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第六十五話・口は災いの元


 まだSNSがなかった時代の話。そして、そこそこ名が知られたところに勤務していた時の話です。Aという人がパート勤務を希望して履歴書を送ってきました。局長から呼ばれ、Aの名前をあげて、履歴書によると私と同期になるが、どういう人か覚えているかと問われました。私は交友関係が狭かったので、名前しか知りませんと返答しました。

(著者注:このエッセイもA~Zまでアルファベットを使い切ってしまったのでまた戻ってみます。前のA,B,C……とはもちろん別人です)

 人手不足だったこともあり、Aはすぐに採用されました。そこそこ仕事はできる人でした。しかし、慣れてくるとわざと人のおかしいところを指摘して笑いをとる人だと判明しました。私とは同窓ということで最初からなれなれしかったのですが、私自身はしゃべりながら仕事をする器用な人ではありません。また根拠のないうわさ話は苦手です。Aは、話があわないとみてとったのか、すぐに近寄らないようになりました。

 Aが私と同じところに勤務したという情報がどういうわけか広がり、卒業後疎遠になっていたが知人から電話がありました。Aに対してすごく怒っていました。この知人をBとします。

「そっちにAがいるよね? あの子とは在学中に一度もしゃべったこともないのよ。それなのにAは、私の勤務先の人に対して、学生の頃の私のことを、男にだらしなく、恋人をとっかえひっかえしていたといったのよ」

 Bは大変に怒っていてAの電話番号を教えろといいます。もちろん、その時点で私は電話番号は教えず、Aに直接聞いてみました。

 私が仲介するようなことではないのですが、Bは見た目は派手だが、本当は地味な性格であるのは私が知っているからです。Aは悪びれなく答えました。

「Bさんについては、確かに◎◎さんたちに言いましたが、◎◎さんたちがBさんって大学時代はどうだったかと聞いてきたからうわさを教えただけです」

「うわさ……」

 私はBが怒るのは無理もないと思いました。私はAに電話番号を教えてもよいかと了解を取りました。後日律儀なBが教えてくれたのは、以下のとおり。

「聞いて。Aはあやまらなかった。うわさを伝えたぐらいで怒ることはない。もてていたという証明になるからいいのではないかという。Aは、私が怒っている理由がわかってもらえなくて逆に怖くなった。怒るならうわさを広めた◎◎さんたちに怒りなさいよ。またあなたが美人で目立っていたのは事実だからそれはそれでいいじゃないのっていうのよ。私の怒りがまったく通じなかった」

 これは悪人の言い分ですね。私の職場では、言いつけられた仕事はきちんとするので周囲には言わず黙っていました。ところが次に私がやられました。あるとき、同窓生の親御さんの葬式帰りに「Aと一緒に働いているんだって?」 と声をかけられました。その中にCという某社勤務の人がいました。この人は研究職です。Cと数人とは、駅までの徒歩で一緒に歩いたのですが、談笑がてらCはこう言いました。

「Aはあなたを悪く言っていましたよ。たとえば、ポテトチップスを両手で食べるってね? そのほかに病院内のことをいろいろ……」

 私はびっくりしました。周囲は爆笑。

「私がポテトチップスを両手で食べるって?」

 Cは言いにくそうです。私はAがBの根も葉もないうわさを広めたことを教えました。すると、そういうことならば、と、Cは教えてくれました。

 私は次の日にAになぜ院内のこと、私のプライベートなことやポテトチップスの件をおもしろおかしく言うのかと聞きました。私はポテトチップスは好きですが、毎日ポテトチップスばかり、それも両手で食べたりはしないです。Aの言い分は以下の通り。

「私は本当のことしか言わないわ。ポテトチップスを両手で食べたことあるじゃないの。私はそれがかわいいと思って教えてあげただけ」

「しかし、私が毎日両手でポテトチップスを食べる人間だと思わせているのよ? ものには言い方があるはずよ?」

 世間話として、新しい職場の様子を聞いてきたCに対してなぜ余計なことや院内のプライベートなことをおもしろおかしく伝える必要があるのか。やはりAは謝りませんでした。だいぶ舐められていたと思います。

 私は怒りがおさまらず、Cに愚痴るとCが、某社系列の別の友人から聞き取りをし、Aが製薬会社をやめた理由を教えてくれました。その人はAの元同僚です。Cは顔が広いのでこういった人脈はあります。Cは、ゼミでのAの行動を知っており、かつAが私やBにしたことを聞いてある確信をもったのです。

 実はAには、学生の頃から誇張や大げさな主張、大風呂敷を敷く習癖がありました。その調子で社会人となってお、改めもしなかったのでしょう。就職先で人事再編と称して、Aはあっさりと左遷になったそうです。それで私の勤務先に非常勤として転職してきたのです。

 詳細は会社に対する被雇用者としての守秘義務があるのでその同僚さんも口を割らないが、まさに口は災いの元。社内方針や同僚の悪口を楽しむのは社内において害虫でしかありません。

 私はAに直接会社をやめた理由を聞いてみました。すると、Aは暗い表情になりました。Cから聞いた話とは別の話をしました。

「私は会社の上司に嫌われていた。そして改めて配属された総務課にも意地悪をされた。一緒に入った同期は研究職のままなのに、ひどい会社でしょ? 国家資格があるのに、それを活かせずボールペンを数えて配布する仕事なんて馬鹿らしくてやってられないでしょ?」

 

 今にして思えば、Aもまた一緒のサイコパスですね。我が子に対していじめをした例の主犯と同じ人種だと思います。彼らは一見正常に見えるので、そうやって世の中を渡っていくのです。司法上の犯罪では確かにないですが、悪意なく人の心を傷つける人です。私のいた職場はわりと規律が厳しく、あることで上司に睨まれるようになりAは転職しました。多分転職先でも私のことはじめ、院内外の話を現実とウソを混ぜておもしろおかしく話していただろうと思います。

 私はこのAのこと、今頃何をしているかも興味がないです。





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