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第八話・二人きりでコクられるのは好意か悪意のどちらか

 思い出話継続です。高校時代の話。いつも一人で図書館にいたり、時には音楽室でピアノを弾く……かなりヘンな女子高校生だったと思います。

 ある時、クラスメートから「トイレの時まで一人で恥ずかしくないのか」 と聞かれました。当時は仲の良い友達と連れ立ってトイレに行くのが当たり前でした。私は一緒に行くほど親しい人がいないし、本を読んでいる方が気楽でした。それで小学校からボッチだったので「一人が恥ずかしいとは思わない」 人間でした。

 その子は、私の存在自体不思議だったようです。

「一人でも平気だなんて男らしい」 と褒められました。私は一応女ですが、彼女なりの褒め言葉で「男らしい」 と言ったわけです。彼女とはそれがきっかけで時々会話してデッサンの宿題を一緒にしたという思い出があります。

 そんなマイペースだった高校生の時に、担任が廊下の通りすがりに私のピアノを聞きました。それがきっかけで、楽譜を渡されました。私はそれを練習し、校内のイベントで合唱の伴奏をすることになりました。

 皆、私がピアノを弾けるのを知らなくて驚いていましたが、無事終わりました。その先生は「よく弾けました。助かりました」 とねぎらわれました。

 さてここからが本題です。

 私は廊下であるEという人から呼びかけられました。しゃべったこともない人です。髪が長く額広く大人びて見える人で、同じ年ながらきれいなコだなと思っていました。私はEに誰もいないすみに連れて行かれました。そしてEは顔を歪めて私の伴奏の悪かったところを延々と指摘するのです。

「まず音の取りからしてダメ。特に三小節目のクレッシェンドが聞いてない。私は耳が良いのでとても歌いにくかった。先生の褒め言葉はお世辞だから本気にしないように」

 ま、そういうことです。

 聞いているうちに私は「Eは、皆がバカにしている私がピアノを弾けたことに怒っている。先生から私ごときの人間が褒められたことが気に食わないんだ」 とわかってきました。私は白けた気持ちで、よく動くEの口元を眺めていました。

「わかった? 次に頼まれても断るように」

 Eは言うだけ言うとすっきりしたのが、にこにこ笑いながら去って行きました。優しく女性らしいと思っていたEが、今まで表だって私をいじめてきたカスとそんなに変わらぬ人間であったことに驚いていました。

 そして私はやっぱり駄目だと落ち込む以前に、逆に「私のいるこの世界は間違っている」 と思いました。だけど私には力がない。コンプレックスもあるし、このクソな世界にいないといけないとも。

 読者の皆さんはこのシーンをどう思われるか知りませんし、「お前がいじめられるわけがわかるヨ」 とも思われるかもしれませんけど……。


 その先生は音楽の先生にも私を推薦してくださったらしく、「どのくらい弾けるのか、年末のイベントの音楽会に弾く気があるか」 と聞かれました。ピアノぐらい誰でも弾けるとは思いますが外部の偉い人も招待しての音楽会は大事です。とたんにEさんの顔がちらついて断りました。私がピアノを弾くとEさん以外からも嫌がらせをしてくるだろうなという推測が働いたのです。

 それにしても当時のEは、まだ十五、六才です。まだ十代の少女なのに、そういうことをする。そして表だって言いにくいことは人目につかないところでいうのです。人目につかないで、は私の体面への思いやりではなく、多少のヒケメがあったからと見ています。

 つまりこの忠告という言いがかりを私が先生にチクったら怒られるだろうという計算があったと。後日事実確認をされても、Eはウソです、といえますからね。聞き間違いでしょうとも。証拠がなければ言い訳はなんとでもいえる。

 Eの言葉は忠告ではなんでもなかった。終わってしまったことの欠点をあげつらい、次回は断るようにとの助言をいいたかったのです。仮に欠点だらけとしても、断るようにと言われる筋合いはこのEからは一ミリだってありません。ピアノが弾けることがそんなに怒ることだろうかと今でも思います。Eはピアノ伴奏を、その先生から選ばれたかったのだと思いました。

 このEも現在はどうしているかはわかりません。でも早くに結婚して出産も経験しているならば、そして子供が男子であれば嫁を迎える年代です。体面的には良い人を演じていても、狭い家庭内で嫌味を延々と言う姑だろうかと思います。

 Eは私に対しては「言ってやった」 と、ご満足だろうが、さて今の私は当時の私ではない。証拠がなくとも私ははっきりと覚えている。

 でも過去は戻らない。巻き戻すことはできない。だからここに書いておく。


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 態度替える人間はどこの職場でもいました。ある日に態度が変わる。やられた方はめんくらいます。思い当たりがある時とない時、そのどちらにも私はそういう人に対してのセンサーを持っている。わかったら、上手に避けます。

 次の話。

 結婚後にパートで入った病院でパワハラに会った時、納得いかない私は人事課に仲裁を頼んだことがあります。相手がワンマン局長だったので人事課に言うしかない。Fとします。するとそのFは局の内部の話をばらしたな、恥をかいたと怒ってきました。しかし院内で起きた話であるから、人事の配置などは人事の仕事になるだろうと私は冷静に反論しました。

 すると局長は二人で話し合いたいと小部屋のすみに私を連れて行こうとしました。私は上記で書いた特殊センサーが働きました。

「ああ、これはEタイプのセンサー、パワーオンしてる」 と感じて応じませんでした。


 誰もいないところで話があるというのは、他人には聞かれたくない話です。好意悪意関係なく百パーセントそうです。私は「他の局員がいる今、ここで、はっきり言ったらどうですか」 と言いました。

 ついで私は「仕事ぶりに不満があれば上司として解決すべきなのに、Fの権限ですべての仕事を奪うのはパワハラもいいところです。今までの局員もそうしてきた経緯もあるらしいですし、それで改めて人事に訴えました」 と他の局員の前でいうと真っ青になっていました。

 

 Fも仕事熱心ながら普段から愚痴や不満が多い人だったのですが、私は最初会って挨拶した時から敵をいつでも作っておきたい人だとすぐにわかりました。最初の面接でこの田舎の病院がいかに遅れているか、特に前局長の仕事ぶりがひどく、改善を申し出ても聞く耳を持たず苦労した話をしたからです。私はすでに病院の異動を何度も経験し、いろいろなタイプの人にあっています。頭脳明晰で笑顔のきれいな人だが怒らせるとやっかいなタイプだなと思いました。入職しましたがパートでもありますし一歩ひいた状態で差し出がましいことは一切言いませんでした。それでもなおトラブルを引き寄せてしまいました。

 急に態度が変わり、理由なく病棟の職務を一切奪うパワハラをしたのは、ささいなきっかけでした。(これしか思い当たらぬ) ⇒⇒ そのFはある休暇を利用して海外に行っていました。留守中、Fと親しいと思っていた看護師から「Fは今頃どこにいるのかな」 というので「ああ、今回は△島だけでしょう?」 というと「えっ、国内の◎◎だと思ってた!」 と驚かれました。どうも内緒で行ったらしいです……よくある話で勘違いしていた私が悪かったのです。その看護師さんとどのぐらい親しいか知らなかった私は迂闊でした。口止めがあれば私も絶対言わなかったです。

 と、帰国後出勤して、数日後。Fの態度が急変しました。私があいさつをしても、にこりとせず、そっぽを向きます。また病棟へ出向く準備をしていたらいきなり、「病棟へは二度と行かないで」 と言われました。今日から常勤だけ病棟へ行くことにしたと。

 それはいいですが、「局内でもパートにやらせる仕事がない」、というのです。パートは私一人なので、私の仕事はないということです。副局長や他の常勤がびっくりして「それは困る」 と言いましたがFは「私が局長で私の権限で決めたから口出しするな」 といいました。

 今まで和気あいあいと会議で決めてきたことも、私が関わった仕事は元の状態に戻している。そこまでするか……?

 私はFに「海外に行ったことを、某さんに教えてしまったのでそれで怒っているのか」 と聞きましたがだんまりでした。しかし明朗だと思っていたFが、私情を交えた嫌がらせをするとは思いませんでした。

 Fが私を嫌ったという話は狭い田舎の院内ではニュースになったらしく、Fから嫌われていた人からいろいろなFに対する評価が不思議に集まってきました。人事の人からは彼女は都会にしかない私立チェーン病院に勤務していたことが自慢で「だから田舎の病院はダメなのよ」 が口癖であったと聞きました。人事は私が都会の公立病院を経験していたので、Fとは仲良くやれると思ったが、と言われましたが、副局長の意見は違いました。Fは大きな病院にいたというのが自慢で(二百床ぐらいだが)プライドが高くすぐにここの病院を後進国呼ばわりするので、いばることができない私がきて窮屈に感じたのでしょう、と言いました。海外旅行の話はきっかけにすぎないというのです。

 医療事務員から聞くと、今までいた局員、特に前の局長とはケンカばかりしていた人だったです。前の局長がFから見て能無しとはFからも聞いていました。 Fは以前の局長が辞めて昔からいた副局長をさし置いて、都会の病院を経験していたからという理由で局長に就任した経緯があります。副局長はFより年上の男性でしたがすごく温厚な人です。Fは副局長のことも能無しと言っていましたが、ちゃんと勉強している人です。

 Fは私の経歴には何も言わなかったのですが、他の局員には少しのミスでも「勉強不足」 という。逆にF自身がミスをすると黙ってミスを隠す。局内会議の連絡事項はまさにFの劇場でした。ワンマンを地でいっていて、Fが嫌いな四十代の男性局員にはそれでよく免許が取れたなと怒鳴るぐらいでした。

 私はささいな理由で局長の権限で仕事を奪ったFの仕打ちに怒りました。即刻退職を決め、その上で会議での異様なぐらいのFのやり口を人事に暴露しました。人事が古来からいる副局長に事情聴取をしたらしく副薬局長は頭を抱えていました。

 私はFとは縄張りを犯さず、パートに徹すればうまくいくと思っていましたが、まさかの「△島」 の一言で病棟業務をはずされ、局内でも仕事がない ⇒ 暗に辞めろ となるとは思わなかった。

 

 Fは、いつでも不満を感じる相手と環境を選びたいと思っている人間でしょう。頭が切れてそうとう腕がたつ人間でもそういうところがある。医師同志でも似たような話を聞いたことがあります。F自身は部下に恵まれないと思っているでしょうけど、私はFが引き寄せてくると思っています。Fのように人を育てることよりも、「部下がアホでも、一人でも頑張る私、エライ」 と思っていたい人間もいるので注意するしかない。えてしてこういう人間は社会的評価が高く、名前をあげていく。先述のEもまた先生から優等生と見られていました。人間社会の皮肉なところだと思っています。

 優しく穏やかな人間は、きちんと仕事をしていても目立ちません。なんというかトールキンが書く、平和を愛するホビット族になるのかな? 競争社会の落ちこぼれとみなされてもそれなりに幸せな人生を過ごせるほうが、私は人間としての価値があると思っています。


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 上司の性格で職場の雰囲気が決定します。これは就職試験などではわかりません。私は小説を書くのが好きだったので、そういうのも絶滅できたらいいなあ、と思って架空の「既知時計」という道具を作りました。いろいろな性能があるのですが、その中の一つに性格の悪さを計測するパーツがあります。(公募に出しました)本当に既知時計があるとどんなに世界が変わるだろうと思っています。それをどう生かすかはもし実際にあれば……使い方は人によりけりでしょう。私はFに対しては、仕事自体は熱心であったが、私情をはさんで暗にやめろといわんばかりの仕打ちは、いつの日か逆にそうされるだろうと思うだけです。



◎◎ まとめ ⇒ 目立つことで憎まれることはある。それと常時、他人に対して敵を作っていつでも(無意識で)常時怒っていたい人はいる。 ◎◎◎


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