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第十一話・バベルの塔

 神話時代の話。旧約聖書に創生記が納められています。私の大好きな物語集。

 その一つに、人間が神よりも偉いと増長して、天よりも高いバベルの塔を作った話があります。神は人間の思い上がりを怒りました。


 ……元々人間は一つの民で、同じ言葉を話している。だからこういうことをする。私は人間の言葉を乱してやろう。彼らが互いに相手の言葉を理解できなくなるように……


 そういうわけで神の怒りにより、バベルの塔は一瞬で崩れました。同時に人々は互いの言葉が通じなくなってしまい、混乱し、塔の建設どころではなくなってしまいます。そして同じ言葉を話す人間同士が固まって各地に散らばってしまいました。

 人間の言語が別れてしまった結果、国ができたのです。国というものの概念の始まりがこの神話で見て取れます。


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 あるとき私は一人旅をしました。某国とします。土地勘がない所だったのでバスツアーに参加しました。そこでは日本人は私一人でした。以下、国籍や地名を書くと余計話がややこしくなるのがイヤなので、全く関係のないイニシャルを便宜上使います。

 バス内では私は乗り込むのが遅れ、発車直前でした。席は一つしか空いてませんでした。α人だという日本語ペラペラの男性がスーツ姿で私の斜め前にいました。αさんとします。私の横はβ人だというまったく言葉の通じない男性です。βさんとします。二メートル近い大男でした。席がそこしか空いていず、私はβさんの横かつ通路側に座りました。αさんが振り返って私を見ます。私は日本人だと思って「日本人ですね?」 と間の抜けた質問を日本語で言いました。αさんは苦笑して「君は日本人なんだろ、僕はα人だよ。でも日本人と一緒に東京で働いていたよ」 と言いました。

 その日本語はとてもきれいで流暢でした。私は「それで日本語がお上手なんですね」 と褒めました。ついで日本が好きですか、と聞きました。初対面の外国人に対する儀礼的な質問で本当になんの意図もなかったです。私はαさんが「日本が好きです」 という返答がかえってくることを疑いもしませんでした。

 しかしαさんは「日本人はα人が嫌いだろ? ぼくは嫌な思いをした」 というのです。私は驚きました。私の顔をみてαさんは苦笑していました。αさんは超有名な会社に在籍していたのですが、α人というだけで仕事に支障があったそうです。それで日本で働くのをやめて帰国する前に旅行するつもりだったそうです。

 αさんはマルチリンガルで日本語も日本人と間違えるぐらいに上手で頭のいい人には違いないのに、α人というだけで嫌な思いをさせたのはその会社は間違えたと思いました。反日のα人を一人作っちゃったわけです。相手方の言い分は聞いていないので真相不明ですが仕事関連で国と日本でのしきたりが違ってすれ違いになってしまった例かもしれません。αさんの思い違いの可能性もありますが残念なことです。逆パターンでα国に留学や就職した日本人が嫌な思いをすることも多いのでこれも残念なことです。

 αさんは旅行に来ているのに、過去話をするまでもないと思って早々に話を打ち切りました。私もそうです。αさんは男性ゆえかカジノで遊んで勝ったらクルーザーを買って海を乗り回すつもりだったそうですが、負けたのでこんな観光バスだよと自嘲気味におっしゃいました。これは金持ちの発想です……私は貧乏だったのでこのバスに乗車すること自体が贅沢旅行なんですよと言い返しました。日本語でしゃべる相手は楽ちんです。しかしα国と日本の溝を某国のバスの中で感じるとは思いませんでした。


 そしてβさん。私が日本人だとへたくそな英語でいうと、βさんの英語もへたくそでした。でもなんとか会話はできるものです。βさんは「日本人の女性と話すのは初めてでうれしい」 と喜んでくれました。そして握手を求められました。ものすごく大きな手でした。一枚の大きな布をかぶったような男性用ワンピース? を着用されています。そして大きな頭にちょこんと乗った小さな帽子。その帽子が細やかなレースでできているのに驚いたものです。なんでも直に見た方がわかるってことはありますね。

 私と行動を共にしていたβさんはよいエスコートぶりでした。男性からはモテない私はくすぐったい思いでいました。本来ならばカメラを持って入場すると、追加でお金を取られるところでも、βさんと一緒ならば取られませんでした。しつこい土産物売りもよりつきません。モーゼの海割りみたい。物売りやその国の人たちがあきらかにβさんを避けて歩き、遠巻きにして眺めるのです。私は透明人間になったかのようでした。βさんがその某国では珍しい真っ黒系の黒人であったことと、大男で目がすごく大きくて怖い風貌であったからと思っています。外観で人の態度が変わることを目のあたりにした貴重な経験です。

 βさんは「日本人の女性」 と一緒に歩くということに希少価値を見出したようでとても丁寧に接してくださって嬉しく光栄に思いました。

 私はいつでも上機嫌で笑顔でいるものだから、βさんは気があると思われたのか、ツアーが終わるにつれて手を握ってきたりするようになりました。αさんはそれを見て笑っていました。αさんはこの道中、私たちのことをすごく面白がっていました。

「ねえ君、この人は多分たくさん奥さんをもっているよ。君は何番目かのお嫁さんにされるかもね」 というぐらいです。まさか、この人、ただの痴漢だろ、と思っていたら本当にツアー先に連れて行かれたお土産の宝石屋さんでネックレスと指輪をもらいました。いらないと返したらβさんがとても哀しそうな顔をしました。するとαさんが横から「もらっておきなさい。それ以上のことはないから思い出にしなさい」 というので、もらいました。βさんからはホテル名を聞かれたので嘘を言いました。αさんともβさんとも、それっきりです。

 宝石屋で売っていたといっても、けばけばしいデザインで日本ではつけられない。引っ越しなどでどこかへ行ってしまいましたが、奇妙な思い出になっています。

 出会ってその場で結婚を承諾して、外国暮らし、まるで小説のような話ですが、実際に私の身の上にふりかかるとは思いませんでした。もしそれに承知していたら私はどうしているでしょうか。でも私は海外旅行は好きですが日本が好きなので、これからも日本で暮らすつもりです。

 β国に関しては昔から内戦があり、それがもっと激しくなりました。私は心配になってもらった名刺の住所に手紙を送りましたが、返事はきませんでした。βさんは戦火にあい、家をなくして引っ越しをしたかもしれないと思っています。



◎◎◎ 第十一話のまとめ ⇒ 国籍がからむ話は炎上しても困るので思い出話にしました ♡ ◎◎◎

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