第三十一話・見知らぬ人からのマウンテイング
ここでは相手より自分が上だと優位性をアピールすることをマウンティングといいます。
私の小さい頃、小学生三年生ぐらいの頃の思い出話です。母親にお使いを頼まれて花屋さんに花を買いに行きました。その時に、バケツに入れられてすでにセットされている花をひと束購入しました。桃の花と菜の花という定番のセットです。これからは暖かくなるからいいねえ、これはつぼみがたくさんついているからきれいに咲くよ、と花屋さんが新聞紙に巻いてくれていました。すると横から年配のおばさんが桃の花、奥にあるその豪華で大きなのをくださいと言いました。注文はいいのですが、そのおばさんは一言余計でした。私を見下ろして笑顔で言いました。
「こんなみすぼらしいセットをかうひともいるのねえ、安いだけの花はそれなりのものなのにねえ」
私は物覚えが悪く人の顔や名前を覚えるのは苦手ですが、その時の花屋さんの困った顔と私が注文した新聞紙にくるんだ花を渡した手の形を覚えています。多分その花屋さんにとっては上客だったと思います。花を愛する人に悪い人はいないとは言いますものの……ね。
私はこの話を母に話しませんでした。母も結構プライドが高いので、それを言ったら気分が悪いと言って花を捨てるかもしれないと感じたのです。いじめられっこと同じ心理でそんな嫌な目にあったら、なかったことにしようとおもいました。相手は他人ですし言葉で言われただけならば、心の持ちようで痛みを感じないようにすることはできますから。
しかし現在の私はその例のおばさんの年になっていますが、小学生のお使いに来た子供に向かってよく言ったなあ、一体どういう反応を期待していたのだろうと思います。
単なる無神経からきていたのだろうか。
あと逆マウンティングもありました。
ある大きなイベントのお会計で並んでいたらお互いの赤ちゃんの手が触れた。相手の子供は愛想がよくて笑顔がすごくいい。思わず可愛いですねと言ったら、相手のお母さんがすごく悲しそうな顔になって
「でもこの子は正常じゃないのです……」
いきなり病気の話。そこには他の人もいっぱい、います。笑顔で当のお母さんの顔を見上げている赤ちゃんが不憫でなりませんでした。私の子供を見てそっちはいいわねえ、とまで言う。
心配のあまりにしては表情も暗すぎて今にも泣きそう。その赤ちゃんはまだお母さんの言葉が理解できませんが、これはあまりに惨いと思いました。
しかし私もこういう大勢が出入りする場所では、その場限りの定番のことをいうしかありません。
「大丈夫ですよ、お医者さんを信じて」 と励ましたが、お母さんの表情がはれません。私ももうちょっと話を聞いてあげたらなんとかなっただろうか……いや、これも余計なお世話でしょう。
私よりずっと若いお母さんでしたが、あの親子はどうしているのだろうと今も気にしています。病気ってあって当たり前、なんとかなるって。私がそうだったからさー……でも私の母も問題だったからこれも難しいことかもな。
毎年三月になってお花屋さんで、桃の花と菜の花のセットを見かけるごとに思い出してしまうので文章にしてみました。それと私は 「病気はイコール大変な不幸、不運で前世の己や先祖の過去の仕業からくる因縁、怨念、復讐の念によって苦しむべき、苦しんでいる等の思考」 は、早く根絶してほしいと思っています。