第八十話・権威をひけらかす某大学助教授 VS 在野で学歴ないけど人間的に尊敬できる無名の研究者
まず今回の話の登場人物説明から行きますです。
某研究分野をNとします。マイナーとはいえ、そのN分野内でも研究者はいて学会は当然ありました。フィールドワークをきちんとしないと研究がすすまない分野です。つまり己の手と足を動かさないといけない分野。動植物採取家、戦場カメラマンのようなもので、お部屋の中だけでは研究ができないと思ってください。ここまでが前置きです。
ある熱心な研究者をOさんとします。研究者といっても専業ではない。通常の仕事を終えた後自費でこつこつと研究する、いわば在野の人。バッグには何もありません。研究費をくれる国や公的機関、協賛者もいません。本当に好きでやっている。Oさんには数人の協力者たちがいます。その人たちと同好会のようなものを作り研究発表をしていました。私はOさんとは面識があり、研究者とはこうあるべしというその穏やかな情熱に尊敬しています。
Oさんの話とその協力者の話を聞いていたら、若い時から一貫してフィールドワーク重視で発表は二の次で、という人です。本当にN分野が好きなればこそ。Oさんの熱情あればこそ。もともとN分野は本格的にがんばっても金銭的には報われないマイナーなジャンルです。そこへ目をつけたPが登場します。Oさんは数年に一度、自費出版という形で研究成果を残されていました。そのOさんにPが連絡してきた。OさんとPには面識はありません。連絡というのは、事前に前触れもないN分野における実態調査という形でした。それは郵送でなされ、アンケート形式のファイルが同封されています。某大学の調査に協力を仰ぎたいという儀礼的なあいさつ文はありますものの、本当に儀礼的なもので答えるのは義務なような形式です。
今までの採取した数、内容の分類、全部数字で表示するようになっています。なぜこれがわかったのかというと、OさんのみならずOさん周辺の在野の研究者全員にいきわたったから。マイナーなN分野でも一応同好会があり、Pはそこに入会してOさんを中心とする会員名簿を入手したのです。
私はその実物を見ました。PのアンケートはN分野において詳細かつ多岐にわたり、研究調査で関係省に報告するためとありました。関係省の通達ではなく、大学の名前を前面に持ち出しPはそのN分野研究者の代表としてまとめるというもの。
私はN分野に関してはまったくの部外者ですが、某会員からの「コレどう思いますか」 で当然ながら
「数十年にわたって研究してきて判明した事柄を全部総取りしようとしている」
と返事しました。聞いてきた人は肩を落としました。
「やっぱり、そう思いますか……」
思うよ!
なんだ、この書き方は!
Pの調査に何を好き好んで今までの成果を全部預けなきゃならんのだっ!
部外者の私がむかつくぐらい、大学の名前を前面に出した調査内容ですよ!
大学の名称と地位をハナにかけたPの返答するのが当然とする態度……。ど、どうしてPはこんなことができるのだろう。N分野の研究者を名乗るのなら、Nが好きなはずです。そしてOさんの名前を知らないはずがない。Oさんの著書も読んでいるはずです。あとがきにも研究のための採取の苦労話などもある。それなのに研究成果を全部箇条書きにして知らせろとは尋常ではない思考です。
PはOさんをはじめとして在野のその同好会全員に文章を送付したらしいです。結論、同好会は誰一人返答なし。同好会では全員一致で即座にPは除名。Pの反応はなかったそうですが、面目を失ったのならそれはそれでよい。現在Pは、そのN分野では伝説のアホとなっています。大学の研究室の中にいるだけでは研究にはならないのでよけいに軽蔑を受ける。私はこういうアホでも助教授と名乗れるのに驚きました。今回の話はそれだけです。




