第三十三話 ・友達がいるという見栄
何年前かの話。
特徴あるダイアルの着信があり、それも一、二時間おきぐらい。どうしたのかと思っていました。私は普段ならば登録のない番号は取らないです。しかし待ち構えていて取りました。案の定、警察でした。わかりやすいアノ番号ですしね。心当たりはなくとも、なにかしたのかと思って、ちょっと心臓に悪いです。
警察からは私のフルネームを確認してきました。ハイ、といいますと、。「あなたは◎◎▲▲を知っていますか」 と聞いてきました。知人Mのフルネームです。あっ、と思いましたが、これにもハイ、と答えますと「事件を知っていますか」 ときた。
実は、前日の夜にニュース番組でMが逮捕されたのは知っていました。しかしどうして関係のない私に電話がかかってくるのか……不審に思いましたが相手は警察です。ガチャ切りするわけにもいきません。
私は、Mの事件も知っているのは事実ですのでそれにも「ハイ」 と答えました。すると警察官は「Mとは親友だそうですね」 と聞いて「え?」 と言いました。
私はMを親友とは思っていなかったからです。私にはないよ、そんな上等なもの……。
黙っていると警察は重ねて「現在も何度も定期的に会っているとMは言っていますが本当ですか?」 と聞く。私は言いました。
「数年前に会いましたがそれっきりです.もう何年も会っていません」
最後に会ったのはいつですか、という質問のあと、重ねて「去年の春に会ってないか」 と聞きます。話がどうしてこうなるのかしつこいと感じた私は逆に、「Mが私のことをそういっているのか」 と聞き返しました。
すると警察は「◇さんや、○さん、●さんとも親友だといっている」 と知人の名前を言います。私はどう返していいのかわかりません。Mと親友であるかの是非と、事件とどういう関係があるのかと訝しみました。まったく警察もちゃんと順序良く話してくれたらいいのにと思います。余罪があって私やその他の知人の名前をかたった犯罪もついでにしたのかと思ったぐらいです。
犯罪の内容は書きませんが、Mのいう親友云々は「見栄」 からきていると思っています。警察には「親しい知人がいない」 とは言えなかったのだろうとも。
逮捕されたからとはいえ、どうしてまた……警察は丹念にMの言ったことをなぞる様に、本当か嘘かを確認していきました。本当のこともあれば、違うこともいいました。私には利害関係はないが、発作的に罪を犯したMがかわいそうになりました。事件の内容はここでは書けないが、Mには長年かかわったトラブルを相談する相手がいなかったのは事実。その延長で思い悩んだ末での犯行だと思っている。
しかしまわりまわって警察からMの取り調べにおける発言を確認されるとはMも思ってないはず。私のことを親友だと思っているのならそれはそれでいいが、それにしても、去年も会いました、は、ない。
Mに一種の孤独癖があるのは、私もそうなのでわかるが、私は仮に薄い知り合いの人でも「あの人とは親友なの」 は言わないです。それは嘘なので恥ずかしいと思っている。
しかしMはそうじゃなかったのだな……取り調べをされるという異常な立ち位置で、友人がたくさんいるように装ったのはどういう心理なのだろう。
私と似たようなボッチ系でも私はMと同種だと思われたくないなあと書きました。私は親友がいないことを恥ずかしいことだとは思っていません。
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聞き取りをされた経験はめったにないので忘備録のついで。
例のMに関しては、警察からの聞き取りは数日にわたってありました。遠方だったので署まで行くことはなかったのですが、同じことを違う警察官、刑事さんが確認します。たぶん、知人の犯行現場が普段の行動範囲内ではない、全く土地勘がないはずの場所なのに、どうしてその場所で犯行に及んだかが不思議だったらしい。
どうも最初に聞いてこられた警察官から「どうしてかあの場所か、心当たりはないか」 と聞かれて答えた私の推測がビンゴだったらしい。そのことを別の担当者と名乗る人からも日を変えて聞かれた。しかも、どの人も最後には必ず私の生年月日や住所まで聞いてくる。ナニ? それ、裁判かなにかで私の名前が出るの? ヤダ……といっても警察は規則ですので、という一点張りで全部私の個人情報を言わされました。私は親友じゃないっちゅーのに。
そのうえ、警察が私に質問はしても、逆はダメなのだ。私が逆にMの犯行の詳細や警察内での様子を聞いても教えてくれない。それなのに私の勤務先の名前など根掘り葉掘り聞く。腹がたって、最後の方には「まだですか?」 と不快感を隠しませんでした。警察の業務上のことなので仕方がないし、捜査に協力するのは国民の義務かとも思います。でも、何度も聞き取りをするならば、こちらも捜査の進捗を聞きたいのは当然の感情だと思うのですが……これでこの話は終わりです。