第四十一話・だからあなたは結婚できないと言われたことがあります □
前回保険の話を書いて思い出したことがあるので、これも掘り出しておこう。私は一応結婚をしていますが決めた時期が遅い方でした。
私が三十代後半の時の話。未婚の状態でした。そこへ保険の仕事をしている母の知己が「ノルマ」 があるので入ってくれといってきました。ノルマ、って言葉は嫌なものです。私は友情や血縁を利用して入会者を集める仕事はするまいと思っていました。でも自然と寄ってきます。前の保険の人とは別の人です。親戚です。余計に断りにくいです。
両親はその類の保険にもう入れないが、その人は「娘さんは?」 といってきました。つまり私が狙われたわけです。職場に毎日のようにやってくる某生命会社の人も郵貯もあり、私にはこれ以上の保険は不要でした。それで理由を説明して断ったのですが、その人は母に私の生年月日と勤務先住所を聞き取り、あとは私の印鑑だけをくれといってきました。印鑑は母に預けていなかったのでどうしても必要だったわけです。
勤務後の私の帰宅を待ち構えていたように笑顔で迎えてくれたその人……母もいい顔をするところがあるので「印鑑ついてあげて」 といいます。私は断ったのにといって、勝手なことをするのはやめてくださいと言いました。でも、もう作ってしまったのだし、と言い張るその人。
「万一のことがあったらどうしますか?」 と縁起でもないことを次から次にいって説得します。私は不快でした。
「勝手なことはやめてください。私は入りません」
その人は私が喜んで保険に入ると信じて疑わなかったようです。「あなたのためですよ。私はあなたのために動いているの」 ときた。勝手な善意を持ち出して、強引な仕事をして人助けのつもりでしょうか。私が絶対に入らないというと、がっかりのあまりでしょうが、その人は「だからこのコは結婚できないのよ」 と母と私に向かって怒鳴りました。
そういう捨て台詞を吐いて家から出て行ったのですが、私も当然怒り、母に二度とあの人を家に入れるなといいました。母は親戚だし掛け金を最低でも払っておけば怒らないのにといいました。金額の大小の問題ではなく、必要性がないと思ったら必要はない。母はその人に対して気遣いをしすぎなのです。また世間話の相手でもありましたので、私の見合いが決まらない、結婚相手がないなどの愚痴を言っていたからこそあの捨て台詞になったのでしょう。
女性はいつか結婚すべきという概念が双方とも思想の根底にあるのでそういう言葉が出てくるのです。しかし保険担当者としては言うべき言葉ではない。
私自身は職場に未婚のままで仕事に邁進をしている人々が普通にいたので平気でしたが、母からは誰でもいいから結婚してくれとまで日々言われ、私もそのためマズイなとも感じていたので本当にそのセリフはイヤでした。当時の母娘にとっては嫌なセリフだったのです。嫌な思いをさせたい目的ならば大成功でしたよ。
ノルマ消費のための保険入会を断られただけで。腹立ちのあまりの言葉ですが、その親戚の立ち位置を思えば笑止でした。理由はその人が母とほぼ同年齢でも未婚であることを知っているからです。結婚「できない」 って一体どの口で言えるの? ってことですよ。
私を傷つけたいあまりだが、私にだって感情がある。
まだその人とのつながりはありますが私は遠くに嫁いだし私が文章を書く人であることは誰も知らない。これもイラクサ。だから書いておきます。