プロローグ1 「2016年」
1992年、ある2つの論文が発表された。
1つ目は、「八百万の神の存在証明」
ある日本人の大学教授が物理的なアプローチから、八百万の神の存在を立証したらしい。
しかし、あまりにも難しい内容であるため、分かる人には分かるようだが、凡人には理解できず、立証できたからといって、一般人には可視できないので、人々は今まで通りの生活を送っている。
外国人も「Yaoyorozu」として、その存在は認めつつも、今まで通り各々の宗教を信じている。
2つ目は、「先天性四大性質の発見」
それぞれをわかりやすく火・地・風・水と名付けられた四大性質のうち、いずれか1つを生まれ持っているというものだ。
これは、日本とイギリスの合同研究チームが化学的なアプローチから発見したらしい。
「性質」の発見により、向き不向きや好き嫌い、性格など、今まで一概に説明しにくかったさまざまな傾向が、かなり正確に算出できるようになった。
また、論文には、自分の「性質」を調べる性質検査の方法も記載されたいた。性質検査は、DNA検査と心理検査を組み合わた至ってシンプルな検査で、日本では、すぐに性質検査を受診することが義務付けられた。
2016年、人々の生活は「性質」にすっかり支配されてしまった。
原宿の女子高生は――
「ウチの彼氏、<地>なんだよね」
「えー、いいじゃん<地>!」
「ウザいだけだよ。超ガンコだし。顔だけで選んだけど、そもそもウチ<火>じゃん?合うわけないんだよね」
「え、私<水>なんだけど。私に紹介してよ!」
「全然いいよ」
「性質」による相性の良し悪しは、論文に書かれてあった。
当たり前のように、「性質」は女子高生のボーイフレンド選びにおいて重要要素の1つになっていた。
婚期が近い息子を持つ母親は――
「あんた、<水>なんだから、<火>か<風>の人と結婚して、<風>の子産みなさいよ?」
「やだよ、俺は堅実な<地>の子が欲しいんだよ」
「あらやだ、<地>なんて愛想のない子。私は、お父さんで<地>の人はもうこりごりだわ」
確かに、子の「性質」は父母の影響を受けるといわれている。しかし、実際のところはもっと複雑であり、性質検査を受けるまでは正式に分からない。
人々はそれを分かっていても、「性質」を結婚相手を選ぶ際に欠かせない要素として認識している。
面接中の就活生は――
「私がこの会社に入って成し遂げたいこ…」
「ちょっと待って。君、<火>だよね?」
「はい!」
「ごめんね、うちの会社はコミュニケーション能力の高い<風>しかとらないんだよ。」
「お願いします!どうしても、この会社に入りたいんです。あ、外国語も話せます!スペインには3年間留…」
「はぁ、これだから<火>の人は。」
「暑苦しくアピールされても、困るんだよね。」
「<火>の人は自分のことしか考えてないからな。」
理不尽な光景ではない。当然の光景だ。
むしろ、夢を追っている若者が珍しい。自分の「性質」には合わないと夢を諦める、あるいはそもそも夢を持たない若者の方が圧倒的に多数派だ。
一人の少年は、そんな2016年に心からうんざりしていた。