第六十七話・メンヘラさん
その知人の名をDとします。割と気の強いキャリアある女性なのですが、現在、Dの恐れているお相手は中高一貫の学院時代の同窓生、名前をEとします。二人とも女性です。DとEは友人ですが、社会人となってから疎遠になりました。しかし縁があったのか、ある同窓会で双方同時期にバツイチになったことがわかり、なんとなく二人だけで一緒に食事をするようになったそうです。
Eは、学生の頃とは違い暗い感じにはなっていてネガティブな話ばかりする。距離をおこうかと思っていたDの誕生日にハイブランドのバッグをくれたそうです。Eの実家は裕福なことは知っているが、それにしても高価すぎるプレゼントです。驚いて断るDに対して、Eは今までの友情を無にするつもりかと怒り出しました。それであわててもらったそうです。次に来るべきEへの誕生日プレゼントは何にしようかと、考えつつ。
ところが突然、Eとの連絡が取れなくなってしまいました。心配になったDは、Eの実家に電話をしました。同窓生だと告げるとEの母親は「一度家に遊びに来てくださいましたね」 と喜ばれました。確かに学生の頃に、ご自宅に伺ったことはある。Eの母親はDに精神科に入院したことを教えてくれたのです。
「今は状態が悪く、見舞いもできませんが、ずっと、あの子の友人になってやってください。もう誰も相手にされなくなっちゃって、どうか仲良くしてあげてください」 とのお願いつき。
DはEとの会話やふるまいを思い出し、病気のせいだったのかと例の高価すぎるバッグをもらった話をします。これも、病気からきたのかもしれないと思ったのです。Eの母親は普通に、「よいのですよ、Dちゃんの大事なご友人ですから、どうぞ使ってやってくださいませ」 という。
Dは例のバッグを使いませんでした。高価過ぎて勤務先に持っていけないことと、Eの母親は使ってくださいとおっしゃったが、病んでいたからこそ分不相応な金額のものを安易にくれたのではないかと思ったのです。それから数年後、正確には十数年後になります。Dは再婚しました。そしてEから突然メールで連絡がきました。Dはよかった、退院したのかな、と思いつつメールを開いてみますと……
「例のバッグは大事に使っていますか? 証拠を見せてください。使っているそのかばんを持っているDの画像と、カバンの中身を撮影した画像を送ってください」
……あれから十数年後もかかっているのに、つい昨日あげたように、しかもちゃんと使っているか確認したいとの証拠画像要請メール……Dは怖くなって、返信しなかったそうです。例のバッグには罪はなく、かわいそうですが、新品のままDの実家に置きっぱなしです。Eからのメールは繰り返しきて、だんだんと病んだメールになってきました。私なぞどうせ死んだらいいとでも思っているのでしょう、うらんでやる、仕返しをしてやる……など……。
どうしたらいい? とDから相談がきまして、私はこう返事しました。
「今のところ、そのままにするしかない、画像も送信しない方がよい。エスカレートする可能性があるから」
メンヘラさんが満足するような対応はどのような人でも難しいです。Dはバッグを返したいといいますが、この場合はやめた方がいいとも意見しました。メールも怖いならやめて、と本人に直接怒るより、黙って着信拒否するようにいいました。Eが退院して家に来たらどうしよう、実家には新居の番号や住所は教えるなとクギをさしておいたけど、といっています。が、来たら来たで、穏やかに話をすればよい。しかしできれば、第三者を交えて過ごすようにといいました。DとEには、金銭や暴力的な問題はなさそうですが、もしそれが予見される場合は画像か音声を撮っておくことを勧めました。
これも解決はしない問題です。DはEに慕われているというか軽度の執着があります。私はこういった相談も受けるので書いてみました。メンヘラさんだって普通の人間です。人との距離の取り方がおかしいだけ。人間関係のトラブルを意図していないのに、起こしてしまう人だと割り切ってつきあうしかありません。私もそんなところがあるので、メンヘラさんの気持ちも、また非メンヘラさんの気持ちも両方ともなんとなくわかる……。私の場合は他人様を怖がらせたり迷惑はかけてはいないとは思いますが……。