12.草狼
俺たちはただただ歩き続けていた。
しかし、エテールの家を出てからというもの人はおろか、魔物にさえ出くわさない。
「この辺は魔物が少ないのか?」
「違うよ?どっちかというと多い方かな。でもママがくれたペンダントがあれば、弱い魔物は出てこないよ」
とシエロが首からぶら下げたペンダントを得意げに見せつける。
『イヴ様。鑑定スキルがございますので、使用をお勧めいたします』
メティスの助言通りスキルを行使。
【鑑定結果】
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名称:祓魔の首飾り
ランク:A+
説明:黒魔術を強く込めた水晶で作られる逸品。
少し禍々しさはあるが、不思議と安心感をもたらす。
効果:持ち主より弱い魔物への継続的威圧効果。
素早さ補正(+50)
MP補正(+70)
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なるほど。便利なスキルだ。
『ランクと言うのは何だ?』
『この世界の物質にはランクという各位が設けられております。下はGが最低ランク。上はS+が最高位となっております。しかし、売り物にならないようなガラクタはランク外と表示されます。あと、非常に稀なことですが、L級。つまり伝説級というアイテムもあるようです』
…だそうだ。メティスの解説にはとても助けられる。
一応、エテールにもらった道具も鑑定スキルで見てみることにした。
【鑑定結果】
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名称:黒の羽衣
ランク:B
説明:黒鋼蟻の羽を編み込んで作られた羽衣。
効果:魔法ダメージ微カット。
防御力補正(+35)
名称:死蝙蝠の旅靴
ランク:B
説明:バッドバットという蝙蝠で作られた靴。
見た目と合わず、通気性、耐久性◎。
効果:素早さ補正(+25)
防御力補正(+30)
耐熱性能付与
名称:蛇毒の刃
ランク:B+
説明:ブラックマンダという巨大な毒ヘビの牙を削り作られた短剣。
効果:攻撃力補正(+80)
毒属性付与
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…少し、禍々しさがあるが、割といい装備をくれたものだ。
メティスに確認すると、ランクCを超えるものは貴族などでもあまり手にしないものだそうだ。
そして、その中でもすごいものがあった。
名称:次元の小袋
ランクS
説明:異次元とつながる力を持つ小袋。
見た目は単なる皮袋に酷似しているが、念じたものを取り出すことが可能。
中には時間が流れておらず、収納時のまま保存が可能とされている。
内容量は無限と言われており、謎の多い道具。
持ち主設定:イヴ
…というものだ。
持ち主設定が俺にされているため、
他の者が使用してもただの空の皮袋になってしまうらしい。
さすがは勇者の嫁といったところだな…
「イヴさん!魔物が出てきたよ!」
シエロの声に反応し、鑑定スキルを閉じた。
目の前に大きな狼のような魔物が立っていた。
『メティス。ステータスを教えてくれ』
【ステータスを表示します】
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個体名:グラスヴォル
種族:狼族
L v:24/35
HP:285/285
MP:24/24
攻撃力:153
防御力:89
素早さ:401
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『草狼と言われる魔物です。グラスルーの進化形態ですね。火炎系のスキル、魔法があれば有利に戦えます』
『なるほど。一応シエロのステータスも教えて欲しい』
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名前『シエロ』
個体名:人間
職業:なし
L v:21/30
HP:415/415
MP:178/108+70
攻撃力:124+91
防御力:104+102
素早さ:122+50
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『わかりやすく、装備補正を含めた数値を表示しております。ちなみに人間の15歳女性の中では間違いなく、一番のステータスだと思われます』
『遺伝というものは恐ろしいものだな』
恐らく、祓魔の首飾りはレベルに干渉するものなのだろう。数値だけで見てみると、シエロだけでも勝てそうだ。
「シエロ。一人で戦ってみろ。勝てるはずだ」
「うん!やってみる!」
シエロ鞘から自分の上半身ほどの刀身を持つ長剣を抜いた。
一応鑑定してみるか。
【鑑定結果】
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名称:天剣グラフィス
ランク:A+
説明:天龍ラオグラフィアの牙を削り作り上げられた長剣。見た目は重厚であるが、軽くしなやかな造り。
効果:攻撃力補正(+91)
素早さ補正(+50)
風属性付与
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良い装備だ。しっかり愛されているな。
「やぁ!」
狼の素早さに翻弄されつつもあるが、必死に食らいついている。
狩りに出ていただけあって身のこなしは良い。
戦い慣れもしているようだ。
「《紅炎斬》!」
「ほう…有利属性も使うか」
知っていたのか、はたまた直感なのか。
どちらにせよ、センスは悪くないな。
「ウォオオオオオン!」
あと数撃で倒せるだろうといったところでグラスヴォルが雄叫びをあげた。
たくさんの足音が近づいてきた。
2匹のグラスヴォル。8匹のグラスルーが現れた。
きっと仲間を呼ぶ。といったスキルを使用したのだろう。
「…イヴさん。さすがに無理」
少し涙目になりながらシエロが訴えかける。
「わかった。変わろう」
俺は短剣を手にグラスヴォル達の前へ。
思ってみれば武器を手にしたのも初めてだ。
それに、転生後の初めての戦いになる。
少しの不安と大きな期待を胸に俺は武器を振り上げた。




