第六十二話 子供へのいじめの対応・親と学校の認識のずれを考える
親編のその2は? と言われそうですが時系列通りにいきたいので学校の対応について考察します。あくまでも私が経験したケースを踏まえています。繰り返しになりますが、私自身が経験したいじめは教師がクソでしたが、わが子に関しては真摯に対応していただきその点は感謝しています。
しばらく学校へは登校しない旨を担任に告げた時、教科書や荷物を取りに来てくださいと言われました。どんなことがあっても日常生活は続きます。担任がそうおっしゃるのは当然です。不登校ということは、自宅学習になりますからね。私は急きょ仕事を休んで学校へ行きました。先生とは対面で話をするつもりでしたので、早めに行きました。まだ誰も登校していない時間帯です。
子供の教科書を持ち、案内してくれた担任に主犯の机はどれかと聞きました。担任は戸惑ったようですが、生徒たちが登校し始めても、机の場所を教えてくれなかったら……私は主犯の登校を待って主犯に直接問い詰めるつもりでした。
幸い? 教えてもらえました。主犯の机は教室の窓際にあり、一番後ろにありました。教室内の様子が見渡せる位置です。私はその主犯の机を開けて置いたままの教科書やノートをぱらぱらとめくりました。担任は黙って立って私の行動を見守るだけです。入り口の方を気にしていたので今にも誰かが登校してこないかと心配していたのでしょう。私は納得するまで主犯の机を見ました。もちろん、損壊はしないし、原状回復というか元に戻しました。
この時の机内部の整頓の様子、ノートの書き方で主犯のことについて得ること、考えることはたくさんありました。このあたりの行動もまた物議をかもすかもしれませんが、私は後悔していません。するとすれば画像に保存すべきだったかと思うぐらいかな。もちろんそれをしたとしても、公開はしませんが……。
私たちは親として我が子を追い詰めた主犯とその親への今後の対応を決めました。その夜自宅に担任と生活指導と教頭の三名の教師が訪問してきました。
まず私の主張です。傷については病院にまかせるしかないが、いじめと関連づけられた事柄は診断書作成による後々の証拠にする。相手次第では弁護士に依頼して大事にしますと言いました。また報道によくある、いじめの隠ぺいを心配していたので教育委員会にも必ず報告するよう圧力もかけました。
この時に当事者の親が感情的になるとまず相手にされません。事務的と思える態度で言えてよかったです。医療従事者として患者さんの人生の修羅場の一部を垣間見ている経験がモノをいったと思っています。
朝の主犯の机チェック行為とその夜の私たち夫婦の強硬な態度は担任たちもこの問題をきちんとしないと何をするかわからぬ親だと感じたと思います。終始低姿勢でした。教頭からも今後の対応をできるだけ早く協議するとの言葉をもらいました。
で、教師の取った行動がまたイラクサでしたので思い出しながら書いてみます。
立場が違うと行動も違うというお手本のようなことがありました。被害者である我が子は主犯一人を名指して「あいつが最初から悪い」 と断言しておりました。最初からそれを伝えているのに、なんでまた、という行動をとる。
教師たちが一番最初にしたことは、全校生徒を集めて「いじめを考えよう」 という緊急集会の開催です。そして各クラスでアンケート。親には結果は見せてもらえません。
主犯とその取り巻きの全員から聞き取りをしていじめを認めたら反省文を書かせるといいましたが、その時点で一週間たったのに、まだ主犯には接触なし。取り巻きから事情を聞いているのでまだですという。そういう甘いというか、ぬるく感じるのは私が被害者の親だからかもしれません。私は取り巻きはどうでもいいので、主犯の聞き取りの結果を必ず本人と親の私に伝えてくれと言いました。
元いじめられっ子としては最初から被害者の親としていじめ問題に介入するつもりでした。なあなあでそのまま進級、ついで、卒業させてたまるかと思っていました。クラス編成を変えたり環境を変えたりで「終わりましたよ」 では終わらせない。これは私の過去の実体験からきています。ただこの姿勢は対教師ではうまくいった? とは思いますが、後年我が子との関係がスムーズにいかなくなりました。反抗期も混ざっていますし子育ては難しいです。
まず教師の行動。
放課後に生徒指導室に関係者を呼んで聞き取りをしました。この時一人ひとりだったのですが、先に書いたように主犯を後回しにして取り巻きから聞き取りをしたといいます。事実関係の把握のため、という名目らしいです。校内でのやり方は親の出る幕はありません。ただ我が子が不登校になってからの原因が自分たちにあると理解した主犯とそのまわりには考える時間がたくさんあった。当然、いじめ集会、アンケート、一連の聞き取りをされた生徒同士の庇いあいがありました。いじめ主犯ととの取り巻きの友情の結びつきは強い。大したものです。
この時期、SNSを通じて我が子への絡みもありました。覚えてろよ的なものです。私もそれを見せてもらいましたが他人にはなんのことかわからないように書いてきている。うまいこと書いていて逆に感心しました。上手です。そういう知恵はある。まだ十代なのにそういうことができる。私は主犯の子は反省しないタイプでやっかいな子どもだと感じました。長期戦になるようだったら親に会って直談判するしかないと思いました。
教師に解決への進め方は一任していましたが、教師が何を思ったのか、主犯の親を呼ぶ前に「主犯の取り巻きの親を呼んで事情を聞く」 という行為をしました。教師は淡々と取り巻きの親は子供から何も聞いていないようでしたと私に報告してきました。私は報告してきた教師に唖然とする。
「どうしてそんなことをするの」 みたいなことをやるのだろうか……いや、教師には悪気はなく、一生懸命やってるのは理解している。それでもなお、「それが我が子に対して一体どんな意味があるのでしょうか」 と思わず反論してしまいました。教師たち、やっていることがどこかずれていました。
ようやく主犯と生活指導教師が一対一で話した時は「反省している」 と泣いていましたよ、と誇らしげ? に報告しました。そして謝罪したいと言っていますと。
この時の会話で教師たちが
① 「謝罪したら一段落」
② 「反省しているし、あとはいじめられっ子の気持ち次第」
③ 「いじめが収束になったらあとは本人の心の持ちよう」
と考えているのがわかりました。というかそれが世間一般の常識になるのでしょう。
我が子に主犯が謝罪したいといってると伝えたら「どうせパフォーマンスだろ」 と吐き捨てるようにいいました。いじめられた期間は、我が子にしたら地獄だったのです。謝ってする問題ではないと元いじめられっ子だった私も感じますが、それをしないと前にすすめない。どうしようかと思いました。
我が子に関しては不登校の期間は毎日布団をかぶって過ごしていました。激高して暴れることも夜中に家を飛び出してしまうこともありました。家の中の空気は悪く殺伐としてしまいました。このこのほかにも兄弟がいますが、末っ子は暴れる兄弟を見ておびえ泣いていました。中学生ともなると力で抑えることもできません。マジで家庭崩壊するかもと思いました。
我が子もいじめられっ子かと私も落ち込みました。しかし私は学校だけが全世界、もしくは布団の中だけが全世界という状況をとにかく変えたかった。あせりは相当ありました。
いじめられっ子の親は我が子へのいじめを知った時点で親も悩み苦しみます。いじめっ子の親はそのあたりはどうせ何も感じないでしょう。だからいじめっ子を育ててしまうのです。
「気分はどう」「これからどうするの」「家にいるなら勉強しよう」 は言いませんでした。悪手だと思っていました。しかしながらあせりもあって、つい言ってしまいました。親ってこんなものです。本人にとっては生きているだけで精いっぱいの状況なのに「将来のことも考えて」 は刃に等しいでしょう。激高されてしまいました。
私は不登校で成績不順で進学も危うい状況ですがそんなことを言ってられない状況にまであるのだと実感しました。将来を心配するより我が子の精神と命の存続を心配しました。
不登校一か月目ぐらいに私は折を見て旅行に誘いました。希望すれば海外だって世界中どこへでも連れて行くつもりでした。だが気分の落ち込みが激しく外に出たくないといいます。無理じいはしなかったのですが、ぼそっと◎◎だったら行くかもというので、私はすぐに手配をし、仕事を休んで連れて行きました。
結論としては口はきいてくれないながらも、◎◎に連れて行くと笑顔も見られ安心しました。ホテルの部屋は一緒でしたが寝ている我が子の顔を見て私は泣きました。いじめられたこともつらいですが、いじめられっ子の親としてはまた別のつらさと哀しみがあるのです。こんな感情は初めてでした。正直に書きますが私は主犯を心から憎いと思いました。
私の住んでいる所は田舎なので、こういった話はぱっと広まります。主犯の犯罪を別方面から数話聞くことがありました。我が子とは別口です。別に主犯は万引きやカツアゲをしたわけではありません。恐喝はありました。絶対に言えぬ秘密をばらさないことを条件に我が子を脅す役割を引き受けた共犯者……主犯には逆らえなかったそうです。
再度繰り返しますが主犯は当時まだ十四才の子供です。子供が同じ年の子供を使って脅迫し、同じ年の我が子にいじめをしたのです。犯罪という名ではない犯罪者……世の中にはそういった隠れた犯罪者がすくすくと育っています。
この主犯は根本的に性根が腐っており、生きている価値がないとまで思っています。我が子のみならずわずか十四才で人に恨まれるということをやれる人間は将来少なからず自滅するでしょう。
私は主犯の机の中、ノートの中身を見ました。思っていたよりは丁寧な字で一見普通の子供のノートです。その平凡な見かけに不気味なものを感じます。私が今書けるのはここまでです。
まだ続きます。