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10.窮地の判断

エテールは我に魔杖を向け

いつでも攻撃可能な態勢をとっている。


『メティス!どうすればいいんだ!こういう時は!』


『無駄ですよ。私には筒抜けですから』


イヴに返ってきた声はエテールの声だった。


『イヴ様、申し訳ございません。私の演算ミスです。スキル≪念話≫は人間が習得できる確率は99.99%ありえません。0.01%を排除した私の責任です』


『そんなこと今はどうでもよい!なにか得策は無いのか!?』


『私は念話以外の会話方法を持ちません。何を打算しようと筒抜けではどうしようもございません。タナトスの能力もこの状況では役に立ちません…恐れながら申し上げますが、回避確率は0%です…』


「…エテールよ。我を殺すか?」


「…今は気になることが多々ありますので聞きたいだけですが、返答次第によっては考えます」


凍りついた笑顔のままエテールは話す。


「メティスよ。我は全てを話そうと思う。それで死ぬのなら仕方のないことだ。理解してくれるか?」


『はい。イヴ様の意向のままに』


「エテールよ。一つだけ我から質問してもよいか?」


「ええ。なんでしょうか?」


「ソラという人間を知っておるな?どういう関係だ?」


一瞬、エテールの表情が変わった気がした。


「ソラは私の夫です」


「やはりそうか…心して聞いてくれ。ソラを殺したのは我だ」


『イヴ様!あなたは直接手を下してはいません!その言い方では…』


「メティス!今は黙っていろ!」


頭の中で何かがフッと消えた気がした。


「イヴさん。正直、それは想定内ですわ。あなたから夫の名が出た時、きっとリーンカルナによる転生だと感じていました」


「そうか…きっと恨んでいるのだろう。我は貴様に殺されようが仕方ないと思っている」


「あなた…本当に魔王だったの?邪悪なものを全く感じない…」


「ああ。間違いなく我は魔王イヴァリースであった。全ての生物の中で我に勝てるものなどいなかったからな。勇者の一行を除いてな」


「そう…記憶があるということは、あの人もきっと今の私と同じ気持ちだったのかもしれないわね」


エテールは魔杖を下ろした。


「…我を許すのか?」


「許すも何も…魔王イヴァリースはソラ達が倒しました。あなたは人間イヴでしょ?」


エテールは微笑んだ。

先ほどとは違う暖かな笑顔で。


「すまない。ありがとう」


「あなたは魔王の器でないわ。他人に対する言葉が思いやりで満ちています。私がソラの立場でもあなたに行きて欲しいと願うほどにね」


『エテール様。我が主人を人間と認めていただきありがとうございます。心から敬服いたします』


「いえ。メティスさんでしたね。私は夫たちの意向を大事にしたいだけです。でも、あなたたちはこれからどうするの?」


『それは、私もまだ確認しておりません』


「我は魔王城に向かおうと思っておる。我が消える直前のゴルゴンの言葉…あれが気になって仕方がないのだ」


「ゴルゴン!?新魔王ゴルゴンのことでしょうか?」


「何だと?あいつが魔王になったというのか」


「ええ…5年前、魔王イヴァリースが滅びた後、すぐ魔人ゴルゴンが名乗りを上げ、新魔王として君臨したのです。それからというもの魔物の侵攻が激化し、どんどん魔物の生息地が増えてきているのが今の世界の状況です」


「5年だと!?我が倒されてからそんなにも経っておるのか!?こうしてはおれん…いますぐにでも出向かなければ」


「お待ちください!今日はこのままここにいてください。私の知る限りのことを教えます。それとイヴさんにお願いしたいことがあるのです。とりあえず家の中にお入りください」


エテールはイヴの手を取り、半端(はんば)強引に家の中に引きずり込んだ。



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