4.強制転生
勇者たちは決断を迫られていた。
1.この場から逃げる。
魔王が追って来る心配はほぼ無い。
また鍛錬し直し、挑むことは可能。
しかし、レベルを上げたところで勝てる見込みはない。
2.戦いを続行する。
魔王は未だ油断しており、勇者達の技もほとんど知らない。
一瞬の隙を作り出し、更なる連携技を決めれることが予想できる。
だが、それで倒せる可能性はほぼ無い。
3.交渉し、魔物を統治してもらう。
今、世界の現状は、最強の魔王が現れたことで数多くの魔物が躍起になり、人里を襲っていることで荒廃化が進んでいる。
交渉次第では、共存が可能になるかもしれない。
しかしそれは、人類の敗北を認め、魔物の傘下に下ることに他ならない。
さらに、失敗しようものなら、あれだけの強さを誇る魔王である。
人間すべてが滅んでもおかしくはない…
あと残る選択肢は1つ。
できるならばこの選択肢は避けたい。
勇者は仲間達に目をやった。
すると、みんな一斉に頷いた。
「どうした?早く行け。そのままいるなら殺してしまうぞ…」
不機嫌そうにつぶやく魔王。
勇者は目を瞑る…
少しの沈黙の後、魔王へと振り返った。
「魔王よ。僕たちは最後の攻撃に出る。全身全霊を込めた正真正銘、最後の技だ。できればしっかり受け止めて欲しい」
魔王は薄く、笑みをこぼした。
「ほぅ…まだ我に通用する技があると言うのか?おもしろい。すべて受けきってやろうぞ!」
「助かるよ…」
勇者はもう一度仲間達の顔を見る。
唇を噛み締めるロイド。
涙を浮かべるサンドラ。
肩を震わせるアベル。
勇者もまた拳を握りしめ震えていた。
今から彼らは死ぬ…
それが彼らの選んだ4つ目の選択肢。
《強制転生魔法》を使うのだ。
本来、この魔法は生贄を用いて行うもの。
どんな生物でも魔法が当たりさえすれば、強制的に術者と同じ個体へと即座に転生させることができる。
しかし、並の人間であれば100人分は下らない生命力を必要とする魔法。
いくら人智を超えた勇者達であっても、命を落とすことは免れない…
「来世でまた…会えるかな?」
サンドラは涙目で無理矢理笑顔を作る。
「当たり前だろ?俺らは繋がってんだからよ…」
「ええ。そうですよ。きっと会えます。ね?ソラ」
アベルとロイドも笑顔で応える。
「僕達はひとつだ。来世もパーティを組もう!」
ソラの一言でみんな決心したように掌を重ねる。
七色の光の玉がそこから生まれドンドン大きくなっていく…
「おお…さあ来い!すべて跳ね返してくれる!」
「みんな…いくよ」
「「「「強制転生魔法!《リーンカルナ》!」」」」
七色の光は一瞬にして魔王の体全てを包み、やがて魔王の中に消えていった。
「うん?どういうことだ?何も起こらないではないか!貴様らの最後の攻撃とはこの程度かぁ!」
魔王は激高する。
「はぁ…はぁ…失敗したのか?」
勇者達は息切れが激しくなり、楽になる気配もなく徐々に体調が悪化しているようだった。
「期待するだけ損だったようだな…せめてその苦しみから解放してやろう…」
ガクン…!
息も絶え絶えの勇者達へとどめを刺そうと魔王が歩き出すと、魔王の左足が消えた。
「何だ…これは」
「…成功です!やりましたね…ゴホッゴホッ」
血反吐を吐きながらも喜び合う勇者達。
「…我は死ぬのか?」
「…き…君は人間に転生…する…」
「人間に…だと?」
「どうか…良き人になって…ゴホッ…」
勇者以外の仲間は既に生き絶えており、みんな安らかな顔をして眠っていた。
魔王は下半身が完全に消え、胸のあたりまで消滅が進んでいた。
「…ソラと言ったな。貴様に敬意を払う。どういうやり方であれ、我を倒せたのは貴様が初めてだ」
「…ふふっ」
軽く笑った勇者は動かなくなり口から譫言だけが漏れていた。
「アベル…サンドラ…ロイド…エテール…シエロ…」
やがてそれすら聞こえなくなり
勇者達は全滅した。
その頃、魔王の体も完全に消え、精神だけが空中を移動しようとしていた。
「くっくっくっ……計算通りだぁ…魔王と勇者…こいつらがいなければ私が最強なのだ…新魔王ゴルゴン様の誕生だぁ!」
どこからともなく現れたゴルゴンの大きな声が部屋中に響き渡る。
(どういうことだ!ゴルゴン!貴様…)
魔王は声を張り上げた…つもりだった。
もうその叫びは届かなかった。
そして魔王の意思とは関係なく、精神体は居城を離れ、空の彼方へと運ばれていった…




