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第五話・反省知らず

 小学生四年の話に戻ります。とてもいじわるなクラスメートがいました。名前も顔つきも覚えています。名前をBとします。Bはプチユニークフェイスな私がバレエを習っていたのがどうも気に入らなかったようです。病気で熱が会った時は体育やプールは見学でした。私には持病の後遺症があったので、その状態でも踊るのかと余計に憎まれていたようです。彼女は本当はバレエを習いたかったのではないかと思っていますが、子ども同士ではそれはわからない。私はバレエの先生からは全くかわいがられていませんでした。それなのにバレエをしているだけで憎まれるのは理不尽だと感じていました。

 話を元に戻します。Bには取り巻きがいました。漫画でもドラマでもいじめの首謀者にはなぜか、協力者もしくは取り巻きがいます。首謀者にはそういうチカラがあるのです。負の感情をいじめをする相手の心にストレートにねじこむか、いじめられっ子の泣き顔や困り顔を見たいのです。そして取り巻きは喜んで手伝い、知恵を出し合い、傍観者は黙って動かずにじーと見ている。そんな構図ですね……。まだ双方とも未成年で社会経験がないにかからわず、いじめっこ体質のお局様のやるようなことをするわけです。言い換えると大人社会の縮図でもありますね。

 顔も体型も服装もヘンなコよばわりされて、私の顔を横目みながらくすくす笑って通る。ひそひそ話をこれみよがしにして、私が振り返るとピタッとやめて「何を見てるのよ」 と怒る。先生の目を盗んでコレをやるわけです。

 私は当時小学生四年生でして、担任の男性教師に訴えました。当時はまだ先生は偉い人だから、困りごとを解決してくれるだろうという幻想を持っていたわけです。

  私に対して級友からの暴力こそなかったのですが、教室内でのいずらさを感じていました。先生は真剣な顔をして「ふんふん、それで?」 と聞いてくれました。その後、皆の前でBを叱ってくれました。

 Bは黙ってうなだれていましたが、周りのコが「Bはいじめをした」 と証言しました。

 ということは、皆黙っていて「ひどいな」 と思っていたのでしょう。Bは先生に聞かれても、だんまり状態でした。だんだんと先生の語調が荒くなりましたが、Bは口をぎゅっと堅く結んで一切言葉を発しませんでした。泣きそうになっていましたが、無言のままです。私は視覚を映像で覚えるところがあるので、その時のBの席の位置、私の位置、先生の横顔を下から見上げた構図で思いだせます。

 やがてチャイムがなり、先生は詰問をやめそれで終わりです。この終わり方もどうかと思いますが、所要でもあったのでしょう。現在だと皆の前で聞かず、もう少し双方に配慮のあるやり方があったかもしれないですが、なにしろ昭和の時代でしたしそんなものです。

 それからBはおとなしくなりましたが、私がいると、にらみつけるようになりました。まったく反省してない。私は先生に相談したことを後悔しました。先生はアテにならないことを学んだ一件です。

 しかしその先生は独りぼっちの私を気にかけてくれ、昼休みや放課後に理科室をあけてくれました。実験室を貸し切りにして、鍵は職員室のこの場所にあるから好きな時にこの教室にきて、好きな時に顕微鏡を見なさいと言ってくれたのです。今にしても破格の扱いだと思います。理科教室の薬品については小学校なので大したものはありません。デンプンの粉やヨウ素剤、枯れ葉と鉄砂ぐらい。ガスバーナーの積み重なった大きな机があったのを覚えています。ちょっとだけホコリ臭い理科教室。私はそこで顕微鏡を窓際の机の上に置いて、いろいろなものを拡大しました。頑丈な木の箱の中に教材用のサンプル品がたくさんあったので、スライドを一枚ずつ上にすっと引き上げて、見たことを覚えています。葉脈や細胞を拡大されたものに見惚れ、小さな世界で展開される色彩に魅了されていました。ぱっと肉眼で見ただけではわからぬものにも、ちゃんと世界があるのです。

 他のコからは「理科教室がが怖くないのか、お化けは出ないのか」 と聞かれました。しかし私は胸糞悪いBとその取り巻きの顔をみるよりは一人でいる方が気楽でした。人間よりもお化けが好きな小学生でした。骨格標本も平気でした。人知を超えた存在にあこがれていました。私が未だに各国の神話が好きなのはそこから来ています。図書室の本も読み漁るようになりました。


 それから少ししてBにからんだ事件がおきました。私は当時保健係で体調の悪くなった生徒を保健室に連れて行く役割でした。クラスメートは当時、たまに授業で一緒になる特別クラスのコ以外は皆元気で、その役目はほぼ休職? 状態だったのです。しかしあるときBが授業中にいきなり吐きました。保健室へ連れて行ってやってと担任に頼まれたのですが青い顔をしたままBは首を振って私を拒否しました。先生も「あ」 と思ったのでしょう。隣の席のコに付き添いを頼みました。私はBの吐しゃ物を掃除しました。これも保健係の仕事だと思ったからです。

 数日休んでからBが登校してきました。すると先生はまたもや、Bを皆の前で立たせ、私も立たせました。先生はBに「◎◎さんにおれいを言ったか? Bの吐いたものをぜんぶきれいに掃除してくれたのは◎◎さんだよ? おれいを言いなさい」 と命令しました。子ども心に語調が強かったのも覚えています。Bは黙って私に頭を下げました。先生は「それで?」 とうながしました。Bはうなだれたまま私に小さな声で何かを言いました。「聞こえんぞ?」 先生の声。Bはもう少し大きな声で「ありがとうございました」 と言いました。声に張りがありません。無理やり言わされてそれでBの私に対する軽蔑感がなくなるものでしょうかと今でも思います。先生はBが私に感謝して仲良くしてくれるだろうという幻想を持ちすぎ。でも無理やりお礼をいわせて気がすんだようです。授業に入りました。

 休み時間になるとBは取り巻きを連れてどこかに行ってしまいました。残ったものは私を取り囲みました。私は驚きました。またいじめられると思ったのです。でも違いました。

「Bが先生がいなくなると、どうしてお礼を言わないといけないのよ?」 と笑っていたよ、と教えにきたのです。

 語調にBはひどいね、という私への同情がこもっていました。吐しゃ物の掃除は誰もしたがらなく、一人で私は床もみがいて綺麗にしたのですが、皆はそれを黙っていながらも評価してくれていたのです。

 でもそれだけで終わりました。私は先生ができることには限界があると思い知ったことで、それ以降は中高でも何があっても大人には相談しないようになりました。人に相談しても、歪んだ人間を矯正することは誰にもできないと学んだことです。



◎◎◎ 第五話のまとめ ⇒ いじめっ子は反省を知らない。また必ず同調する仲間がいる。大人の知らないところでいじめられっ子が嫌がることをいう。 ◎◎◎


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