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第三十七話・サバを読む人 ●

主に女性が実際よりも若い年齢を主張することをサバを読むといいます。その語源は、サバは腐りやすいので魚屋さんが急いで売りさばいたことによります。腐ってしまうことを想定して例えば十匹のところを八匹と適当によんで取引していたそうです。

 人口の少ない病院の待合室での話です。待ちくたびれてヒマを持て余していた推定六十才代後半の女性が、我が子に対して「かわいいね」 と声をかけてくれました。当時の我が子は四才ぐらいだったのですが、愛想のよいコだったので、「おばちゃんも、かわいい」 と返しました。

 女性はとても嬉しそうな顔になり、次に質問をしました。

「ね? おばちゃんっていくつに見える?」

 隣にいた私は、うっ、と言葉に詰まりました。我が子は空気も読まず初対面の大人に向かって「かみの毛が一本もないっ」「変な色の財布だねっ」 とか大声でいう子でした。怒らせるようなことや、傷つくようなことを言ったらどうしようかと気を揉みました。ですがそれは一瞬で子供は、その人に向かって「じゅうななさいっ」 と叫びました。

 相手は十七才、といわれて空気が抜けたような顔をしました。いくらなんでも若すぎます。待合室中の病人たちが笑いをかみ殺しているのが空気で伝わりました。恥ずかしかったのか、その女性からは我が子に言葉をいただけませんでした。


 女性の外見から年齢を推測するというのは、女性同士でも話題になることだと思います。普段からあの人は若く見える、老けて見える、逆に年寄りのくせにあんな色の着物はおかしい、お化粧の感覚、ヘアスタイル……男性よりも評価は厳しめだと思います。

 冠婚葬祭や地区会、神社の寄り合いでの集まりで幼かった私はじっとそれを聞いて考えていました。みんな良い人ですが、他人の見た目の批評や行動についての話には目を輝かせて嬉しそうです。噂話の類ですが、悪口に関してはその人のいない場所が掟になっています。長じて学校へ行くようになってからは己自身が悪い方の噂のタネになったという自覚がでてきて、人間よりも校庭の日当たりの悪い飼育小屋にいる鶏やひよこ、うさぎと接する方が好きになりました。

 それからもっと長じて、外見というか見た目で人間性をある程度判断されるのは仕方がないと感じることが増えました。それがわかっている知人はお化粧や服装、持ち物にこだわりをもっていました。マークですぐにそれと分かるハイブランドのものを持ち歩いたり……ハイブランドに関しては私はそこまで稼げないので無縁でした。そんな私に「無理をしてでも一つぐらいは高級品を持つべきだよ」 と言った人がいます。良いも悪いも世の中がそういう風潮の中、成長したのですが私は徹底的に潮流から外れていて、異性からは当然モテもしないし心情的に我が道を行ったと思っています。

 また年齢にサバを読む人が身近にいまして、嘘をついてまで己をよく見せたがる神経が理解できませんでした。彼女はある特定の趣味の分野で十才サバを読んでいました。でも嘘はいつかばれます。病気のために入院する羽目になり、当時は病棟の入り口やベッドわきに患者本人と氏名と年令、主治医の名前が明記された名札があったので、それでばれたようです。普段から身づくろいや行動で他人からどうみられるか非常に神経を使う人だったので、年齢詐称の件を聞いてもそれほど驚きはしませんでした。それよりも、バレたあとでの心情変化が気になって、当人の機嫌のよい時を見計らって聞いてみました。

 反省しているのかな、と思いきやまったく反省していない。むしろ、病院が女性の年齢をばらすようなシステムが変だといいました。現在では個人情報を開示しないという希望も多く、名札表示すらない病院も多いですが、当時は病床に名札があってフルネームに年令、時には入院日、手術日などを開示していました。

 実は私の勤務先だったのですが、当時はそれが当たり前だったのです。そうきたか、と思いました。年齢詐称がばれてからのまわりの反応はどうなった? と聞いた私への返答は以下の通りです。

 彼女に騙されていた知人は怒らなかったそうです。ごめんなさいというと、「実際に十才若く見えるのでそれはそれでいいのじゃない?」 とにこにこしてくれたそうです。

 サバを読んだ当人が恥ずかしいという感情はなく、実際にサバを読み続けられるぐらいに若く見られるのだと思って喜んでいる。当人にとってはウソがばれて軽蔑されるかもしれないという恐怖から解放され、逆に褒め言葉をもらえて何よりの入院見舞いだったでしょう。

 ……私はその人は病人に対して無難にスルーできる利口な人だと感じました。でもその人以外にも見舞いはあったので年齢詐称は密やかに広まるでしょう。その女性が属する趣味の世界は利口な人が多いと思いますので大丈夫でしょう。しかし芸能界や芸術家に年齢などは非公表が多いとはいっても、一般女性でそれをする人もいるのもちょっとした驚きでした。でもバレても反省せず、逆に自慢話にもっていくのも図太いというかそれも処世術になるのだろうかと思った出来事です。私には逆立ちしたってできません。




年齢詐称はばれない限り、やったもの勝ちになるのかな? と思います。百パーセント、己がかわいいからサバを読む。一種のナルシストです。(私自身は若く見えますね、老けて見えますね、両方とも言われます)今回の話も、本当にどうでもいい話なのですが、年齢詐称に情熱を注ぐ人もいるので接する言葉に注意すべきだと思って書きました。でも、詐称するぐらいなら非公表の方が潔いと思います。



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