第五十四話・ある結婚の顛末 ●
己に対しては甘く、他人には厳しい。そして己に対しては他人から良い評価を絶対に得る。得るためにはなんでもする。他人を貶めることもする。知人Vの妹がそういう人でした。Zとします。Zの一度目の結婚相手をXとします。Vにとっては義弟になります。また当時のVは未婚です。
一度目の結婚は一か月もたずに破綻したのですが、理由の一つにVがからんだ……Zの結婚に姉のVが嫉妬していろいろと忠告や指示をして二人の仲を裂こうとしていた……とZが言い出したのが今回のイラクサ話。もちろんZの結婚相手、Xは、それを信じてVを非難しました。
先にお金の話をしますが、Zは結婚後パートぐらいは小遣い稼ぎでしてもいいが、男性に養ってもらいたいという希望を出していました。つまり専業主婦希望です。そしてZが稼いでくるお金の管理もZがしたい。それにはZの相手であるXが難色をしめしました。結婚前後はどういうカップルでも揉めるといいますからそれは二人が話し合いで決めるべきです。正解はありません。
しかしZは姉のVが、女性が財布を握っておいた方が家庭がうまくいくと言っているからと説明しました。Zの本音はすべて姉のVの意見にしました。Zはどうでも結婚式をしたい女でした。もっとはっきりいって結婚よりも結婚式がしたい女です。かつZの本音は率直に言わないし言えない女。Zの相手であるXとしては、としては二人の間のお金のやり取りになぜVが介入してくるのかと不快だったのでしょう。義理の姉になるVに対して好感は持てないのは当然です。
Zはどうでも専業主婦希望で、お金の管理が主婦であるZがやり、夫が稼いできたお金から夫への月々のお小遣いがそこから出していくやり方を希望していました。すべてはZの実家そのままのやり方でお金の管理をしたかったようです。夫となるXとしては譲れないと感じたら譲りません。
Zはお金の絡んだZの希望はすべて姉のVが言ったことにしていました。結婚式の細かい様子、進行、海外への新婚旅行のホテルの行先までも。XはすべてにおいてVの思考をいうのが不思議だったようです。ZはXとの考えが違うと思ったら姉のVの考えはこうだと己の思いをVの思いに置き換えて、思考を変えさせようとしました。
XはZのことは信じていますので、Vに対して二人のことなのに介入しすぎだと言いました。Zはそうねえ、と言いつつも姉が私たちのためを思ってアドバイスをくれていると言っていたようです。XとZとは見合いですが、つかれず離れずのおつきあいで三年続いていました。月に一度のデートです。手すら握らない男性で、将来的な話も出ないので断ろうと思うとそれを察知したXがZのために高価なプレゼントを持ってくるという流れでした。つまりお互いがお互い以上の異性に出会えず、Xの父親の会社の倒産がきっかけでXの住む家がなくなってプロポーズするという流れ……。
Xは実家がこういう状態になってからXに結婚を申し込む……住む家がないから何とかしてくれと言われたZは私の家に私に断りなく住民票を入れたりしました。(← イラクサのブーケ、第三十五話参照)いわばこういう結婚だったわけです。Xにお金もない状態なのにZはZの親に全額出させて二人だけの海外挙式をし、かつ式後は専業主婦希望。式前から住む家がないといって大量の趣味の道具を持参してZの住むところに転げ込んだX。危機感もなくただ親とV、そして親戚である私と私の実家がわに甘えるだけの他力本願のカップルです。
加えてZはXと結婚式をしたかったのです。好きというよりは、ここまで付き合っていたのだから結婚は当然でしょうという流れ。Xの父親の会社の倒産はそのきっかけに過ぎない。結婚式ごっことしか言いようのない幼稚な思考です。将来的なお金の流れは何とかなる、親がなんとかしてくれるだろうという感覚です。それでいて絶対に専業主婦希望。Zの親も姉であるVも、プロポーズのきっかけがXの父親の倒産ときいて大変心配していました。
しかしZは平気でした。年令のこともあるし、結婚という形式さえできれば、Xという大卒の夫がいれば女性としての価値はなおあがるという感覚です。だから妹としては姉のVよりも先に結婚できたから勝ったという感覚もありました。一般的には矛盾を感じる思考ですが私はZを幼いころから知っているのでZはそういう女だろうと思います。あとはどうでもいい。結婚という形式さえできれば、Xという大卒の夫がいれば女性としての価値はなおあがるという感覚です。
結婚式はXの父親が逃げている状況ですしお金もかかるし、でもZの希望も入れて二人きりのハワイでの海外挙式になりました。Zが幼いころから夢見ていたハワイの海辺での豪華ホテルでの挙式、スイートルームでの滞在です。先にも書いたがXにはお金がないので、全額Zの親が出しました。両親との顔合わせは式後落ち着いてからの予定です。ただ姉であるVは新婚旅行にあいさつだけはと思って空港に見送りに行ったのですが初対面なのにXはそっぽを向いていたそうです。Vは、私の住民票のことも聞いていたので、いい年なのに挨拶一つできない男なのかと思ったそうです。
Xとしては、Zの虚言を信じているので、二人に介入するVを義理の弟としてはよく思うはずもない。空港での初対面での顔合わせの時でもよろしくお願いしますというはずがない。人の顔をまともに見ることもできない男……Vは妹のZの嬉しそうな顔を優しく見やる反面、義姉となるVに対しては白目を向ける。Vは新婚旅行に向かう義弟Xの怖い表情を悲しく見ました。妹であるZの過去の行状から、また姉であるVの名前を使って何かをしたなと思ったそうです。
Xは婚約者となったZに住む家がなくなったといって泣いて、できれば早急に住む家を探してくれという。そういうきっかけで結婚は決まったが、Zは親にはお金を、姉であるVにはZの言いたい主張をVが言ったことにしてみせる。親戚の私には私の許可なくXの住民票を勝手に置く。どっちもどっち。そういうことが平気でできるお似合いのカップルです。
花婿となるXもまた二人だけの結婚式にこだわっていた理由が次々に判明しました。父親の会社は倒産、住む家もない。元来、親しい友人がいないというX……そして花嫁となるZはXのことが好きかと問われてもわからないが、結婚よりも、結婚式がしたかった女です。本当にどっちもどっちです。
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やはりというかこの結婚は先に書いた通り、一か月ももたずに破たんしました。理由は新婚旅行でのXの行状に不信があるからというZの発言です。しかしXは納得しません。
結婚生活が新婚旅行を含めて一か月も満たなかった……実は性的なことで満足できなかったというのがZの本音でした。それを面倒だったか何かですべてを姉のVの発言のせいにしました。性的なことは見合いだったこともあり、まったくわからなかった。不能……Zは婚約中でも手をつなぐぐらいでそれ以降に至らぬ理由がわかった次第です。さすがに驚いたZは、姉かつ医療従事者のV、そして私に助言を求める。Vと私がとにかく泌尿器科へ連れていけというのは当たり前です。若くても男性不能者は多いし病院へ行けばすむ話ですがそれをあっさり書けるのは私もまた医療従事者だからでしょう。実際はかなり悩んでそのままの状態で放っておく人が多いのかなと思います。
結果的にはZの相手は離婚には応じず、Xの母親を交えた話し合いでZは本当の理由を明かしました。父親は債権処理の関係から所在不明です。Xの母親は嫁になったばかりのZから「子供ができないのは困るから離婚したい」 と言われて初めて息子の不能を知り涙を流されたそうです。ついでにZはVの意見ということにして「若いうちに出産して子育てをするのが女の生き方」 だと言いました。XがVを二人の仲を引き裂こうとしていると感じるのは当然です。ZとX、両者の幼稚な思考が他人攻撃に向かう。
Zとその相手のXについての話は終わりです。XはZ自身は気に入っていて復縁を希望していました。Zの姉が新生活に介入したあげく二人だけの性的な非常にプライベートなことにも介入して仲を裂いたと非難しました。Vはそれを聞いてZが都合のいいようにすべての文句や意見をVが言ったことにしているなと感じました。私もVの言い分を聞いてまた私自身も勝手なことばかりする見栄っ張りなZには何度か煮え湯を飲まされているので「相当にお似合いねえ」 と言いました。
結局離婚になりました。Xは行方不明です。Zは見合いで二度目の結婚をしました。しかし希望の専業主婦、有閑マダムになれず「カスをつかんだ」 と言っています。Zにはもったいないような誠実な優しい夫である人間をカスと表現するような女です。親戚である私に対しても私が結婚後も当たり前に働いているのですがあるとき「お互いカスをつかんだな」 と言ってきました。私は即座に私の夫をカスとは思わないと言い返しました。結婚がらみではもう一つ。私の相手は高卒ですが、Zの相手は一度目も二度目も大卒なのでZは結婚は決まった時は私に向かって「勝った」 と言いました。Zは結婚相手の学歴や職歴で女としての価値も上下すると考えているのです。つくづく愚かな女だと思います。こんなのと血縁になってるのかと私もイヤですが、親戚なので冠婚葬祭で一緒になってしまうのは仕方がありません。Zの実姉であるVはまともです。Zがらみでは、私以上にいろいろあってかわいそうです。
Zの性格は絶対に他人から悪く見られたくないと見栄っ張りからきています。Zの姉であるVはその叩き台です。Zって小さい時から万事そんな感じ。絶対にババをひくものかという思考の現れです。私はZのような人間には何度か会っています。二面性のある性格の人は見栄っ張り思考からきているとしか思えません。




