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第九十三話・他人の不幸は蜜より甘い

 少し前の話ですが、複数から某科における某の薬はなんに使うのかと聞いてきました。医療系にかかわる人なので簡単に教えたら笑顔でお礼を言われました。そのあとの一言がわりと衝撃。

「うふふ。人生、全部うまくいくとは限らないわよねえ」

 どういうことかと思って聞いてみたら、仲間内の知り合いが人もうらやむ結婚をした。いわゆるタマのコシ。夫となった人は家柄も職業も外見も問題なくしかも大金持ち。男性からの熱愛による結婚で豪華な式をあげた。しかし、数年後、その花嫁さんがその某を服薬しないといけない病気になったというわけです。

 電子カルテといえども職種によって全体像を閲覧して把握できないのでそれで聞いてきたのだと思いますが、当人が病気になったことを明らかにザマミロと思っている。その感情をおいしそうに味わっている……そんな印象です。

 とかく女性同士の妬みはすごいものがあります。結婚は男性女性とも相手によって人生が変わる。絶対に幸せになるだろう条件の良い異性との結婚は「おめでとう」 といっても複雑な感情がわいてくるものでしょう。

 翻って己を鑑みれば、私も善人ではないので、性格が悪いと感じている人が好いご縁があって結婚した、かわいい赤ちゃんと産んだと聞けば心が穏やかではありませんでした。

 あの人は好きなことをして人を傷つけているのに、幸せになるなんて神様はひどい。当時の私は、恋人もなく、ぼっちで黙々と勤務先と家を往復するだけの人生。私だって良い人と結婚したいとか思えばね。結婚自体を人生のゴールのように考えていた時期があったのです。

 結婚がらみの妬みは怖い。そして当人に向かっていうわけではないので、罪の意識も薄い。でも伝わることがあります。出産や子供がらみも同じことがいえます。

 これまた私の経験になりますが、婦人科系腫瘍があるため流産を繰り返したとき、同情して大変親切にしてくださった人がいます。その人も子供ができない人でした。ようやく妊娠を告げた時には連絡がとだえました。私もまた連絡がしにくくそのままです。これもまたいまだにどうしたらよいのかわからぬものです。


 他人の幸福は表面上はともかく、仲間内では妬みあう。他人の不幸に接したときは相手によっては同情して涙を流す。しかし相手によっては心の中でその不幸に拍手喝采ということもあるのです。その快感はいかばかりか。

 何度も書きますが私は善人ではありませんので、憎い相手に不幸が起きたと聞けば「良い話ねえ、やっぱり神様っているのね」 と思います。逆に親しい人に不幸が起きれば涙を流す。こんな調子で結構いい加減です。この差は一体どこからくるのか。


 結局は心理距離の長短でしかない。心理距離は双方から見て同じとは限らぬ。時期や季節、イベントによって違ったりもする曖昧なものです。


 自分のことで一生懸命な人は他人の動向や幸福の度合いなどは関心がないものです。たとえば死を前にした重病人が本当に心にかけている以外のことを気にしない。世間のニュースなどに職業的なもの以外は関心を持たないのと一緒です。大長編の読書を開始したり、大きな布を前に何を作ろうかと刺繍図案を何にしようかと考えないのと一緒です。

 妬みや同情もまた人生の心の余裕から来ており、相手との関係の深さで心の動きがどう波打つか決まるものだと思います。神様はこれもまた罪だとはいうでしょう。ある人はそれが人間らしさというものというでしょう。人間ができている、できてないの尺度にもなるでしょう。誰しも判断できないことも本当にたくさん、日常空間で転がっていると痛感します。




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