第十五話・オレオレ詐欺の標的
実家には実母が一人暮らしをしていますので、時々様子を見に行っています。要支援の認定をもらっているのですが、デイケアをすすめても絶対に行くもんか、と踏ん張る母です。一体デイケアのどこがイヤなの? という私。足腰が弱っているので万一の時にすぐに対応してくれるデイケアに行ってほしいのです。安否もわかるし……てか、行ってくれ。私は仕事の一環でデイケア中の施設にも行くけど楽しそうだよと誘いますが母は口をへの字にして、「なんとなくイヤ」 ですます。
この「なんとなくイヤ」 がクセモノ……母は赤ちゃんではなく頑固なおばあちゃんです。でもおばあちゃん扱いすると怒るしお手上げです。
さてそんな母の元に某警察署からある日一通の封書が来ました。
「なんかヘンなのがきてたから代わりに読んで」
「はいはい……」
警察からのお手紙の要約⇒⇒ 某オレオレ詐欺で逮捕された一派からの押収物の中に名簿があった。その中に母の名前や住所、電話番号と生年月日があったので注意してね。
私の母はオレオレ詐欺師の犯人から狙われていた!
警察からは引き続き見知らぬ人からの連絡は注意をしましょう、と呼びかけていて終わりです。警察の生活安全課様、お仕事ご苦労様です。しかし、こんな封書で私の母の注意喚起できると思うのは甘いです。母は、自称信仰深い善人で、ちょっとだけ霊感があるという人です。霊感占い師の某に傾倒してお金を貢いだ履歴があります。
母は警察からの手紙を読み上げる私に言いました。
「あら、私はしっかりしているから、絶対にだまされないわよ」
「そういう人に限ってだまされるので注意してよ」 と私。
「オレオレ詐欺ってコワイわね~でもナンバーデイスプレイに変えてから知らない番号に出ないようにしているから大丈夫よ」
「……」
娘の私が実家にいってすることの一つが日中一人でいる母の電話の着信履歴を見ることです。特に0120から始まる番号にはメモに控えてその場で電話番号検索します。あやしいものは着信拒否します。090、080、070で検索しても金融商品、不動産売買勧誘、その他クレームがたくさん書かれているのにヒットすることがあってこれも着信拒否。私の母は狙われているのです! 私は電話番号検索の運営サイト様と怪しい電話の口コミを書いてくださる方には感謝します。私たちのような子羊は金持ちでもなんでもないのに、ただ取りやすそうという理由で狙われるのです。詐欺師用の名簿に名前が載ってるのは嬉しくない。
母に聞いてみると「あやしい電話は忙しいと断るから大丈夫。でも最近しつこい電話があって切らせてもらえないの」 という。私は重ねて警戒するように言ってました。
とうとう私は実家にいるときに実際に怪しい電話に出ることがありました。その時は固定電話番号だったので取ってしまいました。私が。
そして私と私の母の声はそっくりです。ちょっと声がおばあちゃんぽいのでよけいです。ここまで前提。
「こんにちは~◎◎さんですね? 私です。どうも久しぶりでえす。何かお困りのことがないかと電話してみましたあ~」
……誰よ? 母のフルネーム、なれなれしい言葉遣い……。名前を名乗らず私ですって? オレオレ詐欺の女性版?
私 ⇒ 「もしもし、あなたはどちら様ですか?」
業者女 ⇒ 「ああ、△社のものです。お困りの不用品などはないかと思って電話しました。なんでも引き取りますよ」
私 ⇒ 「では廃品回収業者さんなの?」
業者女 ⇒ 「それもしていますよ」
……それもしています? ……おもいっきり怪しいっ。
私 ⇒ 「我が家では、いいです。忙しいから切りますね?」
業者女 ⇒ 「こちらはボランティアもやっているのですが」
私 ⇒ 「いいから切りますね」
業者女 ⇒ 「一人暮らしではいろいろとお困りかと」
これだ、これっ!
母のいうなかなか電話をきらせてもらえない女に当たった。母の個人情報もつかんでいるようだ。腹がたってきたが、下手に怒らせるとマズイ。相手は母の個人情報をつかんでいる。
私 ⇒ 「すみません。本当に今は忙しいので切りますね」
業者女 ⇒ 「またまたそんな言い方をしていいのですか?」
文面だとわかりにくいですが、すごくなれなれしい言い方です。老人向けに大きな声そしてはっきりとした語尾、親し気な感じも与えるが私はその明るい声が不気味でした。廃品回収かと思えばボランティアだというし、これではだまされる人もいるでしょう。
多分警察署のいう名簿を見てかけてきたのだろう。
彼女の目的は家に来ることでした。親切心に見せかけていますが思い切りあやしい。しかも私が面倒そうにいっているのも、わかるわよ、と上から目線というかおもしろがっているというか、そんな感じ。
住所も知っているので、家の中にあがりこむこともできるのです。彼女らはおそらく一人暮らしの老人名簿を購入し、親切を装った電話をかけ続けているのでしょう。一人暮らしで認知症気味の人に電話に出てもらえば「大当たり」 です。悪意を持っている人々にとってはね。
家に上がり込んで当人に会えばどういう人かわかる。家の中にあがらせてもらえると、どういう育ちをしているか、どういう経済状態かもわかる。時には資産内容もわかる。
私は腹立ちを押えて下手に出ます。
「すみませんねえ、私は◎◎ではなく、その娘でこのたび実家に母と一緒に暮らすことにしたのです。ですので母に電話するのはやめてもらえますか?」
……というといきなり電話を切られました。
もちろん着信拒否しましたが、戸締りも厳重にするように母に注意をしました。大変に困ったことです。こうしている間もその馴れ馴れしい女は一人暮らしの寂しがり屋のおじいさんおばあさんに電話をしているかと思います。
こういう親切を装う悪意ある人々は残念ながら昔からいました。私たちのような子羊が若い時から働いて貯めた財産を食べて太る人々でもあります。もうこれは自衛するしかないです。事件になって警察のお世話になっても元に戻るわけでもないし、人生の最後に悪意ある人々の餌食になりたくなかったら家族の自衛しかない。大変に困ったことです。
◎◎◎ 第十五話のまとめ 悪意ある人々にもやっぱりつながりがあって、母の名前などの個人情報が詰まった名簿も出回る……困ったことです。本当に困ります。
犯罪者は、罪の意識が薄いからこそできると思いますが、それはなぜか? と考えてみれば結局善悪を教えてもらえない環境にあったか、社会全般に恨みを持つにいたる心的外傷があったかなどと考えてしまいます。できましたら一度限りの人生、そういうのはナシにしてくださったらと思っています。同じ世の中の空気を吸っているよしみで書きましたが……私だと効果ないだろう……でも年寄りの無知と善意を利用してラクしてお金とっても……何よりも人としてダメだと思うよ…… ◎◎◎




