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第八十三話・よくも私の顔をつぶしたね □  ( ← つぶしてません)


 母は法律には無知な人間です。のほほんと気楽に生きていた人ですが父の死後に某トラブルに巻き込まれました。相手方が依頼した弁護士の名前入りの内容証明を見て母は震え上がりました。パニックになって、なんと娘の私に言うよりも先に某代議士と親しいと公言するQという女性に電話を入れました。母は訴えられたので助けてほしいといいました。Qは即座に動き、Qの知る限り一番有能な弁護士を紹介するから着手金をくださいと言いまして母は二桁万円を即金で払いました。それから母は私に電話して代理人指定するので弁護士にあってきてといいます。

 内容もろくに読まず裁判だぞといってきたとパニックになっっている。事情もまだよくわかってない私に、しかも遠方に嫁いだ私に今から弁護士に会えというのは非常識です。かつ母はアナログ人間でメールどころかファックスも使いこなせない。私が実家に帰って内容をチェックするしかない。私は休暇を取り、実家に戻ってからゆっくりと問題の内容証明文を読みました。思った通り訴訟するという通告ではなく、単なる要求文です。ちゃんと読みましょう……といいたいところをぐっと我慢し、説明しました。母は胸をなでおろしました。そして私は質問します。

「で、Qにもう頼んでしまったの? 電話一本でQが某のR先生とやらを紹介してきたわけね」

「そうなの、R先生は某で大きな事務所を構えている有名な弁護士らしいの」

「そのRとやらのフルネームや連絡先はわかる?」

「Qが教えてくれた電話番号と名前をメモにしてある、これよ」

 メモは電話番号と弁護士の苗字だけです。今はネット社会なので、それだけでも大丈夫。私はスマホ検索しました。確かに大きな事務所で実在している弁護士だが場所柄すごく高そう。

「着手金はもう払ってしまったの?」

「うん。だって裁判になるので早くお金を払わなきゃ」

 内容証明イコール裁判開始の発想がいけなかったな、母よ……愚痴っても仕方がありません。

「ええとね、今は要求だけよ。だから裁判所からの手紙が来るまでほっておいてもよかったのよ。今からでもキャンセルしましょう」

「いやよ、逃げるのは絶対にイヤ。土地を取られちゃう! お願いだからR先生のところまで行ってよ」

「も~」

 母とは話が通じない。裁判になる、被告になるとおびえている。電話一本でQが良かれと思ってR弁護士を紹介すべく動いたことに感謝しないといけない立場だが複雑な思いです。Qも先に着手金を要求し母に支払わせたとはこれいかに。確かに「も~」 です。でも裁判って母にとって異世界だろうし私でも司法の世界はわかりにくい。母のような人間にとって恐怖でしかないのでしょう。

 先に私に言ってくれたらいいのに。私なら会ってもいない弁護士にいきなり数十万円も払わない。しかもよりによってQに仲介を頼むなんてバカじゃないか。常々有力な政治家の知り合いがいるといばるコバンザメババアになぜ頼る? ここまで書くのはお察しの通り私がQのことを嫌いなんです。己の業績でもないのに、エライ人と知り合いだからと威張る人間は昔から大嫌い。

 でもQ曰く高名なR弁護士に対して着手金を返せというのはさすがの私でも言いづらい。母もキャンセルはイヤだという。発想を変えて、せっかくだからその高名なR先生に会ってみようと思って某に行きました。

 市街地を一目で見下ろせる一等地の高層ビル。その中にテナントとして入っている広大な事務所。静寂に満ちた空間。なんと入り口には私でも名前を知っている世界的に有名な画家の絵や彫刻が置いてあります。すごい……顧客にはセレブの人もたぶん来ているはずです。私のようにリュックで登場する、いかにも庶民というもっさりとした女には縁のない場所です。

 結論からいうと私はR弁護士には会えませんでした。たぶん部下でしょうが、年若い女性弁護士が応対し、まずは事情を教えてくださいという。一応内容証明の原本、登記簿謄本などの書類を持参したうえ、私が亡父から聞いていた事情を話したのですが、文字通り事情を聞くだけ。

 着手金を払ってしまった以上、今後の方向性などを伺ったのですが相手先の出方を見てこれから決めるというだけ。まあ内容証明はそういった性格のものなので、こちらが先だって動くことは確かにない。しかしその女性弁護士の対応も笑顔なく他人事という感じで何よりも途中で電話がかかると退席、メール着信があると私の目の前で返信ぽちぽちする。大きな名のある事務所なのに初対面の客に対してそれをやった。着手金が入った以上受任済みだと思ってるなと私は気分を害しました。そのうえで今後の弁護士に対する報酬を聞くとはっきりとは言わないまでも某円はかかるという。土地がらみの案件は評価額に応じてかかるので高額になる。しまったと私はホゾをかみました。

 単なる調停の付き添いでも日当がすごい。裁判ならともかく調停ごときでそこまでお金はかけられない。それでなくとも我が家には父の介護、施設入所費で金銭が底をついているのに、そのうえ疫病神のZとZの犬がいる。火の車だというのに。それなのにこんな女弁護士に数十万円も先払いするなんて……こんな他人事みたいな態度をとる弁護士なんかヤダ、自分でやった方が早いと思いました。それで私は着手金返却は求めないが着手金分だけアドバイスくれといいました。そんなみみっちいことをいう客は初めてらしく驚かれましたが、お金がない事情を詳細に伝えるとわかりましたとおっしゃっていただけました。

 結局先方とは調停になりまして、その前後に数回いきまして関係を終了しました。貧乏な私でも相手をしてくれる近所の司法書士さんのほうが有益なアドバイスをくださったことを申し添えておきます。三回ほど通いましたがQのいう高名なR先生とは会えずじまい。QがいうほどQのもつ権力が大したことがないってことですよ。もっとも私の家が金持ちでないことも伝えられているはずですが。


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 さて着手金を支払ったものの、依頼はしない旨は礼儀としてQには伝えました。私が電話で伝えたのですが、Qは逆上しました。つまり「R先生にわざわざ依頼したのに、断るなんて失礼だ」 と怒ったのです。以下はその時の会話。ここから、むちゃくちゃイラクサが生えてきますのでご注意ください。


「こんばんは。母がお世話になります。でもQさん。申し訳ないですが、ご紹介いただいた弁護士さんですがご縁がないと思います。あそこ高いですしこれからもお金がかかるのは困りますので……「「「そのぐらい払いなさいよっR先生に頼んだからには裁判に勝つでしょっ」

「いやまだ裁判どころか調停もま……「「「とにかくR先生に謝って改めて依頼しなさいっ」

「あの、R先生ではなく女性の某先生が担当で……「「「なにその某(←呼び捨て)ってのは? そんな女なんかしるものか、私はちゃんとR先生に頼んであげたのよっ」

「それには感謝してま……「「「感謝してるならそのままR先生に依頼しなさいってばっ」

 私の説明をことごとく遮り、Qは電話を途中で切りました。電話の会話を横で聞いていた母はため息をつきました。母はQが怖いのでやっぱりR先生に頼もうかと言いますが私はどっからそんなお金が出るのよっと怒りました。私はQが最初から嫌いです。父母をないがしろにし、冠婚葬祭で顔をあわせても上から目線で命令口調でいうので昔から本当に大嫌いでした。父の葬儀や法事の時でもしゃしゃりでてきて、Qと親交のある業者に無理やり決めた履歴があり、なお大嫌いになりました。私も母も精進落としの料理には父が好きだったお料理屋さんに依頼したかったのにQが別の業者に依頼済みであったり……我が家はQの私物ではない。こういうのは恨みを買います。

 果たして電話を切った数十分後にQが奴隷扱いしているQの義弟嫁に運転させて我が家の玄関に颯爽と登場しました。そして私に向かってわめきました。

「せっかくよかれと思ってR先生を紹介してあげたのに、この恩知らずっ」

「いや、R先生ではなく某先生でしたよ。まずは私の説明を最後まで……「「「知らん知らん、あんたなんかもう知らんっ」

 彼女は私に会って話し合いにきたのではなく、怒りにきたのです。なんの解決にもならず、双方の時間を無駄にしにきたのです。Qは私の話をまたしても最後まで聞かない。そしてQは母に向かってこう言い放ちました。

「ちょっと! あんたっ! 一体どういう育て方をしたらこういうコに育つのよっ私はあんたが困って頼んできたのでヒト肌ぬいでやったのに、よくも私とR先生をないがしろにしたわねっ」

 母も反論しました。

「いや、でも……「「「いやでもくそでもないっあんたのムスメは非常識なコっ迷惑なコっ嫌なコっ」

 五十過ぎた私でもぼろくそです。しかも感情的でヒステリックにわめく。親せきですが私は実妹Zの狂乱状態もよく知っているのでやっぱり血筋なのかなあ、と眺めていました。Qは私のそういうところが昔から気にいらないようです。◎◎家といえばQさんと思われたのでしょう、尊敬されたいのでしょうが、私はすぐに政治家名を出すQが嫌い。亡父に対してもよくも偉そうに命令したなということもある。かつ母はQに逆らえない人。私は母のそういうところが嫌いです。母もその場では黙っていて後でQのことで愚痴ってくる。母もおかしいのですが、Qはもっとおかしい。そしてQは私がそう思っているのも見越しています。いわゆる以心伝心でしょう。

 一通り怒鳴り終えたQが息継ぎをしている間に私は言いました。ところがまたしても以下のとおり。

「Qさんには感謝しています。またR先生ではなく某先生にも家の事情を知ってもらい受任しないことに関しても納得していただ……「「「知らん知らんもうあんたなんかどうなっても私は知らんからねっ本当に私は一切あんたにはかかわらんもう知らんっ」

 Qは髪を振り乱しわめきながら家の玄関を走って去っていきました。一体Qは何をしにきたのだ。落ち着いて会話できる状態ではなく、あれはただ、私に向かってわめきにきただけでした。あの時の狂乱の表情、目が吊り上がった表情をしたQはまさしく異常でした。たぶん実妹Zと同じく親しい人だけには見せる表情でしょう。以上Qに対するイラクサの一部を綴ってみました。これも熟考して楽しいエンタメ作品に昇華できたらいいなと思います。







常識的に考えて弁護士は顧客が委任しなかったからとその紹介者をバカにしますかね? 高名な弁護士が新たな争いの種を巻きますかね? そんなことを夜遅く家にまで来て、責めにきたQのほうが恥ずかしげもないバカをさらしたと思っています。

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