14.メティス先生
狼との戦闘から2時間ほど経った頃
「…ねぇイヴさん。そろそろ休憩しようよー」
シエロは息を荒くして訴えていた。
「なんだ、もう疲れたのか?」
「イヴさんが異常なんだよ!」
『確かに、人間の力量では不可能な領域に差しかかりつつあります。小休止が得策でしょう』
「わかった。少し休もう」
近くに川があったため、そこで少し休憩を取ることにした。
「気持ちいいー!イヴさんもおいでよー」
小狼とともにはしゃぐシエロ。
全く休憩の意味がないように感じるが…
「俺は少しやることがある。すぐ戻るから待っていろ」
少し残念そうな顔をされたが、仕方がない。気になる事が多数あるのだ。
俺はシエロ達から少し離れた木の影に腰掛けた。
『メティス』
『はい。イヴ様。何か』
『キャプテラという街にはあとどれくらいだ?』
『距離にして2100kmほどです。1日12時間、時速6kmで歩いたとして29日余りといったところですね』
『…全く進んだ気がしないな。何かいい手段はあるか?』
『…計算しましたところ、所持金が50Gですので、近くの街で馬車を買うのをおすすめします』
『馬車は相当安いのだな』
『いえ、高級品です。イヴ様は前世、硬貨を使用した事がありませんでしたね。少し説明します。この世界の金銭は全て硬貨で、通常はB.S.Gという硬貨が存在しています』
メティスの説明によると
Bが一番安価な硬貨で読み方はブロン
その次がS、読み方はシルブ
最後がG、ガルドという硬貨らしい。
100Bで1S、100Sで1Gとなる。
つまり所持金は500000Bとなる。
街で食事を一度すると1人300Bほどと教えられた。
そして、馬車は全て含めて20G程度であると。
かなりの金額を頂けたものだな。
『基本的に使い道は私が指示しますのでご安心ください。無駄遣いは禁止です』
『心配するな。使い方自体がわからぬからな。近くの街はどれくらいであるのだ?』
『一番近くの街はここから10km南にトーワイズという街があります。栄えている街なのできっと馬車も買えると思います』
『そうか。今日の目的地はそこだな』
『1つ提案ですが。街に着いたらそのまま宿屋をお取りになられてください。シエロも喜ぶと思われます』
『よくわからんが…お前のいうことを聞いておいた方が良さそうだな。あともう1つだけ質問がある。前世では魔法は想像だけで放てたのだが、どうして今世はできぬのだ?人間だからか?』
『そうではありません。無詠唱には膨大な魔力がかかるのです。そのぶん威力を増しますが、イヴ様はまだそこまでの魔力量を持っておりませんので発動しなかったのです』
『そういうものなのか…』
『この世界では、当たり前とされていることですが、少し説明しましょうか?』
『頼む』
メティス先生がわかりやすく説明してくれたことをまとめると
魔法とは、この世界に存在する物質に魔力で干渉するものだということだった。
例えば火の魔法は、魔力によって空気中の水素を手の前に凝縮し振動させ、温度が上昇することによって発火する。
そこに酸素を送り込み、炎として打ち出す。
と言ったことを行っている。
呪文は設計図のようなもので【フィア】という短い言葉の中に原子への全ての命令が詰まっているそうだ。
無詠唱は自身の魔力から水素を大量に生成し自らの魔力により熱をあげ打ち出すもの。
魔力消費がおよそ15倍ほど変わるらしい。
『…なので、よくイメージできていた方が威力も速度も変わります』
『なるほどな。あ、そういえば、光魔法について何か言いたげだったな。』
『はい。とても気になることなのですが、ゆっくり聞けそうにないので後にします』
「.イヴさーん!どこにいますかー?」
なかなか悪いタイミングでシエロが近くに来ていた。
『ありがとうメティス。そろそろ戻るよ』
『お役に立てまして光栄です。ではまた』
「ここだ」
「あ!そんなところにいたんですね!そろそろ暗くなってきたのでどうしようかなと思ってまして」
「ああ、今日はこのまま歩いて南にあるトーワイズという街を目指すぞ」
「え。まだ歩くんですかー?」
「嫌そうな顔をするな。街に着いたらすぐ宿屋を取るつもりだ。」
「ほんとですか!?約束ですよ!」
急にすごくご満悦のシエロ。
小狼も心なしか踊るようにシエロの周りをグルグルと回っていた。
やはりメティス先生には頭が上がらんな…