第三十九話・それはそれ、これはこれ。
つながってませんがどうしてもつなげてしまう話。前置きが無駄に長いです。
私は普通に喜怒哀楽があります。嬉しいことがあるとうれしいし、怒ることがあると怒る。感情的になっているなと思うと自制もします。時には本音と建前も使い分けるそこいらにいる人間です。誰でもあることを私もまた経験し人生を通っています。今回は私の失敗談、というかどうしても思いきれないことを書いてみます。
私は自動車を運転をします。季節は早春で雪も消え道路も凍結しなくなるとちょうど春の交通安全シーズンになって警察が公道のあちこちで事故のないように、また交通違反の有無を見張っています。そして各都道府県に警察はあります。このうち北海道の警察だけ道警といいますが私にとって北海道は縁がなく観光地という概念です。それ以外はわりと広範囲に動くので落とし物をしたり逆に拾ったり迷子になったりでそれなりにお世話になったことがあります。
どのような人でも事件以外に警察へは自動車運転免許更新や落とし物で行くことが多いと思います。私もそうでした。しかし運転免許証保持者でしたが、車自体を持っていませんでした。
つまりペーパードライバー ⇒ 交通違反も事故も無縁 ⇒ 優秀なドライバー ⇒ ゴールド免許 というわけです。
それが田舎に嫁いでからペーパードライバー返上です。車がないと困るので、運転するようになりました。田舎道なので交通量が少ない上に都会のように渋滞はないし、複雑な三叉路や五叉路などというものはない。よってペーパードライバーでも余裕で運転できます。私はすぐに慣れました。
運転するようになってからわかったのは、教習所で学んだはずのルールを守らない人がいること。左折右折にウインカーを出さない人や駐車場で空くのを待っているのに、平気で割り込む人がいます。これは都会や田舎に限りません。どこにでもいます。普段は静かな美人という風情の人が車のハンドルを持つと通学路でも猛スピードを出す人も知っているので運転すると本来の性格が出るのかもと思います。で、慣れてくると私も制限速度を超えて運転するようになってしまいました。交通量が少ないのと信号がないのでなおさらです。そうして早い時期に私はP県警の覆面パトカーというものにつかまって、違反切符を切られました。他にも一時停止違反もやりました。そういうわけで、あっというまに免許証がゴールドからブルーに変更になりました。言い訳はしません。悪いのは私です。以上が前置きその1です。
私はP県警とは相性が悪いです。そこに至るまでの話が今回のキモです。私は過去にP県内の某駐車場で当て逃げをされたことがあります。お店の人にすぐ言ったのですが、駐車場には防犯カメラはないとのこと。もちろん警察に通報して来ていただきました。忙しかったのかなかなか来ていただけませんでした。それでも現場で二人の警察官に時間と当て逃げされた場所や車の様子などをチェックしていただきました。あてられた現場には私の車のライトの破片と白い破片が落ちていました。しかし誰も見られていないこと、車体の傷と落ちていた破片から白いワゴン車ということしかわからない。でも証拠の破片で犯人がわかるのではないか、捜査してほしいと私は頼みました。が、警察は面倒そうに「まあ、何かわかったら連絡します」 というだけ。当て逃げだって立派な犯罪ですし、証拠もある。第一白いワゴン車でしょうといったのは、その警察官です。こすれた後で車体の高さが推測できるとも言ったので、捕まえられると思っていました。だから自動車整備工場などに警察が手をまわしてくれたら犯人がわかると思っていました。
面倒そう、というのがすごくひっかかっていたのですが、案の定待てど暮らせど無連絡。私からP県警に電話したら「わかりません、これはたぶん、ずっとわからないのじゃないかなー」 というやる気ゼロの返答。そんな言い方ってある? 私がP県の住民でないから? 事故報告の時に私の免許証を出していたので色がブルーだったのを見ていたから? P県警は仕事してくれないのね……一番ひどいのはそりゃ当て逃げ犯ですが、P県警の捜査がないので逃げ切ったわけです。私は車を整備工場にもっていき、十数万円を全額自腹で払いました。というわけで私はP県警には好印象をもっていませんでした。と、ここまでが前置きその2、です。次に本題に入ります。
因縁のP県警管轄内の某商業施設の駐車場での話。私は駐車場から駐車場に移動するために敷地内を一時的に出たのですが、その時にシートベルトをしていませんでした。というより、敷地外にゆっくりと出ながらシートベルトを着用すべく引き出していたのです。すると警察官がどこからともなくあらわれ、車を止めろと合図してきました。私は「ヤラレタ」 と思いました。運転をしない人にはわからないでしょうが、駐車場敷地内ではシートベルトをしなくても徐行していれば大丈夫ですが、一時でも公道をシートベルトなしで走行するとアウトなのです。一点取られます。これは立派な道路交通法違反なのです。警察の方もこっそりと違反者がないかどうかを、目立たぬ場所で見張っていて、違反者が出たら「やった♡」 と出てきて違反切符を切るのです。もちろん悪いのは違反者です。うわさは聞いていたのですが、いや、うわさもクソもない。立派な違反です。そして過去のことから私はP県警に不信感を持っています。
なので、以下のことを思いました。
「私の車が当て逃げされたときには当て逃げ犯を見つける捜査もしてくれず投げやりだったくせに、数秒シートベルト着用が遅れただけでしっかりと減点するわけ? そういうことには、しっかりと仕事するわけ? やりやすい仕事ならばきちんとして面倒な当て逃げ犯は見逃すのね? 当て逃げなら最初から捜査しないのね」
と不快になりました。
いや、悪いのは私ですってば。
だが警察相手に怒れず、態度がゾンザイになったことを告白します。それに今までは車検証を出せと言われたこともなかったのに、出させてそれをゆっくりと何かに書き写す。違反切符の書き取りもすごく時間をかける。
その間次から次へとほかの車が敷地内から外へ出ていきます。公道に出る際シートベルトをつけながらしている人もいます。警察官は私を処置中なので放置です。私はもっと不快になりました。この警察官は私を愚かな獲物と心得てゆっくりと処置しているつもりなんだと思いました。
「いい加減に早く書いて、また隠れてほかの人もさっさと捕まえたらいかがです?」
とまで言いました。
警察官の私に対する心証は悪かったと思います。切符の写しをもらいましたが、警察官では珍しく几帳面で美しい楷書の文字が並んでいました。こんなに上手なら警察官ではなく書家になったらいいのに、そりゃあんなに丁寧にゆっくり書いていたらそういう字になりもしますよ。
……以上のことを同居人に愚痴りますと、全部私が悪いと言われました。
「あのさ、昔当て逃げされてP県警が犯人を捕まえられなかったことと、きみがネズミ捕りにひっかかって切符を切られたこととはまったくの別件でしょ?」
確かにそうです。別件です。私が悪い。
これは私個人の八つ当たりです。わかっています。当て逃げの検証をしたやる気のない警察官二人組と、今回の違反切符を切った警察官とは「別人」 です。
でもP県警は当て逃げ犯をろくに捜査もしてくれず、無理でしょの一言ですませるくせに、私が違反するとすごく丁寧に処置する。それが私の腹立ちポイント。共通事項がP県警というだけです。それがわかっていてもなお、P県警がより嫌いになりました。どうしても思いきれない。
当て逃げ犯は、私の車に限り当て逃げしても逃げ切れるし、私自身は少しのミスでも責められるという変なジンクスができあがっちゃいました。なんでも悪いのは私で、どうせあの時の当て逃げされた車も私の車にあてたからこそ逃げることができたのです。そこまで連想してしまう私は世間様から罵倒される立場でしょう。
ネズミ捕りというのは、俗語です。運転者をネズミに見立て、交通違反者のうち取締りやすい場所で取り締まりやすいものだけを取締るという意味です。事故の予防にそれなりに意義はありますし、取り締まり側には苦労もあるでしょう。しかし本当に交通量の多いところや事故現場の見通しの悪いところではこれはやりません。私は繁華街であきらかな違反でも素知らぬふりをしてやりすごしている警察官も見ています。だから余計に違反金を素直に払いすみませんと警察に謝罪する人ばかり狙い撃ちしている印象です。当て逃げ事件の時には、あきらめろと言わんばかりの態度だったのに私が違反するとしっかり捕まるのは別件だと思っても納得いかない……というわけで書きました。それはそれ、これはこれで、悪いのは全部私です。




