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第五十話・聴覚・後編


 聴力話の続き。難聴とは耳が聞こえにくいことを言います。かろうじて音がわかる人も難聴といいます。いくつか種類があってこれを理解してもらえないと、話がすすみません。すみませんがもう少しおつきあいください。おおまかに難聴を三つに分けます。またこれらの区別は外見からはまったくわかりません。


 ① 大きな音、ボリュームをあげると内容がわかる人は「伝音性」 難聴です。お年寄りに多いです。

 ② 音は聞こえるが聞き分けられないことを「感音性」 難聴といいます。子供から大人までいます。耳の病気をした後になる人も多いです。

 ③ 伝音性と感音性の「混合型」 も非常に多いです。


 私は②ですね。世の中の人々は親切な人が多いと感じますが、補聴器をつけているので、単純に耳元で大きな声で怒鳴る様に話しかけられたときは逆に声が割れて内容が聞き取りにくいです。またある音域は正常に近く聞き取れるが、ある音域ではほぼ聞こえていません。こういう聴力の中でもさらに音の高低に関与することは言わないとほぼ理解してもらえないし、しかし医療分野以外の場面ではそういうことを説明する機会が皆無です。よって私のような感音性難聴のある人はかなり引っ込み思案の人が多いです。また障害手帳やそれに関与する恩恵などは私の場合はもらえません。障碍者は税金減額になったりしますので、それを知っている人はいいこともあるでしょ、といいますが、私は違います。税金の支払いがイタイと愚痴をいっているところで「私も」 と言ったら、びっくりされました。長年一緒に勤務していたのにその場全員が私が障害手帳を持っていると思っておられたのです。コミュニケーション以外でこういう勘違いをされるのもちょっともやっとします。聴力障碍の手帳取得はかなりあいまいで簡単に取れると思っておられる人が多いし、不正所得も多い。有名な例を挙げると佐村河内守がいますね。完全な失聴者ではないものの、中程度の感音性難聴というのは確からしい。でも彼は障害を前面に出して名声を得ていました。これはかなり特殊な生き方です。だって聴覚障害者と名乗っていたときは、彼の作品は称賛されていたのですよ。称賛拝受中の心理とゴーストライターと聴覚の件が明るみにされてからの心理状況はいかにと思います。


 耳の器官は本当に複雑でデリケートです。私は人間の五感の進化には人知を超えた大いなる神秘性を感じます。しかし聴覚に難がある人は思っているよりも多いはずです。統計では千人に一人は聴覚異常のある赤ちゃんが生まれてくるといいます。出産後の成長過程で私のように病気をして、成人してから、また老人になってから聴覚異常が出る人も多い。だから思っているよりはずっと聴覚異常者は多いはずです。それをバカにする人がいるという現実、私は小さいころにそういう人たちに囲まれていたのでかなり苦労をしたと思っています。でも良い人も多いと知ったのは補聴器を隠さずに過ごすようになってからです。

 さて私が補聴器を使っているのを知ると、いきなり手話をされることがあります。そのご親切は大変有り難いのですが難聴者とろうの区別がついていない人がまだ多いと感じます。これもついでだからはっきりと書いておきます。


聾者 (ろうしゃ)=聴力を完全に失っている人

唖者 (あしゃ) =言葉が話せない人

聾唖者 (ろうあしゃ)=上記二項ともの人。これらの人は幼少時からその状態になっている人が大半で学校で手話を覚えた人が多いです。

 そしてその間に大きなカベがあります。まったく別のところに


 ⇒  難聴者 ⇒ 聴力が弱い人  が存在すると思ってください。


 聾と難聴は、同じ耳鼻科系の病人扱いされますが全然違います。なお失聴という言葉がありますが今まで聴力があったが、何らかの病気で聞こえなくなった人のことを言います。この場合聾唖者とは言わず「中途失聴者」 といいます。私もなったことがあります。

 私は聴力のことで誤解されても仕方がないと考えています。誤解されたままというのは、縁がないからです。これは誤解から全人格を否定されいじめにつながった経験からきています。今更どうこうしようとは考えていません。先行き老いしかないのに、悩んでいると時間がもったいない。

 でも聴覚障害に関しては一般的にもイラクサな話がいっぱいあります。代表的な話をあげておきます。ご存知の方も多いかと思います。まず誰でも知っているオリンピックの話から。

 オリンピックが終わるとすぐにパラリンピックが始まります。しかしその中には聴覚障碍者は入っていません。難聴もしくは失聴者は耳以外の障害がないことが多く、健常者と変わりがないとされているからです。聴覚障害を英語でDeaf、カタカナ読みで「デフ」 といいます。デフの人だけのオリンピックが実はあって「デフリンピック」 といいます。実はパラリンピックよりも歴史が古いです。しかし統括団体がまったく違うこともあって知名度は低いです。またデフは独立しているという印象が強いようです。

 体力が健常者と変わらないということもあって一般的な視覚がない四肢のどこかが欠落している人を対象とするパラとは違う意味合いがります。またデフ同志にもいろいろとあるのもネックです。

 デフ同志にもいろいろとある……私はこれを経験しています。過去ほぼ聞こえない状態になった時に仕事を休みました。その時に知り合った聾 (デフ)の方から「もともとケンチョウの人と一緒に働けたのだったら仲間でもなんでもない」 と言われたことがあります。ケンチョウの意味が不明だったのですが、健聴者のことでした。心理的に弱っていた時期にそれを言われて、今後はいわゆる健聴者と混じって働くどころか聾の人とも相談できないし私はどうなるのかと思いました。今となってはデフの人はデフなりにプライドが高く新入り? に一喝してやろうと思ったのかなと思っています。

 しかし誰ともわかりあえないという不安……今のようにネットで未知の人と会話できない時代の話ですが、どうせ私は一人だし、と逆に家にこもって聞こえぬピアノやイラストを描いて過ごしたことがあります。幸いというか、ある程度まで治癒して現在にいたりますが、聴力の有無のうち、更なる階級というほどのことはないが、その中でも強いプライドや仲間意識が働いている人々に紛れ込んでうろうろしていた私は目障りだったのかと思っています。

 これ以上のことはわざわざここで書くこともないので省きます。しかしまだもうちょっと続きます。


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 正確にはイラクサじゃないけど、どうしても書きたい話がある。

 補聴器使用者の二十代の頃の思い出話と思ってください。電車に乗っていたら、同じ車両に小さな子供の手をひいた母親がいました。子供は電車に乗れてうれしいのか声を出してはしゃいでいます。ちょっと甲高いなと思って見やるとその子供は両耳に補聴器をつけていました。聾唖学級の子どもかな、と思って私は普通に読書に戻りました。私は本などに集中するとほとんど聞こえないです。

 降車するとさきほどの子どもの手を引いた母親が「すみません」 と声をかけてきました。なんだろ? と思うと私の耳元を指差します。

「それ……いつからつけていますか」 

 と聞かれました。こういうことを直に聞かれたのは初めてですが、子供さんが補聴器使用者なので聞きたかったのかと思いました。それで素直に答えました。

「耳が悪くなったのは九歳ですが、中学生になってからずっとつけています」

 すると「今、働いておられますか」 と聞かれました。通常ならば初対面では失礼な質問なのですが、私はとっさにお子さんの将来が心配なのかと思って「はい、働いていますよ」 と答えました。お母さんは私の顔を見て黙っておられました。私は言いました。

「何とかなるものですよ。大丈夫ですよ」

 通りすがりで無責任きわまりない言葉かもしれませんが、そのお母さんはほっとした顔をされました。そして何度もお辞儀をして子供さんの手をひいて通路を歩いていかれました。話はそれだけです。

 世の中には補聴器使用者は数多くいるはずなのですが、当時の私は若かったのでそれで聞いてみようと思われたのでしょう。子供さんは女の子でした。私が若かった頃の話なので現在は成人されているはずです。その母親の心配は、私も子供をもっている今はよくわかる。でもなんとかなっているはずです。書きたい話はそれだけです。

 聴力がない、もしくは障害に起因した人間関係についてのイラクサな思いや経験は必ずできてしまうはずですが、それでも生きていればね。何とかなります。

 それに不快な経験や体験の質量は、聾唖者、難聴者、そしてその他多数を占める健聴者の皆さんも同じだと思います。今回はイラクサの多い少ないの問題をいっているのではありません。どうかご理解ください。



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