第四十二話・見てござる
不倫はいつかバレるという話。恋愛にはいろいろの形がありますが、結婚という社会的かつ倫理的な縛りがどちらかにある場合、当事者のみならず関係者も不幸になると思っています。個人的に不倫が美しいというのは、小説や映画の中だけで創作者の腕だと思っています。不倫の是非はここで論じても仕方がありません。だから善悪は置いといて、の話です。
ある男性に不倫しているといううわさがありました。男性をQさんとします。一緒に勤務していた女性をRさんとします。Qさんは既婚者です。Rさんは明るくて親切な独身女性。このうわさは数十年ありました。
うわさが二人の耳に届いても本人は否定していました。どうのこうのといっても所詮証拠がなければただのうわさです。奥さんがどう思われていたのかまでは知りませんが闘病の末、亡くなられました。その後、結婚するのかなとなりましたが、それはなかった。私はうわさを聞いてもどうこういう立場ではないので、素知らぬ顔をしていました。関係がないからです。
そしてQさんが亡くなりました。葬儀後、噂は本当だったという人がいました。それがまさかの人でした。Sさんとします。故人となったQさん、うわさの相手のRさん、そして問題発言をしたSさん。三者とも顔見知りです。Sさんは、居住地から遠い分譲マンション所持者でした。でもRさんもその中の一室を所有していたのです。数あるマンションなのに、知己が双方とも所持を知らぬ状態で数十年たっていたのです。
それをSさんが、奥さんが存命中からQさんとRさんは仲良く行き来していたと言いました。エレベーターホールで見たといいます。時には同じエレベーターにも乗っていたと。Sさんは通年花粉症でいつもマスクをしている人なので、気づかれにくい。かつ逆に二人を見て隠れたそうです。Qさんはその職場では地位の高い人ですので、睨まれたくないというのもあります。それにSさんは、うわさが本当だったと騒ぎ立てる人ではありません。それが本当だと騒ぎ立てても何の益もありません。Qさんは良い人だし、仕事がきちんとしている人です。私生活に不倫があったとしても業務上は関係がありません。利害がからまらぬ場合の反応ってそういうものです。騒ぐ人の方がみっともないものです。
でもSさん……それをある会合でぽろっと言っちゃった……。
みな、やっぱりと思ったのですが。済んだ話だね、となりました。そしてなかったことにしようとなりました。Qさんの仁徳です。女性のRさんはまだ生きています。Rさんの知人が葬儀会場で「亡くなられてさみしいでしょう」 と声をかけるとRさんは「どうしてそういう言い方をするの?」 と睨みつけたそうです。皆の前で。声をかける人もしょげているように見えたのに、悪意がなかったのに怒られたと言っていました。私も本人の言い分は聞けない立場ですしSさんの証言以外確証もないので、本当に単なる噂かもしれませんが、Sさんの態度はQさんが亡くなられて神経過敏になったと思われています。
今回の話は誰もみていないと思っても、誰かが見ていたという話を書きました。
私の居住している田舎でも、交通量がすごく少ないので、みかけない車が止められていると注目されます。特に過疎の田舎の施設の駐車場はがらがらなので、そこで落ち合って男性側もしくは女性側の車に乗って片方を無断駐車して数時間後にまた二人で登場して、別々の車で帰っていったりします……いや、もうわかっちゃいます。それが平日だと確実です。好奇心の強いひとが置き去りの車の近くに行って、あれ、チャイルドシートがあったよ~とか。まわりがドン引きで、お前、やめとけ、になっていましたけど。
そういうわけで誰も騒ぎませんが……どなたかが「見てござる」




