13.初戦闘
かなり弱った個体が1
大柄で血気盛んな個体が2
中型から小型が6
生まれたばかりだろうか…プルプルと震えながら必死に立っているのが2。
実質8体と言ったところ。
「さあ…来るがいい!」
イヴは両手を広げて狼達の前に立った。
「「「グルオォォオ!!」」」
中型から小型の6体がイヴに飛びかかった。
ドッ!!
そのうち一体に短剣を振り落とす。
「グァ!」
狼は地面に叩きつけられた。
「んん?切れ味が悪いようだな」
『イヴ様。戦闘中失礼いたします。持ち手が逆です。刃の部分でなければ切れません…』
「なるほど…」
イヴは短剣を半回転させ持ち直す。
ザシュ…
先程とは違う飛びかかってきた個体は静かな切断音とともに2つに分かれた。
「…すごい切れ味だ。素晴らしいな。よし次は魔法だ」
イヴは短剣を鞘に納め、掌を狼に向けた。
「…」
風の音だけが谺する。
『……イヴ様。魔法はイメージを強く描き、呪文名を唱えるものです。初級魔法なら大して難しくはございません。グラスルーは炎が適正であるので初級炎魔をおすすめします』
「ゴホン…《フィア》!」
イヴの掌から直径50センチほどの火球が現れ目の前の1体へ直撃した。
「かなり弱い魔法だな」
『人間であることをお忘れなく。人間の中でこれほどの威力を放出できるものは限られております』
「人間とはつくづく矮小なものだな」
『上級や、特級魔法もございます。魔法の扱いに慣れた頃にお教えします。きっと満足いくと思います』
「慣れた頃….か。まあ仕方あるまい。ん?どうしたのだ?所詮、犬っころってことか?」
3体目を倒してから狼達の動きが止まっていた。
ドッ!
「キャイン!!」
鈍い音とともに1体の小柄な狼が宙を舞った。
絶命しかかっていたはずの最初の個体が大型2体を率いて立ちはだかった。
「ふん…貴様がやはり群れの長なのだろう?見てくれだけは及第点というところだが、無駄に仲間の命を奪うなど、三下も甚だしい…我は貴様のような者が嫌いなのだ」
イヴの表情が徐々に険しくなり、魔力の渦がイヴを中心に巻き起こる。
「…グゥウ……」
狼達は後ずさりこそしないものの、そこから動けずにいた。
「ほう…逃げぬか。最低限の誇りは持ち合わせているのだな。いや、力量差がわからぬだけか?」
『イヴ様。これ以上の魔力放出は危険です。護衛対象シエロへの被害確率が上昇します』
「そうか、少し抑えなければな」
一瞬魔力を緩めた隙だった。全ての狼達がイヴへ飛びかかった。
「…そういうところが三下だと言うのだ。…《セロ》」
眩ゆい光の刃が眼前の狼達を全て両断した。
「まあ、肩慣らしにはなったな」
『お疲れ様です。イヴ様。先程の魔法は光魔法ですね。なぜお使えになるのでしょうか…』
「イヴさーーーん!!」
メティスの問いはシエロの大声にかき消された。
シエロが走り寄ってくる。
「イヴさん強いね!あの数相手に一度も傷を負わないなんてすごいよ!」
うさぎのように跳ねながらシエロは話し続ける。
「興奮しすぎだ…」
「でも、戦い中のイヴさん怖いね。なんか…魔王みたい」
「はは……」
『無邪気に本質を見抜きますね。今後は気をつけてくださいね。彼女の前では念話も気を配った方が良いでしょう。何せ、エテール様の娘です。色々悟るかもしれません』
『…善処する』
「あ!グラスルーまだいるけど…」
目線をやると小さな2匹がじゃれ合っていた。
『生後1日といったところですね。まだルーという、狼族最低ランク魔物ですが、明日にはグラスルーになるでしょう。処理しますか?』
「ねぇイヴさん。この子達飼おうよ!」
「は?魔物だぞ?」
「大丈夫だよ!ちゃんとしつければ!」
『そうなのか?メティス』
『はい。テイマーという職種もあるように魔物を使役することは可能です。グラスルー程度であれば簡単に使いこなせるでしょう』
「いいだろう…しっかりしつけろよ」
「うん!2匹いるから…」
シエロは赤ん坊の狼を持ち上げた。
「男の子と女の子か…じゃあ男の子の方はルーシェ!女の子の方はイヴさんがつけて」
「つける?何をだ」
「名前だよ!ちゃんとつけてあげないと」
「名付けか…初めてだな。…ディアナでどうだろう」
「ディアナちゃん…いい名前だね!可愛い!」
2匹はシエロの腕の中で寝息を立て始めた。
「よし。先を急ぐぞ」
「うん!よろしくね!ルーシェ、ディアナ」
イヴ達はまた首都に向けて歩き出した。
『…固有名ルーシェ、【勇者の従者】を獲得。進化系統に変更あり。固有名ディアナ、【魔王の眷属】を獲得。進化系統に変更あり…』




