第二十六話・お見合いの話
お見合いには打算がつきものです。恋愛でもある程度の打算というものが働きますが、それは双方とも一生がかかっているので仕方がないと思います。だからこそ純愛が創作とわかっても憧れるのでしょう。見合いは、偶然の恋愛よりも親族や財産状況が予めわかっていて、将来の予測がつきやすく合理的だということにあります。家柄が良いとされる人はつり合いも考えるので大変そうです。今回はその話。仲人さんがいる見合いについての話です。
正式なお見合いには釣書というものがあります。「つりしょ」、もしくは「つりがき」 と読みます。写真付き。これで最初から相手の兄弟の有無や学歴、資格などがわかります。両親の学歴、趣味などもあらかじめ分かったうえでお見合いの席に臨みますので合理的といえば大変合理的です。家柄や格を重視するような人間には適齢期になると、頼まなくても「こちらの人にはこちらの方がつり合います」 ともってくるらしいです。
私の実家はまったくもって庶民でしたが、世話好きの人がいまして、私に釣り合わぬいわゆる資産家の人とも見合いをしました。しかも私はこれを二十台後半から三十代前半まで何度かさせられました。私の容姿は不美人の範疇に入ります。だから容姿がよいとかではない。世話好きな親戚の人脈です。私自身が恋愛には奥手で恋人がなかなか見つけられないというのもありました。
その中で印象的な話を書いてみます。ある資産家の息子さん、Hさんとします。Hさんは次男でしたが、どう考えても絶対に釣り合わないのに、世話人が見合いを強硬し? 結果、意外にも私を気に入ってくださいました。家にメイドさんがいるような家の人です。私はとても不思議でした。それで「私は普通の庶民の娘なのにどうしてですか」 と聞きました。するとHさんは、
「俗にいうお嬢様とはよく会うが、見合いに来る人は何も考えていない人が多すぎる。おもしろくない」 といいます。
……私だとおもしろいのか? と思いますがたぶん私が医療職なのでめずらしかったのだと思います。Hさんの車は普通車でしたが、別の見合いでHさんは初対面のお嬢さんから 「◎◎の息子さんならばせめてベンツぐらい乗らないと」 と言われたこともあったそうです。
「あ~、それはイヤな女ですね」 、と私が言い返すと「そういうところがよい」 と言われました。他人からそういう人であるべき、と言われたり決めつけをされるとプライドが許さないという感じかな。
しかし私が断りました。Hさんがお金があって当たり前の家に育っているのがわかるにつれて、お金に対する思考がまったく私と違うのがわかり、一緒に暮らせる自信がなくなったからです。それは彼もわかってきているはずです。その上、Hさんはサラリーマンを馬鹿にする発言が非常に多かったのです。
一生涯、自分のものにならない会社に月々でいくばくかのお金で雇われる人生なんて信じられないっていいます。サラリーマンの娘で悪かったな~……私は彼のような思考の人間を、自分向きに改築、違った、教育する心の余裕はありません。
自分が立身出世で培えた立場でなく、たまたま努力ゼロでセレブな家に生まれてきたというだけでそんな言い方ってある? 私は庶民でよかったと思ってるよ。思考は自由ですが一緒に暮らすとなると、あうあわないはどうしてもあります。
Hさんは◎家の息子だというだけで、変な媚びを売ってくるオンナが嫌いだったようですが、サラリーマンで身を粉にして働く人がいてこそ会社としての機能が備わる。それを馬鹿にするなんて……そういう思考でいくならば、資産家の息子という立ち位置を前面に出して同じような環境の女性と割り切ってつきあわないと幸せになれないと思っています。
つまり「ベンツぐらい乗らないと」 とサラリといえるお嬢さんと一緒になった方が幸せになれると思うのです。家柄の家格を重視するならばそれなりの美意識があるはずなので……私はそういうのが無縁の家に育っているので気楽ですけどね。お金持ちは体面というものがあるので大変だと思います。
先の第十八話(虎の威を借りるいわゆるエライ人の子ども) で、セレブや地位ある人よりもその周りにいる人で特権を利用したがる人がいると書きましたが。彼もまた同類とは言わぬまでもその亜種だと思っています。
見合いに関してはどうしてこんな立派な人が私に? と思っていたら相手の両親がご病気で「医療職だったら誰でもよかった」 という状況だったりしたこともあります。これも家柄自慢する男だったので断りました。
① 己の努力でもない地位やお金を十分に持っている人で
② 四十才以上で
③ 親の言いつけで見合いに来る人は、
⇒⇒⇒ 生育環境や思考でどこか歪なところがあります。たまたま私だけがそういう人物にあたっただけかもしれませんが。
私は相手方から利用される結婚よりも貧乏でも穏やかに暮らしたい。結果田舎住まいで高卒で長男……という男性と結婚してしまっていますが、後悔はありません。田舎暮らしを始めて仰天したこともむかつくこともいっぱいありますが、これも運命でしょう。以上昔の見合いの思い出話です。見合いは結局は打算です。双方に有利な縁談、釣り合う相手を世間一般的に手っ取り早く見つけたいご家庭にとっては都合のよいシステムになっていると思います。
私にはそういうのには縁がありませんでした。知人に見合いでうまくいった人がいますので私は例外です。とことんお金には縁がない人生だなあと思いますが、まあいいか。