『そう。ありがとね』
「いや、別にいいよ。あ、でも雨や雪が降ったら中止すると思うよ」
『ええ、まあそうよね。風邪引いたら堪らないものね』
「ところで僕の電話番号どうやって知ったの? アスカさんには教えていなかったし知らなかったよね。エビヤくんに聞いたの?」
『ん? ええ、まあそんなわけよ』
「そうなんだ」
『はっ、はくしょい!』
「うわ。……大丈夫?」
『ええ、大丈夫よ。あたし、ちょっと外に出ているから寒くてね』
「……そうなんだ」
『ええ。……それから真斗。実はあたし、まだアンタに用事があるのよ』
「ん。なに?」
『……その前に、確認なんだけど。――今そこにいるのアンタだけ? 正志とかご両親とか、その場にいたりする?』
「……いや、僕の部屋だし、僕1人だけど?」
『そ』
「……うん?」
簡素な返事が聞こえた後、言葉は続いてこなかった。
『…………』
すこし重たい呼吸音が微かに聞こえるだけ。
電話越しに、なにか決心したような『よしっ』という声が聞こえた後――
『あの、さ。真斗』
「ん?」
『あ、あたし、アンタのこと、……好きなの』
「……え」
心臓が跳ねる。
『だ、だから、あたしは、アンタのことが好きなわけよ』
「……」
『だから、……あの、その』
「…………あのさぁ……」
『な、なに……』
彼女は覚悟する。
彼が答える。
怒りを込めて。
「あんまりふざけんなよ」
『……えっ?』
ショックを受けた。そんな声。
「さすがにわかってるからな。――皆元さん」
『あ、ご存知でございましたか……。真斗くん』
彼女が即座に認めた。
『本っっっ当に! ホントのホントの本当に! ごめんなさい!』
電話越しに土下座でもせんばかりに謝罪していた。
「うん。さすがに趣味が悪すぎるぞ」
『はい。そのとおりです。――まことに申し訳ございませんでした!』
「うん。そんなことしてると友達を失くすよ? 人間関係に亀裂が走るよ?」
『はい。返す言葉もございません。――心の底からすみませんでした』
彼女の謝罪は続く。
「まったく。なんでアスカさんのモノマネなんてして僕を騙そうとしたの?」
『…………いやあ、あの、その、真斗くんと正志くんには、よくひっかけられておりますので、その、仕返しをしたかった、といいますか……なんというか……』
「……いや、それは、皆元さんが勝手に引っかかっていただけだろ……。まあでも、たしかに、でもそれを言われると……なんとも……」
強くは言えなかった。
電話越しの彼女は聞こえないようにボソボソと小声で『……まあ、本当の理由はべつにあるんだけど……それが意味というか……』呟く。
だが、「ん? なに」と、やはり彼には聞こえない。
『い、いいや、なんでもないです、はい。――ところで真斗くん、なんで私だってわかったの? 私の声マネ似てなかった?』
「いや、声マネはほぼ完璧だったと思うよ」
『え、そうかなそうかな? いやあ照れる。才能だね』
「ああ、才能だね。――詐欺とかに使うなよ?」
『いやいや、だいじょうぶだいじょうぶ。――この特技は、意義があること、そして正義の為にしか、私は利用しないよ。神に誓おう』
「先程、思いっきりイタズラに利用してるけどっ?!」
彼がつっこみした。
『それでそれで真斗くん。どこから私だって気が付いていたの?』
「ああ。まあ、はじめから『おかしいな』とは思ってたんだ」
『ん? そうなの。どのあたりで?』
「まずカガミモチ」
『え、いや、鏡餅って……。いや、いくら正月でもそんなこと聞くために電話しないでしょ』
「そうなんだけど、そうじゃないんだ」
『ん?』
「いま僕らがやってるゲーム『ポーモン』で、期間限定モンスターが出現してるんだよね。――『鏡面反射吸収白色軟体ミラーモッチモチ』」
『え、いまなんて言ったの?』
「鏡面反射吸収白色軟体ミラーモッチモチ――これ、通称カガミモチなんだ」
『ほ、ほー。そ、そーですか』
ついていけずに彼女がちょっと引いた。
「アスカさんも俳人ゲーマーだから、はじめはコイツを討伐やら捕獲やらするためにレイドの申請かと思ったんだけど。なんかカガミモチの意味が通じてないみたいだし。それで、なにかがおかしいとは思ってた」
『なるほど。ゲーム用語が通じなかったと。それは盲点だったね』
「でも『声』はアスカさんだしさ。アレは皆元さんのモノマネが上手すぎた」
『えへへ。でしょーお?』自慢げだ。
「反省しろよ? ――あとそれから、次の日曜日、テニスするのかって話だったけど」
『ああ、うん。もしかして真斗くんと正志くんを間違えたから?』
彼女が思い至る。
『アレは、ちょっとわざとやったところがある。苗倉兄弟とアスカなら、これくらいの距離間かなーって。間違えるかもなぁ、って。でもでも失敗だったか。――アスカ自身が双子だから、そこは間違えないよね』
「……」
『でもでも、さらに深読みするならアスカならば「照れ隠しで間違える」ことは、あるかもしれないとも思うんだけど。ほらほら「あたしはアンタたちのことをメチャメチャ意識しているわけじゃないんだからね」みたいな感じで。あえて間違えるの』
「役への入れ込みがすごいな……。なんだこの役者魂。そこまで考えるか?」
彼がちょっと引く。
「いや、そうじゃない。――僕がおかしいと思ったのは、テニスの話しの後、アスカさん――いや皆元さんだけど――は、エビヤくんから僕の電話番号を聞いたと言っていただろう」
『ああ、うん。そうだね』
「それなら、そのときエビヤくんから日曜日のテニスの件を聞いてくれよ。と、そう思った。エビヤくんこそ、あの川沿いのテニスコートの主要メンバーの1人だろ。わざわざ僕を通して正志に聞くよりも手順が必要ないし」
『あ、たしかにそうだね』
「だから、おかしいと思ったのと、それなら、なにか別の用事があるのかと思ったね」
『なるほど。――で、その後すぐに告白だったもんね』
「…………」
『コレは焦るね。ごめん。その用事こそ「告白」だと思っちゃうよね』
「いいや」
『ん?』
「いや、だから、その告白の件になる前には『コレ皆元さんだろうな』って目星は付いていたから」
『えー。嘘でござろう? そんな要素はござらんぞ』
「なぜ古風な言い回しなんだ? いや、わかってたから」
『じゃあどこで?』
「くしゃみで」
『……』
「あ、これ皆元さんのくしゃみだな、と、気がついた。だから、コレ僕をからかっているのかなって。前にも同じように、くしゃみしてたいから。――特徴的なくしゃみだよね」
『いや、普通そこで気づくヒトいないでしょ!』
なんだか恥ずかしい彼女がつっこみした。
電話越しの彼女が謝罪する。
『とにかくともかく、どうもすいませんでした。私、とてもとても反省しています』
「ああ、うん。わかってくれたらなら、もういいから」
『それで、ね』
「うん?」
『いま私、お詫びの品を持って真斗くんの家まで向かっておりますので――』
「なんで外にいるのか疑問だったけれど、謝罪まで計画の上だったのかよ!」
そもそもこんなことするなよ、と、彼がごもっともなことを申した。
彼女は冬の路上を歩く。
彼の家を目指して。
『そこまでしてまで僕をからかいたかったのか……皆元さん、ヒマなの?』
「いや、そうなんだけどそうじゃなくてね……」
『ん? そうじゃないって?』
「いや、ごめん。もういいよ。真斗くんには伝わったと思うから」
これは彼女からの注意喚起。
彼に極めて起こりえる状況への準備をしてもらうための。
――きっと、今回は気づいてくれたよね?
通話中の彼は紺色のマフラーを巻いた。
「はあ。しかたない。――皆元さん、歩いて僕の家まで来るのは遠いだろ。中間地点で落ち合おう」
『え。いやいや、ダメダメ。いいよいいよ。家にいて。私が行くよ』
「いいよ。今、僕の部屋、散らかっているから誰か入れたくないし、家族にからかわれるのも避けたいしね」
正志とか皆元さんが急に家にやってきたら何を言われることやら、と取り繕う。
彼は家を出た。
『ところでところてん真斗くん』
「ん? なに」
『私のアスカのモノマネは完璧だったんだよね?』
「え、うん。声だけで気づくのは難しかっただろうね。電話越しだし」
『そうだよねだよね。――真斗くんは「おかしい」と思っていたみたいだけど「確信」は持てていないみたいだったし』
だからさ、と彼女は彼を揺さぶってみる。
『あの告白は、アスカ本人からなんじゃないかって、思わなかったの?』
「いいや。ちっとも思わなかったよ」
きっぱりだ。彼は迷わない。
『え。……なんでなんで?』
「いや、なんでって――」
彼は強い確信を持っていた。
「この僕を、あのアスカさんが好きになって告白してくるとか、ありえるわけないだろ? どんな奇跡だよ? どんなラノベ主人公だよ?」
『……』
「告白を聞いて確信したよ。あ、これアスカさんじゃないな、ってね」
『……』
「皆元さん、あまかったね。――想像力が足りないよ」
お前にだけは言われたくないわ!
と、つっこみたかったが、彼女は我慢した。もうすでにほぼアウトだが、それを言うのは完全にアウトだ。ルール違反というか、モラル違反だ。だから我慢した。
……どうやら彼女の意図は、彼にカケラも伝わっていなかった。
お読みいただきありがとうございます!
お疲れさまです。
「クライマックスシーズン」と銘打って盛大に煽っていますが、
まあ基本的に今までの『ツインスタンダード』と同じです。
気楽にお読みいただければ幸いです。
さてでは、最終シーズン。
これからよろしくお願いします。