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3.最強無敵

魔王は勇者たちに向け掌を向けた。


勇者たちは防御の体制を取るが、暖かい光が勇者たちを包む。


みるみる傷が癒え、HP、MPがともに全快した。



「…どういうつもりかな?」


勇者は怪訝な表情を浮かべる。


「ハッキリ言っておこう…我は確実に負けぬ。せめて万全の状態でかかってくるがいい」


「けっ…舐めてられるのも今の内だぜ!後悔しやがれ!《真空波》!」


アベルの放った技は剛風を起こし魔王の胸部へ命中した。

部屋中に砂埃が吹き荒れる。


「…へっ!どうだ!」


一瞬、笑顔を見せたアベルだったが、視界が晴れた途端、表情を失った。


「…4人で来い。1人ずつでは傷をつけることさえ叶わぬと知れ」


無傷の魔王は冷たく言い放った。


「私がサポートに回る!アベルとロイドは前へ!ソラは2人が作る隙に合わせて!」


「「「おう!」」」


「いくよ!《アグレシオ!》」


サンドラの魔杖が光り、他の3人を包む。


「アベル!合わせてください!《シャイニングスラッシュ!》」


「任せろ!《閃光連脚》」


魔王はさっきと同じくノーガードの姿勢で見ていたが、まるで違うスピードに反応が一瞬遅れた。


「…ぐぬ」


結果として胸部に蹴りと斬撃を数回にわたって通され、少し体制を崩した。


「そこだ!《アルカナノヴァ》!」


「ぐ…うおぉああ!」


ソラがアベルとロイドの間から飛び出し、魔王の左肩から右の腰にかけて、最高の技にふさわしい斬撃を振り抜いた。



「…手応えはありだ」


「くくく……」


不穏な声とともに絶望が4人を襲う。


「マジかよ…これ以上ないタイミングだったぞ」


魔王は土煙の中からゆっくり歩いて出てきた。


「素晴らしい…どの魔物より貴様らは素晴らしい。我が油断したとはいえ、この我に傷を負わせるなど、ジャバウォック以来だ!」


魔王の胸にはわずかに傷がついていた。


「…本当に化け物ですね…」


「まさかこれで終わりではあるまいな?もっと我を楽しませてくれ!」


愉悦に浸る魔王とは対照的に勇者たちはすでに心が折れかけていた。


それもそのはずである。

魔王の住まう城には屈強な魔物が数多く住み着いていた。

それを退け、魔王のいる最深部までたどり着いた4人は確かに猛者であった。

しかし、レベルの違いが大きすぎたのだ。


もし、ゴルゴンと戦ったのであれば先程の連携攻撃で十分に殲滅できる威力である。

そして、魔王に放ったものは油断も相まって今までで最高の威力であったはずなのだ。


それなのに…だ。

標的は存命。それどころか少し傷を負っただけで笑みを浮かべている。


「さすがにこれは…想定外だね…」


勇者でさえ戸惑いを隠しきれず、苦笑いするしかなった。


「なあ…サンドラ。あいつのステータス見れないか?MP消費軽減スキルを持ってるお前以外使えないんだわ」


「わ…わかった」


沈黙が流れる。


「え…あ…嘘…」


サンドラは地面にへたり込んだ。


「お…おい!サンドラ!どうしたんだよ」


「ありえない…こんなの…」


「サンドラ落ち着いてください!」


半狂乱になりかけているサンドラをアベルとロイドが諭す。


ソラは魔王と見つめあったまま動かない。

いや、動けないのだ…


「どうしたのだ?…もしや、我のステータスを見たか」


魔王はサンドラの様子を見て悟った。

30年ほど前に名の知れた魔人が勝負を仕掛けて来た時、同じ状況になったことを思い出していた。



「…パラメーターが全部表示できない…数値化できないほどなのよ!どうやっても…勝てない…」



「…ふぅ」


魔王は短くため息を吐くと右手を上にあげ魔力を込めた。

石や砂埃が魔王を中心に渦巻き、徐々に部屋が4人のくる前に戻っていく。


ドスン!


魔王は玉座へ勢いよく腰をかけた。


「もう良い…我の気が変わらんうちに消えよ」


4人は複雑な心境へと引きずりこまれた。

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