表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/100

第八十二話・祝われない女


 私は同居人から誕生日を祝ってもらったことがありません。おめでとう、も言われたことがありません。プレゼントもなし。一時は愛されてないと思って離婚しようかと悩みました。 

 ネット上では恋愛の悩みサイトなどで「誕生日プレゼント」 が粗末なものだった。お金のかからない食事だった等の愚痴を見かけます。しかし、私に言わせれば「誕生日を覚えてくれているだけマシ」 です。

 誕生日やクリスマスには夫や恋人が張りきって、私を喜ばせようとしてプレゼントをくれる。もしくは、思い出に残る店や場所に連れて行ってくれる……それが理想なのに、という悲しい思いはちょっとあります。

 しかし相手は私をわざと悲しませようという意図がないので怒りにくい。結婚した時、彼の生まれ育った生家を母屋とし、その隣に新築の家を建ててもらいました。母屋には当時とても元気だった義父母が住んでいました。その義父母も誕生日を祝わない人たちだったのです。悪気はありません。一方私は祝うもの、また祝われるものだと思っていました。私の家族や親戚内では、誰かの誕生日には「おめでとう」 と言い合います。だから嫁いでこうなるとは思いもしなかった。

 無理やり思い返してみれば、結婚前に一度だけ、小さな花一輪はくれたことがあった。しかし、結婚後は「釣れた魚扱い」 で、花一輪どころか、言葉かけすらないとあれば、これは私の女性としての魅力が欠落しているのでしょう……。

 しかし、私たちの間に生まれてきた我が子には誕生日には祝われる習慣はつけてあげたいと思いました。義父母の誕生日もささやかに祝うようにしました。おめでとうの言葉とちらし寿司を作るだけですが、喜んでいただけました。しかし私の誕生日は誰も何も言ってくれない。遠方にいる実家の両親は(元気なころは)毎年、おめでとうと電話をかけてきてくれるというのに……誕生日に興味がないということは、他の記念日や行事にも興味がありません。それでも、実家が送ってくれた節句のものは、飾ってくれます。義父母は楽しそうに記念写真も撮ってくれました。

 しかし同居人は例えば七五三は晴れ着を着せた子供が嬉しそうに見せにきたのに、どうせ覚えてやしないのにやるだけ無駄だ。忙しいのに、とほざきました。子供にとって重要な行事をそんなふうにいうなんて……しかし子供をかわいがってくれるのは確か。何よりも真面目に働いていてその一部を家計に入れてくれるから私は我慢しました。

 私の努力? が実り、私の子どもは誕生日にはおめでとうと言われて育っています。友だち同士でも小さな贈り物をしあっています。それでよかったと思います。しかし事件が起きました。


 同居人には弟が一人いて、都会に出ていましたが、母屋に戻ってUターン就職をすることになりました。私は義弟の誕生日を間違えて覚えていました。誕生日だと思っていたその日、小さなケーキと小物をプレゼントしました。すると同居人はこう言いました、

「弟の誕生日を間違えて覚えるなんて。失礼じゃないか。某日にはちゃんとやり直ししてやれよ」

 私はそれを聞くなり、持っていた包みを同居人の顔めがけて投げました。義弟と義父母は驚いて固まっていました。行儀が悪かったですが後悔していません。私の誕生日に何もしないくせに、義弟の誕生日を間違えて覚えていたら人前で私を叱るのですか? 

 私はその年から同居人の誕生日は普通の日にして何もお祝いしないことにしました。私なりの仕返しのつもりです。しかしその手の仕返しは何の効果もありません。彼は誕生日には本当に関心がないので平気なのです。

 そして私はなんでも物事を良い方に考えようとします。人間には、完璧さを求めないことです。誕生日を祝ってくれないのは欠点の一つですが、悩む時間があれば別の新しい事、夢中になれることを見つけたい。

 現在私の誕生日はパートの給料の一部をだして一泊二日の一人旅をします。介護や家族の入院で行けないときは時間を割いて本屋さんや図書館で過ごしそのあと一人で外食します。

 誕生日に何もしてもらえないからと破局、離婚する人もアリだと思います。私は離婚よりも、自分で自分の誕生日を祝えたらいいだけの話だと決めました。己にはそれだけの人徳が備わってないということだと割りきっています。だから私にはこの手の悩み事はありません。それと誕生日には産んでくれた母親に感謝をささげるようにしています。誕生日は親にとっては忘れえぬ出産記念日でもあるからです。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ